洞窟内にキーンと音が反響する。
ツルハシによって壁が崩れた表面に、黄金の鉱物が顔を出した!
おおうっ! 儂の勘も、まんざらではないな。
最初から金脈を掘り当てたか!?
それを見た師匠が驚きの表情に変わる。
「いやはや、初日で鉱物の声を聴き分けるとは、シュウゲンには素質があるようだ。私の時は、分かるまで半年くらい掛かったものだが……」
ちょっと待て! じゃあ最初から、今日は無理だと思っていたのか?
安全地帯のないS級ダンジョンへ勝手に連れてきて、収穫もなく帰らせる心算か!
しかも半年間ずっと……、心が折れそうな修行じゃ……。
それはもう悟りを開く境地ではないか……バカバカしい。
やはり、この爺が師匠なのは、どう考えても運が悪いとしか思えん。
鍛冶師ギルドでチェンジは出来んものか……。
遠い目になりつつ、せっかく掘り当てた金に手を触れ鑑定する。
【黄鉄鋼】(装飾品の原料で金と間違われる事が多い)
なんと、金ではないのか!? ぬか喜びさせおって……。
ここまで来て偽金だけでは帰れん。
役立たずの爺はこの場で残し、他の場所へ探しに行こう。
「師匠。儂は、もう少し先で採掘作業をする。バール行くぞ」
「あまり奥へ進まんようにな~」
監視する気もない師匠に、ひらひらと手を振られる。
よし、必ず価値のある鉱物を持って帰るぞ!
意気込みを新たに襲ってくる魔物を撃退しつつ、更に100mほど進んだ先で立ち止まる。
儂の勘が正しいなら、天井付近に鉱物がある筈だ。
上を見上げ、ツルハシが届かない距離に思案する。
「バール。お主の持っておる大槍を貸してくれんか?」
以前、一度だけ見た大槍を投げつければ壁が崩れるだろう。
「私の槍ですか? それは恐縮です」
バールは儂の願い通り、どこからか大槍を出し大変畏まった態度で渡してきた。
受け取った赤色の大槍は、ずっしりと重く何やら非常に力強さを感じる。
ところで、この大槍はどこにあったのかの? 体の中に収納しておるのか?
不明な材質で出来ている大槍を勘が働いた場所へ勢いよく投げつけると、崩れた壁が地面に落ちて穴が開き緑色の鉱物が現れる。
鉱物へ当てないよう慎重に狙いを定め、もう一度掘り出すよう大槍を投げた。
すると、緑色の鉱物が壁から離れ落下する。
40cm程の塊の鑑定結果に目を瞠った。
【緑風石】 (風魔法が内包された武器の原料で非常に珍しく、これを使用した武器を振るうと風魔法の追加攻撃が入る)
これは当たりのようじゃ。
風魔法が使えん儂でも緑風石で武器を鍛えれば、攻撃に追加されるという事であろう。
掘り当てた鉱物に笑みを浮かべ、師匠が呼びに来るまで場所を変えながら採掘を行った。
この日は他に【紫水晶】と【ミスリル鉱石】を発見して、意気揚々とダンジョンを出る。
採掘に夢中になっていた所為で忘れていたが、時刻は既に夕方を過ぎていた。
昼食を取り損ねたな……。
「【緑風石】とは珍しい鉱物を発見したな。この大きさなら金貨100枚は下らん。竜馬を借りた甲斐があった。騎獣代はシュウゲンに払ってもらうか」
採掘出来た鉱物の報告をしたら、騎獣代(金貨1枚)を払わされた。
弟子から金を巻き上げるとは、がめつい爺じゃ。
夕食を奢ろうかと思っておったが、さっさと王都へ帰ろう。
竜馬を預けた騎獣屋に向かい引き取ると、その背に乗りレガントの都市を出る。
行き同様、師匠が笛を吹き始め、疲れたところに耳障りな音を聞かされた儂はイライラしてつい声を上げる。
「ええいっ、やかましい! そんなに笛を吹かんでも、竜馬は賢いから王都まで帰れるじゃろ!」
大声を聞いたバールが、即座に動いて師匠から笛を取り上げ竜馬の腹を一蹴りした。
その瞬間、竜馬は空高く飛び上がり加速して飛行を続ける。
これで帰りの1時間は静かになったな。
「これ! 笛を吹かんと王都に帰れんぞ! 早く返すのだ!」
後ろで爺が喚き立てておるが、儂もバールも完全に無視し、あとを竜馬に委ねる。
儂らが取り合わないでいると、
「どうなっても知らんからな!」
ぷりぷり怒って師匠は諦めたようだ。
なにも問題なかろう。
「最速で王都へ!」
行き先を告げ竜馬の首を叩くと、
「ヒヒーン!」
了解したように鳴き声が上がる。
うむ、可愛いやつじゃ。
ちゃんと儂の言葉を理解しておるな。
これほど賢い騎獣なら飼ってもよいかも知れん。
王都へ戻るまでの間に、疲れた体は休息を求め知らぬ内に眠っておった。
師匠に起こされ目覚めると、竜馬が下降を始め王都の門前に到着するところだった。
騎乗したまま騎獣屋に竜馬を返却しに行った帰り道。
「笛の指示もなく、王都まで戻るとは驚いた……。あの竜馬は相当賢いのか?」
師匠だけが不思議そうに首を捻り唸っていた。
「今日は疲れたであろう、明日は休みにする。2日後に鍛冶師ギルドで鍛冶魔法の練習を始めるから、9時にこい」
帰り際、明日の予定はないと聞きほっとする。
この爺は何をさせるか予想がつかん。
次が鍛冶魔法の練習なら、疲れる事もないだろう。
「分かった」
今日は何も教えてもらっておらんが、一礼し宿屋へ戻る。
初日から、こんな調子で鍛冶魔法が上手く使えるようになるんじゃろうか……。
師匠が出来たと喜んでいたが、感覚派の爺に付いていけるか不安だの。
どうにも王都に長くいる事になりそうで、宿に泊まるより家を借りた方がいいんじゃないかと思いながら、とにかく空腹をなんとかしようと食事の用意を始めた。
ダンジョンに長く潜る前提で購入した食料を、消費せねばならんからな。
いつもより量を多く作った夕食は残らず胃に収まり満腹になった途端、意識を失うように寝落ちした。
翌日。
やはり宿を出て家を借りようと、商業ギルドに向かう。
出来れば、あの竜馬を買い付けたいと思っていたから、広い庭がある家を希望する。
幸い貸し物件の中に該当する家が見つかり、1ヶ月金貨20枚で借りる事が出来た。
次に騎獣屋へ行き、店主と竜馬の買い取り交渉をする。
調教された魔物は高いと思っておったが、金貨1,000枚とは吹っ掛けすぎじゃ。
なんとか金貨900枚まで値切り、竜馬を買い取った。
それでも9億円の買物は人生で初めてだから、心臓がバクバクしたわ。
借りた家に入り竜馬を庭へ放してやると、その場で鎮座し儂を見上げる。
名前がないと、呼ぶのに不便よな。
「今日からお前の名は、黒曜じゃ」
そう告げたあと竜馬の首を撫で様子を窺うと、名前が気に入ったのか首を激しく上下に振っている。
我ながら良い名前を付けたと満足していた時、急に頭の中に声が響いた。
『ご主人様。良い名を与えて下さり光栄です。黒曜の名に恥じない騎獣として、生涯お仕え致します』
今の声は、目の前の竜馬から発せられたものか? 魔物も念話が出来るとは知らなんだ。
それなら儂の言葉も理解出来るであろうし、あの無粋な笛も必要なさそうだな。
金額を聞き躊躇したが、思い切って買い取ったのは正解じゃった。
「これからよろしく頼むぞ! 黒曜!」
『はい、お任せ下さい』
儂らの遣り取りを見ていたバールが、何度も頷いて竜馬の背を叩く。
彼も、この騎獣が気に入ったようだ。
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