【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第782話 迷宮都市 早崎さんの召喚 4 ガーグ老との手合わせ&引っ越し

公開日時: 2024年5月10日(金) 15:01
更新日時: 2024年9月1日(日) 14:53
文字数:2,590

 結界魔法の検証をしてダンジョンから冒険者ギルドへ戻った。

 受付嬢から早崎さんのC級冒険者カードを受け取り、ガーグ老の工房へ向かう。

 引退した近衛騎士に武術稽古を受けている話をすると、早崎さんは目を輝かせていた。

 異世界の武術に興味があるんだろう。

 工房へ到着すると、ガルちゃん達が嬉しそうに駆け寄り尻尾を振っている。

 昨日、会ったばかりだけど、この子達は毎日一緒にいられないので私が来るのが嬉しいみたい。


「こんにちは~。新しいメンバーの紹介をしますね」


「サラ……ちゃん、今日は遅かったの。またメンバーが増えたのか?」


「はい。妹の旦那さんです」


「初めまして、あかねの夫で順一じゅんいちと申します」


 非常に体格の良いガーグ老を前に、早崎さんは緊張した面持おももちで一礼した。


「儂はガーグだ。お主の得物えものは棒か……、珍しいな。棒はあまり得意ではないが、どれひとつんでやろう」

  

「はっ、よろしくお願い致します」


 なんだろう……。

 自己紹介と同時に手合わせが始まるのは、武闘派に必要なくだりなんだろうか?


「ふむ、棒なぞあったかの? ゼン、トレントを持って参れ」


 ガーグ老はゼンさんへトレント資材を要求し、その場で切り出して棒状にする。

 作製した棒をトントンと地面に叩き、具合を確認して棒を構えた。

 相変わらず、風魔法の操作が上手いなぁ。


「全力で掛かってきなされ!」


 ガーグ老の言葉に反応した早崎さんが、先制攻撃をかける。

 相手の技量を見て取ったのか、最初からHP上昇魔法を使用しているようだ。

 Lvが20に上がった彼のHP値は1,176。

 その2倍なら2,352で、基礎値が10である異世界人の234Lvに相当する。

 これなら結構いい勝負になるんじゃないかと見ていたら、ガーグ老は余裕で応戦していた。

 棒は得意じゃないらしいけど……、使用する武器は関係ないんだろう。

 2人の素早い攻撃が目で追いつけなくなる頃、唐突に仕合は終了した。


「ご指導、ありがとうございます」


 早崎さんは、深く一礼し息を切らせ戻ってきた。


「あの御方は強いですね。久々に勝てない相手だと実感しました」


「異世界は面白いだろ?」


 茜が、夫に向かって不敵な笑みを浮かべる。


「ええ、確かに。ここには、強い人物が沢山いそうですね」


 そう言いながら、ゼンさん、シュゲンさん、かなで伯父さん、セイさんに視線を送っていた。

 ガーグ老へ早崎さんをガルちゃんに乗せてほしいとお願いし、飛翔魔法も無事習得。

 茜の従魔達でも良かったと気付いたけど、どのみち顔合わせが必要だから問題ない。

 その後、ガーグ老が家族を紹介。

 息子達とお嫁さん2人を見た早崎さんの目が点になっている。

 ええ、見た目年齢と性別がおかしいですよね~。

 ガーグ老に稽古のお礼を伝え、ショートブレッドを渡してメンバーとホーム内へ戻った。


「あの、お義姉さん。茜さんは、家を引き払うそうなんですが……」


 あぁ先日、妹が必要な荷物を全てアイテムBOXへ収納していたからね。

 昨夜、旦那さんに私の家で同居すると話したんだろう。

 夫婦なのに別居とか……、両親が知ったらなげきそうだ。


我儘わがままな妹でごめんなさいね」


「いえ、それは別に構わないんですけど。私だけ距離が離れているのは面倒だと思うので、お義姉さんのマンションへ引っ越してもいいですか?」

 

 確かに、毎日送り迎えをするのは手間が掛かる。

 ダンジョン攻略中も、私達は自分の家で泊まるし……。


「空き部屋が沢山あるからいいわよ」


 そうと決まったら早速さっそく、引っ越しの準備だ。

 茜を連れ早崎さんと住んでいるマンションに向かう。

 部屋の荷物は茜が全て回収し、再び兄のマンションへ帰る。

 最上階にある残り1部屋を早崎さんの部屋に決めた。

 室内は以前、私が回収したので何もない状態になっている。

 茜が家具を何処どこに置くか確認しながら設置。

 アイテムBOXがあると、本当に引っ越しは楽だな。

 夕食は蕎麦を食べに行こう。


「私の部屋は隣だから、片付けが終ったら来て下さいね」


 家具以外の日用品を整理する必要があるだろうと、私と茜は部屋へ戻った。

 兄達は病院へ行き勉強をするため不在にしている。

 セイさんの姿もなかった。

 夕食の時間になれば戻ってくるだろうから、私は茜とティータイムをしよう。

 コーヒーをれて、アイテムBOXから桃のタルトを取り出す。

 妹は甘い物が好きじゃないので、作り置きしたサンドイッチを食べていた。

 

「昨日、早崎さんと何を話していたの?」


「13年間ダンジョンマスターだったのと、冒険者活動の事だよ。あいつは、ステータスが見られるのが嬉しいらしい。私のLvを聞き、やる気になってた。迷宮都市のダンジョンを攻略するのが楽しみだと言っていたな」


「異世界に召喚されたのは、怒ってない?」


「そんな素振りはなかったから心配しなくていい」


 そう聞いて安心した。

 人生を変えてしまったのには、やはり罪悪感がある。

 地球に帰せと言われても出来ないのだ。

 桃のタルトを食べ終わる頃、セイさんがベランダから入ってきた。

 空を飛んでいたのかしら? 飛翔魔法を習得したあと、セイさんはよく空を飛んでいる。 

 飛ぶのが好きみたい。


「セイさん、お帰りなさい。話があるので、少し時間をもらってもいいですか?」


「はい、大丈夫ですよ」


 セイさんにコーヒーと苺タルトを渡して、話を切り出した。


「実は、摩天楼ダンジョン99階で隠し部屋を見付けたの。別大陸に行ける魔法陣があるから、調べようと思って。ガーグ老達が護衛してくれるけど、セイさんもついて来てくれないかな? 調査するのは休日の土曜日よ」


 するとセイさんは軽く目をみはり、次いで真剣な表情になる。


「移転陣を発見したんですか? 別大陸へ行くなら、用心した方がいいですね。私は特に休日する事がないので、一緒に行きます。沙良さん、この話はひびきさんといつきさんも知っていますか?」


「ええ勿論もちろん、話してあるわ。他に知っているのは、シュウゲンさんだけよ」


「あぁ、賢也けんやさんと尚人なおとさんには内緒なんですね。それはまた、バレたら怒られそうな気がしますけど……」

 

「お兄ちゃん達へ、隠し部屋が99階にあると言えないんだよね~。何とか怒られないよう話せるまで秘密にして下さい」


「分かりました。既に転移先が分かっているのは、どの大陸ですか?」


 セイさんは苦笑して話を続ける。


「今のところ、北大陸と中央大陸と南大陸よ」


「南大陸……」


 アシュカナ帝国がある大陸名を聞いたセイさんは、眉間にしわを寄せ黙り込んでしまった。

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