樹おじさんの態度にどこか腑に落ちないものを感じつつ、家族の再会を邪魔しないよう私達はお暇しよう。
「じゃあ、これでお先に失礼しますね。旭は実家に泊まるでしょ?」
そう言って帰る事を伝えると、樹おじさんに引き留められた。
「せっかく皆が揃ったんだから、一緒に食事をしよう! それに色々と話も聞きたいし!」
逃がさないとばかりに、私の右手と父の左手をがっしり掴み捕獲される。
いやいや、それは何の罠ですか……。
「久し振りの再会だから、家族でゆっくりして下さい」
「あら、沢山作ったから問題ないわよ。いつもご馳走してもらってばかりだし、偶にはうちで食べていって?」
沢山作ったのか……。
悪意なく笑顔で雫ちゃんのお母さんに誘われ、それ以上断るのは無理だった。
覚悟を決めてテーブル席に座ると、雫ちゃんのお母さんがアイテムBOXから料理を取り出しテーブルの上に並べる。
夕食のメニューは、カレーライスと唐揚げに野菜サラダ。
これなら問題なさそう。
料理を見た樹おじさんも、ほっとした顔をしているような……?
「あなたの好きなものにしたのよ~。皆も遠慮せず食べてね!」
「頂きます」
カレーを一口食べた瞬間、激甘だった……。
隠し味のチョコレートが全く隠れていないよ!
唐揚げは……、ちょっとベタベタしている。
まともなのは野菜サラダだけか……。
「姿は変わっても、料理の味は同じなんだな……」
8年振りに妻の手料理を食べた樹おじさんが苦笑している。
その懐かしい? 味を食べ、本当だと実感したらしい。
食事をしながら、私達が冒険者になりダンジョンを攻略している話をすると樹おじさんの顔が輝いた。
「冒険者! 俺も一緒にパーティーを組むよ! いや~、夢が叶った」
「じゃあ明日、冒険者登録しましょう。ダンジョンにはC級冒険者じゃないと入れないので、Lv上げも必要ですね」
「Lvなら……。あぁ、そうだな俺は0なのか……。武器や防具も購入する必要がありそうだ。結局、注文して一度も使用出来なかったなぁ……」
注文? 日本にいた時、何か頼んでいたのかな?
私が召喚してしまったから、なくなったと思っているんだろう。
「ホーム内の家は日本と同じなので、物は減ったりしませんよ?」
「いや……。あれは、家に置いてなかったんだよ」
?? じゃあ、まだ届いていない商品だったのか……。
食後に、私は召喚時の能力が書かれた『手紙』を渡した。
樹おじさんの3つの能力はなんだろう?
【召喚された旭 樹様へ】と書かれた封筒
『椎名 沙良様から召喚された方へ
すべての元凶は私です。
この責任を取り、出来うる限りの保障をさせて頂きました。
まず、いま貴方がいる世界は地球ではありません。
剣と魔法のファンタジーである所の異世界です。
椎名 沙良様にあわせ、年齢は設定させて頂きました。
なお既に覚えた能力はそのままとさせて頂きます。
旭 樹様の能力
【特殊魔法】
●付与魔法 魔石に習得済みの魔法を付与出来ます。魔石により、使用回数は異なります。
●空間魔法 マジックバッグを作製出来ます。Lv×1㎥。
●性別変化 Lv×1日。(なお、一度使用すると日数経過後まで解除出来ません)
まずは「ステータス」と唱え、自分の能力を確認する事をお勧めします。
最後に、このような不幸な目に遭わせてしまいましたが、これからの貴方の人生が幸多き事でありますようお祈り申し上げます。』
読んだ樹おじさんが固まっていたため、隣から父が手紙を覗き込み内容を教えてくれた。
付与魔法と空間魔法は便利そうね~。
最後の性別変化は何の役に立つのかしら?
「なっ、なかなか良い能力だと思うぞ」
「攻撃魔法がひとつもないし、最後のはいらね~よ。女になっても良い事なんかない!」
与えられた能力に不満があるらしく、樹おじさんが憤慨している。
確かに性別変化の能力だけは、不要な感じがするけど……。
私達の『手紙』も渡し、後で読んで下さいねと言い旭家を後にした。
帰り際、樹おじさんに抱き締められて驚く。
私は48歳で亡くなったから、親友の娘が生きていると知り嬉しかったんだろうか?
それにしては長かったような気が……。
最後にとても小さな、「生きていてくれてありがとう」と言うおじさんの声が聞こえた。
顔を上げると、目が真っ赤になっている。
私を見る様子がいつもと違う?
まるで雫ちゃんに対する態度とそっくり。
別人になり違和感がある筈の顔をじっと見つめられ、気恥ずかしい思いをして帰る。
明日は樹おじさんのLv上げで忙しくなりそうだ。
転移者だから、魔物からの魔法習得も可能だろう。
基礎値も78と高いため、Lvが上がれば力や体力といったステータスでは見えない部分も補強される。
父と同じくらい鍛えた体をしている樹おじさんなら、冒険者活動に問題はなさそう。
あっ、息子が兄と結婚している話をするのを忘れてた!
大事な事だから、明日話してあげよう。
両親と奏伯父さんを実家へ送り、マンションに戻る。
奏伯父さんは召喚されたばかりの義理の息子が混乱しないよう、母の兄だと名乗り妻が娘である事は言わなかった。
聞けば驚くだろうなぁ。
自宅へ帰ろうとしたら、兄に食事を催促される。
「沙良。悪いんだが、何か簡単な物を食べさせてくれ」
そう言えば、いつも沢山食べるのにカレーのお代わりはしてなかった……。
激甘カレーは口に合わなかったんだろう。
アイテムBOXから、作り置きの料理を幾つか出してあげる。
兄はそれを美味しそうに食べると、満足したのかお礼を言い部屋へ帰っていった。
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