翌朝。
目が覚める前、傍にある温かさに気付き、私はいつものように体を撫でた。
あれ?
もふもふの感触がない?
……お兄ちゃんは、いつも大きい猫ちゃんの姿をしているのに。
手触りの良い毛を探しながらお腹の方を探っていくと、突然その手を掴まれた。
「沙良、それ以上は止めてくれ。なんでお前は俺の体を撫でまわしているんだ?」
兄の声を聞き、意識が急浮上して目が覚める。
私……、やっぱりおかしい気がする。
兄の事を人間じゃないと思うなんて、どうかしてるわ!
少し前シルバーとフォレストの間に埋もれて一緒に寝たから、記憶を混同しているのかしら?
「おはよう、お兄ちゃん。シルバーと勘違いしちゃったみたい」
「勘違いにも程があるだろう。くすぐったくて目が覚めたぞ?」
「ごめんなさい。もう起きたから! 今日は両親の召喚をする心算なの。事情を説明した後で一緒に食事をしたら、お兄ちゃん達の結婚報告もしようね~」
「あぁ、やっと両親に会えるのか。突然行方不明になったから、さぞかし心配をかけただろうな。結婚報告は俺からする。お前は何も言わなくていい」
お~、男前の発言だ。
結婚式を済ませて、漸く両親に報告する覚悟が決まったのか……。
それでも、もし躊躇うようだったら私から言ってあげよう。
今朝は旭がいないので、兄と2人だけの朝食だ。
旭も久し振りに母親の料理を食べる事が出来て、うれ……しくはないかも知れない。
トーストと目玉焼きくらいなら、そこまで味に違いは出ないだろう。
日本の食材を使用出来る事で、母親が張り切って作らなければ……。
私達は朝食の定番である焼き魚に卵焼きに味噌汁、作り置きした幾つかのおかず数品を一緒に食べた。
兄達の部屋を出て自室に戻り、サヨさんを迎えにいかないと。
お母さんと会えるのを、凄く楽しみにしていたからね。
兄に、これからサヨさんの所に行くと言って出掛けた。
異世界の自宅にある庭へ一度移転し、華蘭まで歩いて移動する。
お店に到着して直ぐサヨさんを呼んでもらい、今日両親を召喚する事を話すと、とても喜び老紳士に私の家へ泊る事を伝えていた。
すみません、奥様は外泊なさるそうです。
今日1日、食事は我慢して下さいね。
サヨさんを連れてホームの自宅に移動する。
新しく拠点にした兄のマンションにくるのは初めてだったから、サヨさんが広くなった部屋に驚いていた。
両親を召喚した後、夕食を一緒に食べる予定なので何の料理を作るか2人で決めていく。
当然、迷宮ウナギは食べてもらう心算だ。
蒲焼と肝焼きの両方があった方がいいだろう。
サヨさんは、お母さんの好物だった物を作るらしい。
私はダンジョンで狩った食材を使用して、豪華なメニューにしよう。
蟹・帆立・鮑が使い放題だからね~。
それから2人で料理をせっせと作っては、アイテムBOXに収納する事を繰り返す。
このマンションはキッチンも広いから、2人同時に料理を作っていても動線が被らないので助かる。
昼食は兄と一緒に外食する事にした。
マンションから近いお店に愛車のスポーツカーで行く訳にはいかず、私のアパートにあったSUVに乗って向かう事にした。
マッピングでも行けるけど、兄はホーム内では車を運転して移動する方が好きみたい。
連れていかれたお店は、以前私がランチを食べに行った所で少し驚いてしまった。
気付かれてないよね?
前はメインを魚料理にしたので、今日はフィレステーキにしよう。
サヨさんと兄は、魚と肉の両方が付いているコースを選んだようだ。
電子メニューから注文し、テーブルに料理が並ぶと美味しいそうな匂いにお腹が空いてきた。
3人で完食すると、再びマンションに戻って残りの料理を作る。
召喚する場所は私達の実家にした。
突然、全然知らない場所に召喚されるより衝撃も少なくて済むだろう。
準備を済ませ旭達を呼びにいくと、雫ちゃんが夕食は私達と一緒に食べる事を知り大喜びしていた。
朝食と昼食は一体何を食べたのかな?
旭は今夜から兄の部屋に戻るそうだ。
まぁ、新婚さんだからね~。
母親の料理が食べたくないからじゃないと思うよ?
全員揃って実家に行き、皆が召喚の時を今か今かと期待して待っている。
時計の針が17時を指した瞬間、私は全員の視線を浴びながら両親の名前を呼んだ。
「召喚! 椎名 響、椎名 美佐子!」
すると目の前が光り出す。
光の粒子が消えた後、部屋には若返った両親の姿があった。
8年振りに両親と会い、懐かしさで胸が一杯になって知らない内に涙を零す。
きっと別人になっている私の事には気付いてもらえない。
今ここで両親が分かるのは、兄と旭の2人だけだ。
サヨさんや雫ちゃん、旭の母親と私は姿が変わっているから……。
まず母が、若返っている息子の姿に気付いて口を開く。
「賢也……なの?」
「あぁ、俺だよ母さん」
「どうして、そんなに若い姿でいるのかしら? それに今まで連絡もしないで、何処にいたのよ!」
突然行方不明になり、本当に心配していたんだろう。
母は兄が若返った姿より、連絡がなかった事に怒っていた。
そして父の方は……。
何故か兄に目もくれず、私の顔をじっと見つめながら歩いてくる。
「生きていたのか!?」
そう言って、いきなり抱き締められたから驚いてしまう。
えっ!?
別人になっている私の事が分かるの?
「お父さん! 気付いてくれてありがとう! 会いたかったよ~」
私は何も言う前から娘と気付いてくれた事が嬉しくて、父を思いきり抱き締め返した。
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