【ダリル枢機卿】
アシュカナ帝国の依頼を受けた司教が、王都にもいたらしい。
迷宮都市では、ヘインズ司教が亡くなったそうだ。
報告を受け刺客を送ろうとしたが、手間が省け良かったと思っていた矢先の出来事だった。
今回は口封じをする前に、衛兵に捕まってしまい臍を噛む。
愚かにもリドリー司教は直接冒険者ギルドへ向かい、騒ぎを起こしたと聞く。
そんな真似をすれば、教会とアシュカナ帝国の関与を疑われるだけではないか……。
どうせ後を付けられでもしたのだろう。
一緒にいた従者の1人と呪具を設置した実行犯の接触現場を押さえられては、無関係と言い切る事は出来まい。
現に教会へ衛兵達が乗り込み、リドリー司教を連行していった。
場合によっては私も事情聴取を受けるかも知れん。
無論、知らぬ存ぜぬを貫き通す心算でいるが……。
やれやれ、頭の痛い事になった。
簡単に旨い話に飛び付きおって、お陰でこちらはいい迷惑だ。
上層部を通さず話を受けるとは、考えなしにも程がある。
そもダンジョンに設置した呪具の解呪を依頼された時点で、何故おかしいと気付かぬのか……。
相手はカルドサリ王国の戦力を削ぐのが目的だぞ?
少しでも多くの冒険者を巻き込みたい筈なのに、呪具の解呪を依頼する訳がない。
目的は別にありそうだが……。
教会とアシュカナ帝国は、持ちつ持たれつの仲であるのは間違いない。
だが猊下は信用するなとも仰っていた。
こちらにも利がある内は利用するが、害になれば手を切るとも……。
今のところ数年後に開戦が迫った状態で、国力の差からカルドサリ王国が負けるだろうと踏み味方しているだけに過ぎない。
しかし2度も失敗し、教会の関与が疑われてしまった。
猊下は、どう判断を下すであろう……。
それにしても、呪具の解呪を冒険者ギルドはどのようにして行ったのか?
私は、そちらの方が気になった。
光魔法は半ば教会の専売特許といっても良い。
極まれに適性を持った人間もいるが、ヒールくらいでホーリーを使用出来る者は滅多に出ない。
教会にはホーリーの魔術書があり、貴族出身の者なら金さえ払えば誰でも習得が可能だ。
まぁ、金貨100枚(1億円)出せる者は少ないが……。
そして、その際に命を預けるような細工がされているとは知らぬだろう。
王都にいる冒険者で、浄化魔法を使用出来る人物はいない。
考えられるのは、浄化の効果を持つ品を冒険者ギルドが持っているのではないかという事くらいか?
1週間後。
異例の早さでリドリー司教の公開尋問が決定した。
今回は禁制品の呪具の設置に関与した重罪犯扱いのため、国が動いている。
教会の人間が公開尋問の場に引き出されるのは初めてだった。
彼は後ろ手に拘束され、両手には魔力封じの腕輪を嵌められていた。
その後ろには6人の実行犯と1人の従者が、更に自害防止のため猿轡をされている。
彼らは黙秘したようだが、残念ながら姿変えの魔道具の効力が切れ帝国人の特徴的な姿に戻っている。
更に持っていた呪具の設置に使用したであろう阻害用の黒い手袋が、完全な証拠となった。
私は教会側の立場で公開尋問の場に出席してるが、リドリー司教が余計な話を言わぬよう見届けにきた。
落ち着きのない様子の彼を見る限り、浄化魔法の習得時に仕込んだ物を起動させる必要があるだろう。
「では尋問を始める」
進行役が罪状を読み上げ、これに相違ないかと尋ねた。
リドリー司教は、大いに憤慨した態度で反論を始める。
「従者の1人が勝手に行動しただけで、私に責任はない」
「では、此度の件は何も知らなかったと?」
「あぁ、知る筈がないだろう。魔道具で姿を変えていては、気付けという方が無理ではないか?」
「では何故ダンジョンに呪具が設置された日、冒険者ギルド前で騒ぎを起こしていたのでしょう? あの場にいた冒険者からの証言が複数上がっています。『呪具が解呪済みだとは聞いてない』と貴方は従者の1人に言っています。どういう意味か教えてもらえませんか?」
ここでリドリー司教は、自分の行いに首を絞める結果となった。
直ぐに言い訳出来ず押し黙る。
これ以上、聞くのは時間の無駄だろう。
私は彼の心臓に仕込まれている安全装置を解除した。
詳しい内容は不明だが、この安全装置を外すと口が利けなくなり思考が散漫になって数日後に命を落とすらしい。
不要になった人間を消すには、本人に知られず命を握る事が出来れば良い。
教会は実に合理的な組織と言えよう。
もう一度、問い正されたリドリー司教が私の方を追いすがるような目で見る。
私は感情のない目で見返した。
一言も相談なく私腹を肥やそうとするから、こういう目に遭う。
そのまま何も言えない状態で、刑に処されるんだな。
その前に亡くなる可能性が高そうだが。
その後、リドリー司教は一切口を開かず公開尋問は終了。
敵国であるアシュカナ帝国と繋がり、カルドサリ王国に危機を招いたとして斬首刑に決まった。
幸い、教会に余罪を追及される事はなく胸を撫でおろす。
猊下が動かれたのだろう。
教会へ戻ると直ぐ、顛末を書いた羊皮紙を聖王国にいる猊下へ長距離型の通信の魔道具で送り、しばし待つ。
数分後、返事が返ってきた。
『アシュカナ帝国の目的は我々と同じようだ。相手に悟られぬよう、警戒を強めよ。』
どうやら帝国は巫女姫様を探しているらしい。
猊下の懸念は当たっていたのか……。
大陸制覇は隠れ蓑で、至高の存在を奪うために戦争を仕掛けるとは……。
愚かな王よ、巫女姫様は教会の存在意義そのもの。
これは手を切るのも案外早くなりそうだな。
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