結界魔法の検証をしてダンジョンから冒険者ギルドへ戻った。
受付嬢から早崎さんのC級冒険者カードを受け取り、ガーグ老の工房へ向かう。
引退した近衛騎士に武術稽古を受けている話をすると、早崎さんは目を輝かせていた。
異世界の武術に興味があるんだろう。
工房へ到着すると、ガルちゃん達が嬉しそうに駆け寄り尻尾を振っている。
昨日、会ったばかりだけど、この子達は毎日一緒にいられないので私が来るのが嬉しいみたい。
「こんにちは~。新しいメンバーの紹介をしますね」
「サラ……ちゃん、今日は遅かったの。またメンバーが増えたのか?」
「はい。妹の旦那さんです」
「初めまして、茜の夫で順一と申します」
非常に体格の良いガーグ老を前に、早崎さんは緊張した面持ちで一礼した。
「儂はガーグだ。お主の得物は棒か……、珍しいな。棒はあまり得意ではないが、どれひとつ揉んでやろう」
「はっ、よろしくお願い致します」
なんだろう……。
自己紹介と同時に手合わせが始まるのは、武闘派に必要なくだりなんだろうか?
「ふむ、棒なぞあったかの? ゼン、トレントを持って参れ」
ガーグ老はゼンさんへトレント資材を要求し、その場で切り出して棒状にする。
作製した棒をトントンと地面に叩き、具合を確認して棒を構えた。
相変わらず、風魔法の操作が上手いなぁ。
「全力で掛かってきなされ!」
ガーグ老の言葉に反応した早崎さんが、先制攻撃をかける。
相手の技量を見て取ったのか、最初からHP上昇魔法を使用しているようだ。
Lvが20に上がった彼のHP値は1,176。
その2倍なら2,352で、基礎値が10である異世界人の234Lvに相当する。
これなら結構いい勝負になるんじゃないかと見ていたら、ガーグ老は余裕で応戦していた。
棒は得意じゃないらしいけど……、使用する武器は関係ないんだろう。
2人の素早い攻撃が目で追いつけなくなる頃、唐突に仕合は終了した。
「ご指導、ありがとうございます」
早崎さんは、深く一礼し息を切らせ戻ってきた。
「あの御方は強いですね。久々に勝てない相手だと実感しました」
「異世界は面白いだろ?」
茜が、夫に向かって不敵な笑みを浮かべる。
「ええ、確かに。ここには、強い人物が沢山いそうですね」
そう言いながら、ゼンさん、シュゲンさん、奏伯父さん、セイさんに視線を送っていた。
ガーグ老へ早崎さんをガルちゃんに乗せてほしいとお願いし、飛翔魔法も無事習得。
茜の従魔達でも良かったと気付いたけど、どのみち顔合わせが必要だから問題ない。
その後、ガーグ老が家族を紹介。
息子達とお嫁さん2人を見た早崎さんの目が点になっている。
ええ、見た目年齢と性別がおかしいですよね~。
ガーグ老に稽古のお礼を伝え、ショートブレッドを渡してメンバーとホーム内へ戻った。
「あの、お義姉さん。茜さんは、家を引き払うそうなんですが……」
あぁ先日、妹が必要な荷物を全てアイテムBOXへ収納していたからね。
昨夜、旦那さんに私の家で同居すると話したんだろう。
夫婦なのに別居とか……、両親が知ったら嘆きそうだ。
「我儘な妹でごめんなさいね」
「いえ、それは別に構わないんですけど。私だけ距離が離れているのは面倒だと思うので、お義姉さんのマンションへ引っ越してもいいですか?」
確かに、毎日送り迎えをするのは手間が掛かる。
ダンジョン攻略中も、私達は自分の家で泊まるし……。
「空き部屋が沢山あるからいいわよ」
そうと決まったら早速、引っ越しの準備だ。
茜を連れ早崎さんと住んでいるマンションに向かう。
部屋の荷物は茜が全て回収し、再び兄のマンションへ帰る。
最上階にある残り1部屋を早崎さんの部屋に決めた。
室内は以前、私が回収したので何もない状態になっている。
茜が家具を何処に置くか確認しながら設置。
アイテムBOXがあると、本当に引っ越しは楽だな。
夕食は蕎麦を食べに行こう。
「私の部屋は隣だから、片付けが終ったら来て下さいね」
家具以外の日用品を整理する必要があるだろうと、私と茜は部屋へ戻った。
兄達は病院へ行き勉強をするため不在にしている。
セイさんの姿もなかった。
夕食の時間になれば戻ってくるだろうから、私は茜とティータイムをしよう。
コーヒーを淹れて、アイテムBOXから桃のタルトを取り出す。
妹は甘い物が好きじゃないので、作り置きしたサンドイッチを食べていた。
「昨日、早崎さんと何を話していたの?」
「13年間ダンジョンマスターだったのと、冒険者活動の事だよ。あいつは、ステータスが見られるのが嬉しいらしい。私のLvを聞き、やる気になってた。迷宮都市のダンジョンを攻略するのが楽しみだと言っていたな」
「異世界に召喚されたのは、怒ってない?」
「そんな素振りはなかったから心配しなくていい」
そう聞いて安心した。
人生を変えてしまったのには、やはり罪悪感がある。
地球に帰せと言われても出来ないのだ。
桃のタルトを食べ終わる頃、セイさんがベランダから入ってきた。
空を飛んでいたのかしら? 飛翔魔法を習得したあと、セイさんはよく空を飛んでいる。
飛ぶのが好きみたい。
「セイさん、お帰りなさい。話があるので、少し時間をもらってもいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
セイさんにコーヒーと苺タルトを渡して、話を切り出した。
「実は、摩天楼ダンジョン99階で隠し部屋を見付けたの。別大陸に行ける魔法陣があるから、調べようと思って。ガーグ老達が護衛してくれるけど、セイさんもついて来てくれないかな? 調査するのは休日の土曜日よ」
するとセイさんは軽く目を瞠り、次いで真剣な表情になる。
「移転陣を発見したんですか? 別大陸へ行くなら、用心した方がいいですね。私は特に休日する事がないので、一緒に行きます。沙良さん、この話は響さんと樹さんも知っていますか?」
「ええ勿論、話してあるわ。他に知っているのは、シュウゲンさんだけよ」
「あぁ、賢也さんと尚人さんには内緒なんですね。それはまた、バレたら怒られそうな気がしますけど……」
「お兄ちゃん達へ、隠し部屋が99階にあると言えないんだよね~。何とか怒られないよう話せるまで秘密にして下さい」
「分かりました。既に転移先が分かっているのは、どの大陸ですか?」
セイさんは苦笑して話を続ける。
「今のところ、北大陸と中央大陸と南大陸よ」
「南大陸……」
アシュカナ帝国がある大陸名を聞いたセイさんは、眉間に皺を寄せ黙り込んでしまった。
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