【フェンリル女王の長男】
フェンリル女王の長男である私は、一緒に生まれた兄妹の中で成長の遅い末っ子が心配だった。
母上から魔力をもらっても、その体は大きくならず既に兄妹達と半分以上の差がある。
妹は起きていられる時間が少なく、寝てばかりいたのも原因なんだろうか?
私達は妹が育つよう、魔力をなるべく妹へとまわすようにしていた。
ある日、末っ子の姿が見当たらず心配した兄妹達が泣き出してしまう。
すると母上から、これ以上私の下では育てられないため誰かに妹を託したと話される。
あぁ私達の小さな末っ子は、成長出来ずに亡くなってしまうのか……。
フェンリルという種族は、女王を頂点とし森を治めている。
食事等の必要はなく、体内に魔力を蓄える器官が備わっており幼少期は母親からの魔力で育つのだ。
きっと末っ子は、その器官が上手く働かなかったんだろうと今なら分かる。
ずっとその遅い成長を心配しながら見守ってきた兄妹達は、可愛い妹がいなくなった事で塞ぎ込みがちになる。
あまり自己主張せず、控えめで大人しい性格をしていた妹が皆大好きだったのだ。
妹が私達の傍からいなくなり、10年が過ぎた頃。
度々、森を離れ何処かへいく母上の後を内緒で追い駆けた。
私の体長は2mを超し、後に付いていけるだろうと思ったからだ。
向かった先は、世界樹の精霊王が治める森だった。
確かここには彼の養い子である巫女姫がいると聞く。
巫女姫がどんな存在なのかは、よく知らないけれど……。
母上はその森の中へ入ろうとせず、手前で立ち止まると動きを止めた。
そして遠見魔法を使用し、様子を窺っている。
私も同じように遠見魔法を発動させた。
まだ見られる距離は長くないけど、森がある範囲なら問題ない。
けれども、私が発動した遠見魔法は森の結界により阻まれた。
これは、世界樹の精霊王が掛けた結界か……。
それなら許可がなければ、この森へ入るのは不可能だろう。
多分この森に末っ子がいると信じていた私は、姿を見られずがっかりする。
母上が頻繁に抜け出す先は、託したという娘の場所に違いないと兄妹達は思っていたからだ。
それでも世界樹の精霊王の下にいると知れただけ、成果はあった。
末っ子が生きている、何よりの安心材料になる。
私は母上に気付かれないよう、その場を後にした。
そして棲み処に戻り、妹の居場所を兄妹達へ教える。
その日から、代わる代わる兄妹達が両親の目を盗み森から抜け出すようになった。
姿を見られなくても、その存在を感じたかったのだろう。
本来なら同胞の気配は感じられる筈なのに、余程厳重な結界が張られているのか妹の気配を追うのは無理だった……。
しかし母上には全てバレていたらしい。
暫くすると後を付けている私の方へ振り返り、一緒にきなさいと言われる。
そして視覚を共有し、精霊の森で元気に育っている末っ子の姿を見せてくれた。
そこには体長30cm程の小さな妹を、抱き抱えて眠る少女と2匹の子竜がいる。
あぁ、妹が無事でいる。
相変わらず成長は遅いようだけど、その目はしっかりと開いていた。
この少女が、巫女姫といわれる存在なんだろうか?
「母上、妹の姿を見せて下さりありがとうございます。あの子の無事を願っていました」
「一緒に育てられず、ごめんなさいね。まだ、あの子には会わせてあげらないの。こうやって遠くからしか見る事が出来ない……。けれど巫女姫が毎日魔力を限界まで、あの子に与えてくれているのよ。そのお陰で娘は生きている。私達は巫女姫に感謝しないといけないわ」
なんと、妹を育てているのは精霊王ではなく巫女姫であったのか!
あんな幼い少女が……。
魔力を限界まで与えているなら、昏倒しているのでは?
眠っているとばかり思っていたその姿は、妹への献身的な結果だった。
いくら精霊王の結界で守られた森の中だとはいえ、普通は無防備になる程の魔力を使用したりはしない。
それ程、愛情深く育てられた妹は幸せだろう。
新しい家族に囲まれ、どうか順調に成長してほしい。
いつか再び会えるまで、私はここからずっと見守ろう。
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