魔族を召喚する魔法陣を利用されると、侵入者対策が出来ないなぁ。
現に、こうして扉の魔石に登録していないルシファーの父親が庭にいるし……。
魔族なら誰でも、家に入りたい放題になってしまう。
突然、魔王がきたらどうしよう?
魔族だからといって、敵対する関係じゃないけど……。
防犯対策にしばし頭を悩ませつつ、ルシファーの父親へ挨拶をした。
「こんにちは、今日はどうされたんですか?」
「あぁ、勝手に入ってすまない。息子の件で話がしたかったんだ」
一応、侵入したのを悪いとは思っているらしい。
いつからいたのか分からないけど、子供達がいない時で良かった。
突然、知らない人物が庭に現れたら驚くだろう。
庭で立ち話をするわけにもいかず、家の中へ入ってもらった。
仕切りのないワンフロアーの1階を見て、彼が目を白黒させている。
「この家は、随分と変わった造りをしてるな。城でもないのに高い塀があったし……」
10mある塀に関しては、子供達の防音対策に商業ギルドのカマラさんが付けてくれた物だ。
1階がワンフロアーなのは、収容人数が多いためだけどね。
「来客が多いから、広くしてあるんですよ」
ガーグ老が作製した貴族仕様の椅子とテーブルを出し、父親に座ってもらう。
話が長くなるかも知れないと、紅茶を淹れマドレーヌを出した。
すると、彼はそれを見て顔を引き攣らせる。
「済まないが、この世界で顕現する体には飲食が不要なんだ」
そう言って口をつけようとしない。
これは、息子から雫ちゃんのお母さんの料理を食べた感想を聞いてるのかも?
「大丈夫ですよ。刺激的な味ではありませんから、どうぞ食べてみて下さい」
私に勧められ、それ以上断るのは失礼にあたると思った父親は、意を決したように紅茶を一口飲みマドレーヌを口にした。
「……美味しい。息子の味覚が、おかしいのか?」
いや、それは間違ってないと思いますよ。
罰ゲームのような、雫ちゃんのお母さんの料理でなければ……。
「口に合って良かったです」
契約するため食べさせられた料理の件には触れず、私はニッコリ笑っておいた。
息子が虐待されていると勘違いしては困る。
「今日は、息子を鍛えてくれたお礼を言いにきた。妻を早くに失くし、甘やかして育てたため息子は世間知らずで、少々身勝手な性格になり困っていたんだよ。初めて契約をする時も、自分の力を過信し内容を把握せず受けてしまったしな。姫が根性を叩き直してくれ助かった。見る見るうちに体格も良くなり感心していたところなんだが、一体何をさせていたんだ?」
「ええっと、主に筋トレです」
体格が良くなったのは、武闘派組のお陰で間違いない。
「息子が文句も言わず、筋トレをするとは……。余程、貴女に好かれたいらしい。ところで魅惑魔法は、いつ解除して下さるのか?」
問いかけられた樹おじさんが、一瞬うっと言葉を詰まらせた。
「既に解除済みです。でも息子さんは、私の容姿が気に入ったみたいですね」
その後、しれっと嘘を吐く。
聞いた父が呆れた表情をし、おじさんの脇腹を抓っていた。
「まぁ、姫のように美しいなら息子も惚れるでしょうね。きっぱり、振って構いません。いつまでも夢を見ているわけにはいかないでしょうし、迷惑を掛けるのも忍びない。それはそうと、息子の名前が変わっているのは何故でしょう?」
あ~、もしかして父親は人物鑑定持ちなのか……。
ステータスを見られたなら、誤魔化しようがないな。
両親が付けた名前が変わっていたら、気分が悪いだろう。
「それは……。ルシファーの方が良い名前だと思い、呼んでみたんです」
「はっ? 名前を呼んだだけで? ……もしや貴女様は」
何かを言おうとしていた彼を遮り、樹おじさんが話し出す。
「秘密にして下さいね!」
「はい、承知致しました。息子は運がいい。滅多に会えない御方に男爵から侯爵まで上げてもらうとは……、本当に何とお礼を言っていいか」
「こちらも丁度、契約したい内容があったのでお気になさらず。それに、頑張ったのは息子さんですから。沢山の契約を熟すのは結構大変だったと思いますよ」
「あぁ、簡単な依頼ばかりではなく難しかったと言っておりました。特に2本の縄を使ったものは、出来なかったと悔しそうに嘆いてましたが……。私も挑戦してよろしいでしょうか?」
改まった口調に変化した父親は、大縄跳びがしてみたいと言う。
あれは誰でも出来るものじゃないから、どうしよう?
父の顔を見ると頷かれたので、2本の大縄を出した。
父とセイさんに大縄を渡し、2人が回し始めたところを茜と樹おじさんが中に入り跳んでみせる。
一見、簡単そうに見える競技だけど私には出来ない。
茜達が跳んだあとに、ダイアンとアーサー達が続く。
従魔達は反射神経が発達しているから、楽しそうに跳んでいた。
そわそわしているシルバーへGoサインを出すと、仲良く一緒に跳び始める。
遊ぶのも嬉しいんだろう。
従魔達が縄から出ていくと、ルシファーの父親が中に入り縄に足元をすくわれ思いっ切り転倒した。
当然の結果に、私は何と言葉を掛けて良いのか困ってしまう。
「これは、確かに難しいですね。息子も出来なかった筈です」
こけたのを恥ずかしそうにしながら、彼は挑戦させてくれた事に礼を言う。
きっと、息子が何をさせられていたか不安だったんだろうな。
ルシファーの爵位が侯爵になっても自分の爵位を上げたいと言わないので、父親はもっと上の階級なのかと思い尋ねてみた。
「申し遅れました。私はシリル・モントリオール。魔界の北東を束ねる魔王です」
「魔王!?」
いやいや、魔族の親玉じゃん!! 既に、魔王が家に来てるよ。
聞くところによると魔王は1人ではなく東西南北に大魔王が4人いて、間に北東・南東・南西・北西の魔王が4人いるそうだ。
ルシファーは、魔王の息子だったのか……。
どうりで、最初会った時に尊大な態度を取っていたわけね。
まぁ実力が比例していないから、あっさり倒されてたけど。
ただ、魔王の地位は世襲制ではなく魔界は完全な実力社会らしい。
今回ルシファーに依頼した巫女の奪還に、もし巫女を護衛している他の魔族がいたらどうなるか質問すると、爵位が高い方の依頼を優先させるそうだ。
魔族同士で無益な争いはしないみたいで、利益相反になる事はない。
その際は、お互いのステータスを見えるようにして爵位の確認をすると知り、そんな方法があるんだと驚く。
そのため魔族は、ステータス偽造するのを末代までの恥だと考えているようだ。
お互いのステータスを見せ合い、マウントを取るのか……。
本当に爵位が全ての社会で無駄がない。
逆に言えば、弱い者の立場は一生低いままだろう。
爵位が低い内は召喚された相手と契約を交わし、せっせと魔力を上げるしかないんだろうな。
Lvを上げた時の基礎値が固定される件は知っているんだろうか?
最後に、もう一度深々と頭を下げルシファーの父親は異界へ帰っていった。
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