昼食のメニューは親子丼だった。
それに、きんぴらごぼう・サラダ・味噌汁が付いている。
親子丼に使用したのはコカトリスの肉らしい。
沙良は料理に魔物肉を使うのを躊躇わないのか……。
自分達で狩った魔物なら経済的にも助かるので、お得に感じるんだろう。
実際、食べてみると魔物肉も結構美味い。
コカトリスの肉は、地鶏のような弾力のある歯応えがした。
何気なくお茶を一口飲んだ瞬間、あまりの苦さで吐き出しそうになる。
どうやら料理の腕が残念な樹の奥さんは、お茶もまともに淹れられないようだ。
家族の様子を窺うと、皆お茶を飲んだ瞬間に動きが止まっている。
俺は口の中の苦みを緩和させるため、親子丼を続けて口に入れた。
尚人君と雫ちゃんは、お茶を飲んでも表情を変えず、そのまま食べ続けている。
いつもの事なんだろう……。
ダンジョンでの食事に、思わぬ伏兵が潜んでいた。
食後に沙良が羊羹を出したのは、この苦いお茶を消費するために違いない。
俺は甘い物は好まないが、この日はありがたく羊羹を食べておいた。
テントから出ると、沙良達がいつもお世話になっている2パーティーが安全地帯に戻っていた。
俺達は初対面なので、沙良が2パーティーへ紹介をする。
「私の両親と旭の妹2人です。これから7人パーティーになりますので、よろしくお願いしますね」
結花さんは、尚人君の母親に見えないため妹と紹介。
「沙良の父の響です。子供達がお世話になっているそうで、ありがとうございます」
「沙良の母の美佐子と申します。家族がお世話になります」
俺と妻が名乗った後で男性が自己紹介を始める。
「リーダーのダンクです。こちらこそ、息子さんには石化した両親を治療して頂きました。本当に感謝してもしきれない程の恩があります」
やけに神妙な顔をして、お礼を言われたんだが?
「……石化?」
俺は賢也から何も聞いておらず不安になる。
石化の治療をしたのは部分的なものだよな?
にしては、やけに相手が大袈裟な気がするが……。
これは後で確認した方がいいかも知れん。
「『白薔薇の華』クランリーダーのアマンダです。娘さんには、美味しい料理を教えてもらい感謝しています」
続いてクランリーダーと名乗る女性が挨拶をする。
こちらは、どうやら沙良が料理を教えた事に感謝しているらしい。
夕食を冒険者達と一緒に食べているのか?
「妹の結花です。兄がお世話になっております。皆さん、これからよろしくお願いします」
「妹の雫です」
結花さんと雫ちゃんが挨拶をしたら、初顔合わせは終了だ。
「サラちゃん。増えた従魔達の紹介もしてくれよ!」
冒険者達は新しい従魔に興味津々の様子で、挨拶もそこそこに紹介してほしいらしい。
沙良が泰雅を紹介した後で妻がボブを紹介すると、冒険者達がその聞きなれない名前に首を傾げている。
更に結花さんがフォレストウサギのアレキサンドリア・リヒテンシュタインと源五郎を紹介すると引いていた。
やはりこの世界の住人達にも、おかしな名前だと感じるんだろう。
ボブと源五郎が、名前を呼ばれる度に元気を失くしていくんだが……。
俺はテイム魔法を習得したら、絶対に普通の名前を付けようと心に決めた。
沙良が地下15階を攻略するのは、今日初めてだと言う。
安全地帯を出た後で接敵したのは三つ目ベアだ。
ベア系の魔物は鋭い大きな爪を持っている。
摩天楼のダンジョンにいた、四ツ目ベアより少し体長が低いか?
俺は泰雅に騎乗したまま三つ目ベアへ駆け出し、接近した瞬間首を刎ねた。
樹が用意してくれた俺の武器は、その性能を遺憾なく発揮し胴体から首を切り離す。
うん、切れ味も最高だ。
剣を一振りして血を払い刃の状態を確認する。
そこには刃こぼれ一つない美しい波紋が見えた。
エロ爺らしい名匠であるシュウゲン。
腕の方は確かなようだ。
ドワーフは気難しい職人が多いのに、樹はよく注文を受けてもらえたな……。
きっと俺が依頼しても、直ぐには製作してくれないだろう。
沙良達の武器も作ってやりたいが……。
俺の知っているドワーフは、まだ生きているだろうか?
休みの日に一度顔を出してみるか。
倒した三つ目ベアを沙良がアイテムBOXに収納する。
本当に便利な魔法だな。
狩った魔物を全て持ち帰れるんだから、収入も凄い事になりそうだ。
戻ってきた俺の腕に妻が抱き着いてくる。
おいおい、人前で恥ずかしいじゃないか。
なんだ?
惚れ直したか?
照れていると、泰雅が不意に上空を見上げる。
視線を向けたその先に、迷宮イーグルの姿があった。
俺達を獲物と定め降りてくる途中、沙良が妻へドレインを使用するよう指示を出す。
妻が魔法を発動させ迷宮イーグルが意識を失い地面に落下した所、動かない魔物を槍で突き仕留めていた。
接近戦に不安がある妻には、安全な討伐の仕方だろう。
これなら俺も心配しなくて済む。
次に出現したのはポイズンアント6匹だ。
この魔物は常に集団で襲ってくる厄介な存在で、1人で攻略していた俺は苦手だった。
そんなポイズンアントも結花さんがドレインの魔法で昏倒させた後、雫ちゃんと一緒に覚えた魔法で仕留める。
魔石も手早く取り出していた。
暫くすると、沙良が森の木にアメリカンチェリーが生っていると言い出す。
ダンジョン内で果物が生るとは到底信じられないが、出てくる迷宮モンキーを賢也と尚人君が次々と倒しアイテムBOXに収納する後を付いていった。
森の中央まで進むと、沙良から1本の木を指し上を見てと言われる。
7mくらいの高さに赤い実が見えた。
賢也が魔法を器用に操り、その実を枝から切り離して収穫する。
落ちてきた実を確認すると、通常の4倍以上はある大きなアメリカンチェリーだった。
沙良が早速口に入れ、美味しそうに食べている。
それを見た俺達は唖然となった。
ダンジョンに果物が生っているだと!?
「ダンジョン内に果物が生っているなんて!」
「地下11階以降が森だったのも驚いたけど、これは予想外よ!」
「もしかして王都の店で売っていた高級フルーツは、迷宮都市のダンジョンで採れた物なの?」
雫ちゃんと結花さんが、沙良へ興奮気味に尋ねている。
「はい、私達が採取した物を店に卸しているんです。毎日沢山生るので、勿体ないから売る事にしたんですよ~」
「高級フルーツが取り放題……」
沙良の言葉を聞いた2人は、張り切ってアメリカンチェリーの採取を始めた。
俺は女性陣に採取を任せる間、襲ってくる迷宮モンキーの対応に追われる。
しかし、こいつら数がやたら多いな。
もしかすると果物を守っている魔物なのか?
そう簡単に採らせる心算はないようだ。
これ、普通の冒険者なら命懸けの採取じゃないだろうか……。
それにしても、ダンジョン内で果物が生るとは知らなかった。
俺が気付かなかっただけで、摩天楼のダンジョンにも生っていたのかも知れん。
ただ、生っている場所が相当高いので普通は発見出来ないと思う。
そもそも危険なダンジョン内で、魔物に襲われながら果物採取をする冒険者など皆無だ。
そんな事をしていたら命に危険が及ぶ。
沙良達は、今までどんなダンジョン攻略をしてきたんだ?
あまりにも、その平和な考え方に一抹の不安を覚えた。
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