折角ダンジョンに来たので、私達もクランリーダーが戻るまで攻略をしよう。
ずっと安全地帯のテントにいるのは不自然にみえる。
地下1階だし、今日は魔法を使用せず訓練の成果を見せよう!
「お兄ちゃん、ガーグ老から習った槍術を実践してみようよ! 地下1階の魔物なら、Lvごり押しでいけるんじゃない?」
「沙良、たった2回習っただけだろうが。お前に接近戦は、まだ早すぎる」
「あ~俺も無理だと思う……。沙良ちゃん、ガーグ老から魔物と戦っても良いって言われてないでしょ?」
2人に速攻で駄目出しされ、やる気だったテンションが下がってしまった。
「そういう旭は、ダンジョンの攻略中に剣を使用してもいいと許可をもらったの?」
「うん。俺は地下4階までの魔物なら倒せるって、お墨付きを頂いてるよ!」
「ゔぅっ……。じゃあ、お兄ちゃんの方は?」
「俺はまだ何も言われてないから、槍を使用して接近戦をしようとは思わない」
ちぇっ、普通男性は覚えた事をすぐにやりたがる筈なのに……。
兄は石橋を叩いて渡るタイプの人間だったわ。
「沙良ちゃん、心配だから今日は我慢して魔法で倒そうね?」
「……分かった。今日は止めとく」
旭に言われて素直に頷くと、兄にやれやれという目で見られた。
ダンジョンの地下1階でなら、私にも倒せそうな魔物がいたのに残念。
ダンジョンネズミくらいだったら、問題ないと思うんだけどなぁ~。
安全地帯から出て換金額が高いリザードマンを見付けると、兄が瞬殺してしまう。
ファングボアは、旭が剣で首を一閃して切り落とした!
これなら皮にも傷が付かないし、血抜き処理も同時に出来るだろう。
それにしても旭が購入した剣は、かなりの業物なのかしら?
金額を聞いていないけど、こんなに切れ味がいいのなら高かったに違いない。
その旭は、初めて剣を使用して魔物を倒せた事に満足気な表情をしている。
「賢也! 俺、ステータス表記に剣術Lv0って出たよ!」
何ですとっ!?
やはりちゃんと剣術を習ってから、初めて魔物を倒した時にステータス表記されるらしい。
「本当か!? 凄いじゃないか!」
兄は報告を聞き、旭の事を手放しに褒め肩を叩いていた。
別に妹の前だからって、スキンシップを控え目にしなくてもいいんだよ?
抱き締めて喜んでみせればいいのにね!
「旭、良かったじゃん! これで辛い特訓が報われたんじゃない?」
「確かに、俺だけ実戦稽古させられてたから成果が実ったのかな」
「沙良、俺達も槍術がステータス表記されるように頑張らないとな」
「うん、槍術で無双出来たら格好いいよね~」
私は自分が槍を使用し魔物を薙ぎ倒している所を想像して、にんまりと笑った。
槍士として大活躍しちゃうかも?
「あ~沙良、妄想も程々にしておけよ。魔物は想像以上に強いからな」
「は~い」
兄からの注意も、私の耳をすり抜けていく。
いつかきっと、竜騎士の称号がステータスに表記されるに違いない。
それまでに、シルバーとLvをがんがん上げておこうと思った。
その後、3時間程魔物を狩って安全地帯に戻っていく。
テントに入りホームの自宅でトイレ休憩をしたら、クランリーダーが戻るまで休憩だ。
異世界の紅茶を飲みながらテントの外で待っていると、ハーフエルフの3人組がやってきた。
「今日はもう攻略終了かい? よければ一緒に夕食をどうだろう?」
初対面の私達に一緒に夕食を食べないか聞かれて、新手のナンパかと思ってしまった。
「悪いが、妹は人見知りなんだ。知らない人間と一緒に食事は出来ない」
兄が硬い表情で、きっぱりとお断りする。
「あ~、警戒させてしまったみたいだね。いきなり誘ってごめん。俺達、結構ここに長くいるから、もし何かあれば遠慮しないで聞いてくれよな」
3人の内リーダーらしき男性は、苦笑しながら自分達のテントへ帰っていった。
親切なんだろうけど、秘密が多い私達はあまり知らない人と関わりたくない。
しかもガウトにいる事は迷宮都市の人間にバレると不味いので、この町では目立ちたくないのだ。
それから1時間後。
待っていたクランリーダーが地下1階の安全地帯まで戻ってくる。
全員が女性の6人組パーティーで、皆非常に背が高かった。
地下10階層までのダンンジョンにはリースナーのダンジョンと同様、女性だけでパーティーを組んでいる冒険者が多いのかも知れない。
迷宮都市のダンジョンでは、全員女性のパーティーは見かけなかったんだよね。
大型ダンジョンの魔物は強いため、どうしても女性だけでは通用しなくなるんだろうな。
先程の女性冒険者から紹介を受けて、同じ説明をした後にサの付く名前の女性冒険者を知らないか聞いてみた。
「そりゃ難儀な事だね。残念だけど、あたしの知ってる女性冒険者にはいないよ。本当にガウトの冒険者なのかい?」
「もしかしたら、ウトバリの町の方かも知れないんです」
「あぁ、あそこの町にもダンジョンがあるね。その紹介状は魔法処理されていない物だったんだろう。安いインクは、色が薄れる事が多いんだ。気を落とさず、ウトバリに行ってみな」
「はい、そうします。お疲れの所、教えて下さりありがとうございました」
私は質問に答えてくれたクランリーダーに向かい、お辞儀をしてお礼の言葉を述べた。
正直、雫ちゃんに会えるかも知れないと思っていたのでがっかりした事は隠せない。
旭もしょんぼりとしてしまった。
これはもう仕方ないだろう。
香織ちゃんの夢は、いつも肝心な所が聞こえずはっきりとした事が分からないのだ。
来週はウトバリに行ってみよう。
ただ、こういう事って意外と最後に当たりがあったりするんだよね~。
雫ちゃんがもし魔法を使用出来るのなら、たとえC級冒険者でも王都のダンジョンにいる可能性がある。
なるべくなら、ウトバリの町にいてほしいけど……。
元気のない旭を励ましながら、私達はダンジョンを出て乗合馬車に乗った。
そして帰りも偶然、ハーフエルフの男性冒険者達と一緒になる。
いやいや、いくらなんでもここまでの遭遇率はおかし過ぎる。
ダンジョンを1日も攻略しないで帰るなんて有り得ないから!
現に兄が警戒しまくってるし、流石に旭も落ち着かない様子だ。
声を掛けてきたリーダーの男性は、少し居心地が悪そうにしていたけど……。
その他2人の男性は、何だか顔色が悪い。
私達6人は、行きと同じく押し黙ったまま冒険者ギルドまで帰る事になった。
冒険者ギルドで今日の換金を済ませ、受付嬢に依頼したパーティー募集の張り紙を取り下げる事を伝える。
もうガウトの町に、私達がくる事はないだろう。
ホームの自宅に戻ると、慣れない町で気を使っていたのか疲れがどっと押し寄せてきた。
今日は夕食を作る気分になれず、久し振りに3人で外食に出かける事にする。
家の近所に、美味しい手羽先の有名店があるので歩いていこう。
ここの手羽先は、そんなに辛くないので幾らでも食べられる。
他にも何品か注文し、私はウーロン茶、兄達は生ビールで乾杯だ。
「お疲れさま~!」
私は早速、メインの手羽先から頂こう。
この味は、家庭では出せないんだよね~。
うん、美味しい!
兄も手羽先に手を伸ばしている。
旭はビールを一気飲みしていたよ!
あ~、これは酔い潰れそうな予感がする。
雫ちゃんと会えなくて、落ち込んでいるんだろう。
案の定1時間後には泣き出した旭を、兄が甲斐甲斐しく世話を焼いている姿があった。
私は、とっとと退散だ。
後は若いお2人で、どうぞご自由にして下さい。
2人を置いて店を出た。
月明りの夜道をのんびり歩いていると、シルバーとフォレストが呼んでもいないのに私の下へ駆け寄ってくる。
この子達には、私の居場所が分かるのかしら?
従魔との不思議な繋がりに、雫ちゃんの事を考える。
同じ異世界にいるんだから絶対会えるよね……。
雫ちゃん、旭がとても会いたがっているよ。
どうか1日でも早く再会出来ますように――――。
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