獣人はエルフの国がある中央大陸に住んでいる。
カルドサリ王国がある西大陸とは海を隔てた場所だ。
世界樹の精霊王と親交がある白狼族は精霊の森に入れるから、俺は何度か族長とその娘であるゼリア様にお会いする機会があった。
「あぁ、懐かしい気配がするね。エルフの王女様、王と一緒に生きていなさったか。して、その姿はどうした事じゃ」
魔力を読み取りヒルダと気付いたのだろう。
ここには響しかいないから、隠す必要もないか……。
「ゼリア様、ご無沙汰しております。詳細は省きますが、精霊王の加護があり助かりました。その、男性姿をしているのは事情がありまして、今は姿変えの魔道具を使用しています」
「そうかえ、まぁ深くは聞かんでおこう。王女様が産んだ娘は巫女姫であられた。我らが待望していた御方がいずれ転生し、再びこの国に来られると知り基盤を築いておったのよ。薬師ギルドは記憶のない巫女姫様が困らぬよう、作られた組織じゃ。まぁ教会と敵対してもおるがの」
ティーナが転生するのを知っていたのか……。
異世界に再び召喚される国まで把握していたとは驚きだ。
これは父親である響が国王だったのが関係しているんだろうか?
「娘のために、ご尽力下さりありがとうございます」
別大陸まで赴き、人族の国で組織を作るのは口で言う程簡単じゃない。
俺は、その苦労を思い深々と頭を下げた。
「なに、獣人は巫女姫の恩恵を受ける立場じゃ。狙う者も多く守るのは当然である。王都の冒険者ギルドマスターには白頭鷲の一族が就いておるし、迷宮都市や摩天楼のギルドマスターはハーフエルフだ。何かあれば、彼らが動くであろうから安心するがよい」
魔力量の少ない獣人が、巫女姫の恩恵を受けられるなら助かるだろう。
態々、西大陸に来てまで娘の安全を計るのは一族に思惑があるからか……。
これ以上、言葉を重ねるのは無粋だな。
そろそろ本題に入ろう。
「分かりました。実はあるポーションを作製して頂こうと、お願いしに参ったのです。これなんですが……」
俺は世界樹の苗木の葉に精霊王が配合を記してくれた物を取り出し、ゼリア様へ渡した。
「何とっ!? 世界樹の葉ではないか! こんな貴重な物に……」
記されているのが世界樹の葉だと知り、ゼリア様が唖然としている。
あぁ、エルフの王族しか採取出来ない物だと忘れていた。
人族の国では入手困難な植物だったか……。
「勿体ないのう……。それにしても変わった配合じゃな。これでは精力剤と真逆の効果になるが……」
「少し入用なのです。30本くらい作って頂けますか?」
「おやおや、王が無茶をしなさるか」
効能に気付いたゼリア様が、響と俺を交互に見遣り悪戯っぽく笑う。
いやちょっと待て、盛大に勘違いされたぞ!
「使用するのは私の妻にです。今は、妻子ある身なので……」
「王女様には夫以外に妻がいるのかえ? エルフは一夫一婦制の国ではなかったかの?」
「ええ、色々とありまして……。あぁ、私の妻とは昨日お会いしてると思いますよ?」
「……もしかしてユカ殿か? 女王を娶るとはまた、王女様も凄い事をなされる」
女王? 妻の前世は俺と同じ王族なのか?
それにしては、ゼリア様の驚きようが半端ない。
少し体が震えているんだけど……。
えっ? 俺の奥さん、そんな偉い女王だったの?
「調合はしてみるが、果たしてあのお方に効果はあるのかの……」
不穏な言葉を残し、ゼリア様は部屋から出ていかれた。
「響、俺の妻は女王だったらしい。一体、前世は何の種族だったんだろうな?」
2人きりになり疑問を口にする。
「女王が立つ国は多くないが、獣人の生態は俺も詳しくないからなぁ。それより、どんな効果があるポーションを依頼したんだ?」
「性欲が減退するもの……」
「お前、まだ覚悟が出来ないのか? 結花さんに知られたら怒られるぞ? それに、どうやって飲ませる心算なんだ」
「美容ドリンクだと言えば大丈夫だろう? 女性は、その手の物に目がないから」
「飲んで効果がなければ、いつかバレると思うがな」
そこは考えてなかった。
本物の美容ドリンクも混ぜて飲ませれば問題ないだろうか?
30分後、ゼリア様が戻ってくる。
「王女様、調合したポーションじゃ。体に害はないが、体の欲求を抑えるのはあまり良いとは思えぬ。その、今は男性なのだから自然に行う方が体にも負担が掛からぬであろう」
それは重々承知の上だ。
「ご忠告、肝に命じます。それと、世界樹の花を持ってきました。癒し草の100倍の効果があるようです。また後日取りに伺いますから、こちらもポーションにして下さいませんか?」
マジックバッグから採取した白い花を、テーブルの上一杯に載せる。
「今日は驚く事ばかりだね。世界樹の花とは……。私も長い人生で初めて見るよ。ポーションにするには、相当魔力が必要じゃろう。少し時間が掛かるかも知れぬ。1ヶ月は待って下され」
「はい、よろしくお願いします」
ゼリア様から30本のポーションを受け取り、目的を果たした俺達は薬師ギルドを出てガーグ老の工房へ戻った。
帰り際ゼリア様が、「爺共、息子達に巫女姫を必ず守るよう言い聞かせておくように」と俺の傍で隠形している影衆達へ言葉を掛け仰天する。
『迷彩』を使用し姿が見えない筈なのに……。
白狼族か……、獣人の中でも戦闘集団を誇る一族だけの事はある。
エルフの精鋭、影衆達を見抜くとは……。
敵対したら怖い人物だな。
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