ガルムに騎乗したかったのだろう。
ガーグ老に止めた方がいいと言われた沙良ちゃんが、しょんぼりしている。
そんな娘へ騎獣担当の男性が、庭にいる従魔達を見て尋ねた。
「その、ここにいる従魔達は誰がテイムされたのですか?」
「私と、彼女です」
自分と妻であると話し従魔達を紹介する。
「私の従魔は5匹ですね。シルバー、フォレスト、泰雅、黄金、山吹」
娘が従魔達の名前を呼ぶと、5匹が整列し尻尾を振っていた。
「あら、じゃあ私の従魔も紹介するわ。アレク・源五郎・マリー」
妻も同じように名前を呼び従魔達を紹介する。
3匹のフォレストウサギが飛び跳ねながらやってきた。
テイムには魔力が必要だと知っている騎獣担当者は、2人でテイムしたと知り顔を引き攣らせている。
特に娘の従魔は種族が違うから驚いたかもな。
「どれも皆、よく調教されているようですね」
主人の指示に従い、大人しくしている従魔達を見て感心していた。
すると娘がフリスビーを出し遠くへ投げる。
フリスビーをジャンプして口に咥えた従魔達が戻ると、次に1m程の壁を出す。
壁を従魔達が飛び越える姿を見せて得意げだ。
「いや……あの、そういった意味ではなく……」
娘は調教の意味をはき違えているらしい。
それは芸だな……。
王族に対し訂正するのを躊躇う男性が、困った様子でガーグ老へ視線を送る。
「おぉ! サラ……ちゃんの従魔達は皆賢いようだわ!」
ガーグ老が空気を読み褒めてくれた。
機嫌を良くした娘がにっこり笑う。
「ガルム達に名前は付いているんですか?」
「いえ、この子達は繁殖した魔物ですから名付けはしておりません」
「名前がないなんて可哀想……。ガルちゃんも名前が欲しいよね~」
娘がそう言った瞬間、ガルム達が一斉に尻尾を振った。
んんんっ?
ガルムが娘の言葉に反応しているように見えるんだが……。
「あのっ、繁殖した魔物ならテイムはされていないんでしょうか?」
少し焦ったように、騎獣担当者へ質問している。
「騎獣用に調教はしてありますが、直接テイムはしておりません。MPが沢山必要になりますから」
「それなら、どうやって言う事を聞かせているんですか?」
「調教用の笛の音を組み合わせ、指示を出すのです」
ガルム達へ指示を出す方法を聞き安心したのか、落ち着いた表情になった。
しかし、その後にガルム達が首を上下に動かし頷くような仕草をしている。
更に言うと、その中の一匹が明らかに大きくなっていた。
まさか、この短時間で10匹のガルムをテイムしたんじゃないだろうな?
娘に懐いているガルム達を見て疑問に思う。
響が娘のテイム方法は特殊だと言っていたが、見ていた限り特に何かをした様子はない。
強いて言えば、名前を呼んだ事くらいだろう。
そんな方法でテイム出来る訳がないよなぁ~。
娘が食事の準備を始めると、ガーグ老が騎獣担当者と工房内へ入っていく。
俺の事情を上手く説明してくれよ?
娘が作った料理を三男役が配膳しているが、四男・五男・嫁役の2人は微動だにしない。
影衆達に演技を期待するのは無駄らしく、娘が変に思わないか心配だ。
将棋を指してした手を止め、俺達も席に着いた。
「お待たせしました。皆さん、今日もありがとうございます。お昼のメニューは、『酢豚』と『肉まん』です。『肉まん』は蒸し立てで熱いから注意して下さいね。それでは頂きましょう」
「頂きます!」
全員が一斉に珍しい『肉まん』を手にした。
「おおっ! これが『肉まん』かぁ。姫様が冬になると食べたがっておったわい」
そう言ってガーグ老が齧り付くと、
「この白いモチモチとした部分が美味しいのぅ~。さぁ、お前も遠慮せず食べるがよい。サラ……ちゃんの料理は絶品だぞ?」
騎獣担当の男性へ勧めていた。
「お言葉に甘えて頂きます」
王族が作った料理に恐縮しながら、彼は一口食べる。
「美味しい!」
その味に驚いたのか直ぐに完食してしまった。
「姫様が食べたがっていた理由が分かりました。……良かったですね」
いや、目を潤ませながら俺の方を見られても返事に困る。
出来るだけ無表情でいよう。
彼は既に2個目を手にしていた。
この機会に沢山食べてくれ。
俺も熱々の『肉まん』を口に頬張り堪能する。
これは旨い! 幾らでも入りそうだ。
そう思っていると、何かが落ちる音が聞こえる。
音がした方へ視線を向けると、木から落ちた『万象』達がいて唖然となった。
「結花? バスケットに何を入れたんだ?」
「今日はホットドックと果物よ~」
あぁ、朝食に出てきた激辛のホットドックか……。
そりゃ異世界人にはキツイだろう。
あれを食べたなら、悶絶して木から落ちるのも無理はない。
「そっ、そうか朝食と同じなんだな……」
「『ホットドック』も、姫様から聞いた事のある食べ物ですね」
『肉まん』を食べた彼が、『ホットドック』にも興味を示している。
「あら、まだ残っているから食べますか?」
「沙良ちゃんの料理が冷めちゃうから、彼が食べ終えてまだお腹に入るようなら出してあげなさい」
俺はすかさず、妻の迷惑な行為を遮った。
そして小さな声で忠告する。
「妻の料理は刺激が強いから食べない方がいい」
「妻!? ……あぁ、そうでいらしたのですか」
妻がいると知り、妙に納得した表情をし頷いていた。
ヒルダ時代、男性に関心を示さなかった俺は、女性が好きだと思われていたんだろうか?
食後に将棋を指す俺達を残し、沙良ちゃん達は一度ホームへ戻るようだ。
俺と響は、この時間を利用して薬師ギルドへ行こう。
薬師ギルドへは、泰雅に2人乗りし移動する。
マリーは乗り心地がちょっとな……。
薬師ギルドに到着すると、響を見た受付嬢が応接室へ案内してくれた。
少し待つと、見覚えのある人物が部屋に入ってくる。
「ゼリア様! どうして、ここにいらっしゃるの?」
世界樹の精霊王と親交がある白狼族の族長の娘に、思わず声を上げた。
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