【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第539話 椎名 響 15 ガーグ老との再会 1

公開日時: 2023年9月7日(木) 12:05
更新日時: 2023年12月29日(金) 22:12
文字数:3,104

 翌日の早朝。

 全員で異世界にある沙良の家へ移転する。

 そこで妻がテイムしたシルバーウルフのボブを、しずくちゃんと結花ゆかさんへ紹介していた。

 結花さんはボブの名前に絶句していたようだが……。


 今日初めて、サラがテイムしたシルバーウルフと迷宮タイガーを見せてもらった。

 俺は毛色の違うシルバーウルフに首をかしげる。


「沙良、お前のテイムしたシルバーウルフは黄金色をしているようだが……。特殊個体なのか?」


「違うよ。シルバーは、お願いしたらゴールデン・・・・・ウルフに進化してくれたの! うちの子はすごく優秀なんだよ~」


「テイムした魔物が、ゴールデン・・・・・ウルフに進化しただと!?」


 沙良からの返事を聞き、思わず声を上げてしまった。

 従魔が進化するなんて聞いた事もないぞ?


「テイム魔法に、そんな事が可能なのか……?」


 それとも、魅了魔法でテイムされた従魔は違うのだろうか?

 あぁ、またひとつ厄介やっかい事の種が増えた気がする。

 昨日、何もないと言っていたが絶対違うな……。


 しばらくすると、沙良が経営している『肉うどん店』の従業員達がやってきた。

 母子で路上生活をしていた母親達を、住み込みで雇ったそうだ。

 異世界で主食を変更した料理店を出すとは……。

 娘は、かなりチャレンジャーだなぁ。


 他にも冒険者が出来なくなった高齢者を、『製麺店』の従業員とし雇っているらしい。 

 ダンジョンがある町では、どうしても魔物との戦闘で身体を欠損する冒険者が多く出る。

 俺が国王時代やれたのは、せいぜい教会に週1回の炊き出しを義務化させた事だけだった。


 娘は個人的に支援をほどこしていたのか……。

 その代わり孤児になった子供達は、教会の孤児院と領主へ支援するよう徹底させた。

 なのに……。

 その後、沙良の家を訪れた子供達の数は予想を大きく上回っており、俺の死後その政策が崩れたのを示していた。


「沙良、今はカルドサリ王国暦何年なんだ?」


「確か、カーランド王朝863年だったと思うよ」


「300年か……」


 それ程の月日が経っていたとは……。

 樹がティーナを産み、日本へ戻ってから300年。

 異世界と地球の時間のズレは今回もあるらしい。


 俺がこの世界からいなくなり150年も過ぎていれば、国王が何代も代わっているだろう。

 俺の政策は、後を継いだ弟の孫に受け継がれただろうか?

 せめて王領である王都だけは、王族からの支援が届いてほしい。

 この国の王であった俺が、結果を残せなかったのが悔やまれる。


 あれ程、領主達へ子供達は国の未来だと伝えておいたのにな。

 やはり貴族優位な体制は、150年後も変わらないのか……。

 ただ子供達の姿を見ると孤児にはとても思えない。

 全員が柄違いのポンチョを着て、首には暖かそうな物を巻き耳当てをしていたからだ。

 ダンジョンでの治療代を家の購入資金に充て、路上生活者の子供達に与えたらしい。


 沙良が俺達を紹介すると、子供達は行儀よく頭を下げ挨拶をしてくれた。

 顔色も良いし健康的に育っている。

 昔、俺が視察した孤児の姿とは大違いだった。

 これが、娘がした結果なら親として誇りに思う。


 沙良はうっかりした所や思い込みが激しく勘違いはなはだしいが、子供達が大好きだ。

 その割には、結婚しようとしなかったが……。

 誰か想いを寄せている人物でもいたのか?

 俺達の子供は茜以外、全員独身だ。


 いや賢也けんや尚人なおと君と結婚式を挙げたらしいが、あれはまぁ……。

 きっと双子達は雫ちゃんが忘れられないんだろう。

 召喚後に、どちらかと結婚してくれないものか。

 俺達は一体、孫をいつ抱けるんだろうなぁ。

 皆が若返ってしまったら、また先の話になるかも知れん。

 

 炊き出しの食事を終えた子供達の帰る姿を見送ると、家具職人の工房へ歩いて移動する。

 工房の門を開け中に入った瞬間、目に映った人物を見て俺は愕然がくぜんとなった。


「……家具職人は無理があるだろう」


 つい小さな声をこぼしてしまう程、衝撃を受ける。

 そこには300年前と何ひとつ変わらぬ姿をした、ガーグ老と影衆達がいた……。

 これはまずい!


 ここで、カルドサリ国王とバレたら一巻の終わりだ。

 長年、妻に秘密にしてきた事がバレてしまうじゃないか。

 俺は背中へ嫌な汗を大量にかきながら、娘とガーグ老の遣り取りを見守った。


「こんにちは。今日から私の両親と旭の2人も、よろしくお願いします」


「サラ……ちゃん、ようきたな。儂もご両親殿にお会いしたかった。ガーグと呼んで下され」


 俺は今の姿が別人であるから平静を装い、挨拶をしようと一歩前へ出た。

 口を開こうとした瞬間に、いつきの従魔であった白ふくろうの『ポチ』と『タマ』が空から滑空かっくうして俺の両肩に止まる。

 あぁ終わった……。


 ガーグ老へ権限を移譲された従魔達は、主人のLvに依存しテイム魔法も上がっているだろう。

 Lv70だった樹より、ガーグ老の方が確実にLvが高いはずだ。

 当然、念話も可能だから魔力を感じて俺を発見した2匹から報告が入っているに違いない。


「ぽ……っちゃりとした可愛い白ふくろうだな」


 俺は観念して、なつく2匹に声を掛けようとし途中で言葉を変える。

 危ない、つい名前を呼ぶ所だった。 


「姫様の剣を持って参れ!」 

 

 案の定、2匹から念話を受けたガーグ老が俺を確認しようと行動を始めたようだ。

 指示された影衆の1人が、工房へと駆け出していく。

 数分も待たず戻ってきた彼の手には、一振りの剣が収められている。

 それをガーグ老が受け取り、懐かしそうに口を開いた。


「この剣は、儂がお仕えしていた方の形見の品である。姫様がドワーフの名匠シュウゲンに打ってもらった物だ。父親殿は剣の腕に覚えがありそうだでな。帯剣しているなまくらでは、儂の剣と一合も保つまい。この剣を貸して進ぜようぞ。早速さっそくだが、手合わせ願おう!」


 樹の宝剣であった剣は、確か俺と同じバール氏の物であったが……。

 何故なぜ、シュウゲンの作に変わっているのか不思議だった。

 俺の反応を見るための嘘だろうか?

 しかし、ここは受けねば引くまい。

 俺は差し出された剣を受け取り、一応手加減してほしいと伝えた。


「ご老人。俺も本気で剣を振るうのは随分ずいぶん久し振りになる。どうか、お手柔らかに頼む」


「なに、謙遜けんそんするでない。見たところ腕は鈍っておらぬようだ」


 まぁ、言っても意味はなかったようだ。

 ガーグ老は、俺を見てニヤリと笑う。

 こりゃ完全にバレてるな。


 真剣を使用した仕合に表情を改め、渡された剣を一振りして感覚を確かめる。

 それは、樹の剣にしては少し重いような気がした。

 丁度、俺の愛剣に近い重さだ。


「それでは、お相手しましょう」


 口にするなり、ガーグ老へと足を踏み出す。

 その後、幾度も剣戟けんげきを交わしガーグ老は確信したようだ。

 剣術には癖が出るから仕方ない。

 俺の剣は、宰相の息子であった騎士団長から習ったものだからな。


 あの頃――。

 周囲に味方はおらず、唯一信頼出来るのは国をうれいていた宰相側の人間だけだった。

 あれから150年も経っていれば、知り合いは誰もいないと思っていたが……。


 まさかガーグ老他、影衆達が全員生きてカルドサリ王国にいるとは驚きだ。

 エルフは本当に長命な種族らしい。

 もう1,000歳を超えているんじゃないか?

 唐突に終わった仕合後、一礼し借りた剣を返そうとするとガーグ老が首を横に振る。


「いや、その剣は父親殿が持っていてくだされ。これから娘さんのために必要になるだろうて」


 あぁ、沙良の姿を見てヒルダの娘だと思い警護をしているんだな。

 これは後で話し合う必要がありそうだ。


「それはありがたい。購入した剣では、少々不安を覚えていた所だ」


 沙良が買ってくれた剣では、申し訳ないが俺の技量が充分に発揮されない。

 これから家族を守るためには、やはり自分に合った得物えものが必要だろう。

 俺はガーグ老の提案を素直に受け、樹の剣・・・だという形見を貸してもらう事にした。

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