【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第710話 旭 樹 再召喚 2 妻の残念な手料理&ティーナの事情説明

公開日時: 2024年2月28日(水) 12:05
更新日時: 2024年6月21日(金) 12:42
文字数:3,537

 夕食のメニューは、カレーと唐揚げに野菜サラダだった。

 この中で一番ましなのは野菜サラダだけか……、唐揚げは中まで火が入っているのを願おう。

 今日は市販のルーに何も足してないだろうか?


「あなたの好きなものにしたのよ~。皆も遠慮せず食べてね!」


 俺の好きなものというより、他の料理に比べたらましなのでカレーのリクエストが多いだけだ。


「頂きます」


 8年振りに妻の手料理を恐々こわごわ口へ入れると案の定、激甘カレーだった。

 隠し味がバッチリ分かるので、チョコレートを沢山たくさん入れたらしい。


「姿は変わっても、料理の味は同じなんだな……」


 目の前の可愛らしい少女が結花ゆかだと言われても、どこか半信半疑だった俺はカレーを食べて納得した。

 異世界人になっても、料理の腕は上達しなかったのか?

 食事の最中、沙良ちゃんが現在どう生活しているか教えてくれた。

 なんと皆で冒険者パーティーを組み、ダンジョンを攻略しているそうだ。

 ハイエルフの王族だった俺は冒険者になれず、ひびきと結婚し第二王妃になってからは妊娠が発覚。

 出産後は女官長達に子供を預け、冒険者をする心算つもりだったのを思い出す。


「冒険者! 俺も一緒にパーティーを組むよ! いや~、夢が叶った」


 再び異世界に召喚され冒険者が出来ると思うと、つい顔がほこんでしまう。


「じゃあ明日、冒険者登録に行きましょう。ダンジョンにはC級冒険者じゃないと入れないので、Lv上げもしないといけないですね」


「Lvなら……。あぁ、そうだな俺は0なのか……。武器や防具も購入する必要がありそうだ。結局、注文して一度も使用出来なかったなぁ……」


 ついLv上げの必要はないと言いそうになり口をつぐむ。

 俺は、この世界に初めて来た事になっているからな。

 日本に戻る前、響と一緒に冒険者をしようとドワーフの名匠めいしょうに注文した武器があったんだが……。

 あの爺さん、儂は引退しておるからと中々うなずかないから、最後は女の武器を使って篭絡ろうらくしたのに……。


 武器の引き渡し時、特別なお礼を約束したんだっけなぁ。

 ありゃ男のロマンだ! 嫌いなやつはいない。

 顔を柔らかいものに挟まれるのは、最高の気分になれる。

 あのドワーフの爺さんは、俺の武器を完成させてくれたのかね。

 手に入らないのが非常に残念だ。


「ホーム内の家は日本と同じなので、物は減ったりしませんよ?」


 沙良ちゃんが不思議そうに尋ねてくる。

 驚いた事に、今いる俺の家は彼女の能力であるホームの世界らしい。

 ホーム内では日本と同じ生活が送れるみたいだ。

 エルフが受ける精霊の加護より、断然こっちの方がいいじゃないか! 


「いや……。あれは、家に置いてなかったんだよ」  


 まだ受け取ってもいなかったから、カルドサリ王国の王都の外れにある森の家にもないだろう。

 でも最初に注文したバール氏の鍛えた剣は、森の家に置いてあるから折りを見て取りに行こう。

 あの当時、必死にLvを100まで上げていた響のお祝い用に槍も注文したんだが……。

 なんとか激甘カレーを完食し、非常に脂っこい唐揚げを食べ口直しに野菜サラダで一息吐くと、沙良ちゃんから1枚の封筒を渡された。

 なんでも、召喚された人間には3つの能力が与えられるらしい。

 俺は、何の能力かワクワクしながら封筒を開け手紙を読んでみた。

 

 うん、既に覚えた能力は消えないんだな。 

 肝心の増えた能力は、付与魔法・空間魔法に……。

 最後の性別変化って何だ!? まさか、また俺に子供を産ませる気じゃないだろうな?

 曾婆ひいばあちゃん、俺の役目はもう済んだと言ってくれ!

 内容を見て固まった俺の手元をのぞき込み、響が確認している。


「なっ、なかなか良い能力だと思うぞ」


「攻撃魔法がひとつもないし、最後のはいらね~よ。女になっても良い事なんかない!」


 お前の所為せいで痛い事ばっかりだったじゃね~か!

 俺は最後の能力は絶対使用しないと心に誓う。

 これじゃ、特典が1つ減り損した気分だ。

 帰り際、沙良ちゃんからそれぞれ召喚時に落ちていた封筒を渡された。

 同じパーティーを組むなら、皆の能力を把握しておいた方がいいだろう。

 俺はLv70だが、多分基礎値が120と一番多い。

 響はLvを100まで上げたが、基礎値は15とステータス値が低いから皆を守ってやらないと。


 玄関まで見送りに出た俺は、我慢出来ずティーナを抱きしめた。

 あぁ、俺がお腹を痛めて産んだ娘が生きている。

 娘のしずくと再会した時とは違う、特別な気持ちがき起こった。

 これは父親と母親の違いだろうか?

 両方を経験した俺にしか分からない気持ちかも知れない。


「生きていてくれてありがとう」


 もっとずっと抱き締めていたかったが、それは彼女に不信感を与える事になる。

 そっと両腕を離し娘の姿を最後まで見続けた。

 一瞬だけ響と視線を交わす。

 詳しい事情は夜にと言っていたから、いつもの場所で待っていよう。


「あなた、今日は驚いたでしょ? 早く寝た方がいいんじゃない?」


 可愛らしい少女姿の妻にあなた・・・と言われると、ものすごく違和感があるんだが……。


「あぁ、悪いな結花ゆか。ちょっと、響と出掛けてくるよ。色々、聞きたい話もあるし」


「そう? なるべく早く帰ってきてね!」


 なんだか、非常に残念そうな口調が気になった。

 8年振りに会うから、少しでも俺と一緒にいたいんだろうか?


「いってくるよ。帰りが遅くなりそうなら、先に寝てくれ」


「分かったわ、いってらっしゃい」


 家を出ると本当に日本と同じ景色だ。

 ホーム内にいたら、異世界召喚されたと気付かないんじゃないか?

 ただ、こんな時間なのに通りを走る車は一台もなかった。

 人間も俺達しかいないらしい。

 待ち合わせ場所の居酒屋に入ると、客も店員の姿もないので不思議な感じがする。

 5分程待つと響が店に入ってきた。


「まずは、何か注文しよう」


 そう言って、テーブルの上にある電子メニューを取り何品か注文している。

 人がいないのに誰が作るんだ?

 疑問に思っていると、突然目の前にビールジョッキと料理が現れ驚く。

 まじか!?

 

「あ~、どこから話せばいい?」


「ティーナが沙良ちゃんだって理由を教えてくれ」


 俺は出てきたビールや料理に手もつけず、一番気になっている事を問いただす。


「そうだな……。俺達の娘のティーナは、世界樹の精霊王のもとで育てられたらしい。俺はまだこの世界にきて2ヶ月だが、その間に色々あり精霊王とも会っている。事情を聞いたらティーナは巫女姫で、ある存在に狙われているみたいだ。それで記憶を封印し、地球へ転生させたと言っていた。ちなみに、お前がこの世界で亡くなってから300年経っている」  


「巫女姫? 俺が産んだ娘は、てっきり【存在を秘匿ひとくされた御方】と呼ばれるエルフの守護神だと思っていたが……」


「あぁ、そういった存在でもあるようだぞ。ティーナは今、影衆達に守られている。お前より多い人数でな」


「じゃあ娘の生存は、本国に知られているのか……。なら、影衆の精鋭部隊『万象ばんしょう』が護衛に付いているんだろう。しかし、300年後なら当時の知り合いはいないだろうな……」


「いや、ガーグ老達は生きてる」


「はっ? もう1,000歳超えてるじゃないか! どれだけ、Lvを上げたんだか……」


「ヒルダに会いたがっているだろうが、今のお前の姿じゃなぁ」


「この姿で姫様呼びは勘弁してくれ。会う機会はあるのか?」


「毎週、娘達が武術稽古を受けてるよ」


「あぁぁ~。そりゃ嫌でも再会しそうだ」


 俺は、ずっと護衛をしてくれたガーグ老達がまだ生きていると知り嬉しい反面、過去がバレないか頭を抱える。

 あのご老人達に演技力を期待するのは無理だろう。

 彼らの本業は姿を隠し王族の護衛をする事だ。

 諜報ちょうほうになう一族とは、必要な能力が違い過ぎる。 


「一応ガーグ老に通じる念話の魔道具で、大袈裟おおげさにしないよう伝えておこう」


 そう言ってくれてもまったく安心出来ない。

 俺は大きな溜息を吐き、ようやく生ビールに口を付けた。


「娘の転生先が、父親のもとだったのは偶然か? 俺達はティーナだと知らず、沙良ちゃんの成長を見ていたんだな。お前の娘が俺の娘でもあった訳だ。育てる事は出来なかったが、ずっとそばにいたとは……。今は俺とそっくりになっているから心配だよな。300歳を過ぎているのに子供のままだし」


「分かっているだろうが、お前の娘だというのはまだ伏せておけよ。記憶が戻った時に話せばいい。それまで樹おじさん・・・・・のままでいろ。お前が母親だと知ったら沙良が混乱する」


「嘘も隠し事も苦手なのに……。響がフォローしろよ?」


「それは、俺も正直言って自信がない。もう既に、色々やらかしている気がするな……」


「駄目じゃん!」


 俺達は共通の秘密をバレないよう隠し通す必要がある。 

 あの一夜限りの過ちを、お互いの妻に暴露ばくろする訳にはいかない。

 久し振りに親友と会い、妻に早く帰ってきてねと言われていたのをすっかり忘れ、俺達は店で飲み明かしたのだった。

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