12年間の何とも虚しい人生を終えた私は次に目が覚めた時、全く同じ風景を見てショックを受けた。
えっ!?
私、さっき死んだんじゃなかったの?
だってゲームの話では12月24日の朝には亡くなっている設定なんだよ?
混乱した頭で納屋の中を見渡そうとしたら、首が動かなかった。
何故か視線は固定されたままだ。
どうやら私は、納屋のむき出しになっている地面に倒れているらしい。
さっきまでせんべい布団に包まっていた筈なのに、なんで?
確か最後に沙良お姉ちゃんを召喚した後、意識を失ったと思う。
そして体が動かない理由が分からない。
暫くすると、私の意志とは関係なく体が起き上がった。
何これ!
とっても気持ちが悪いよ。
そして私の口から、話してもいない言葉が漏れた。
「痛っ……何?」
その瞬間、私は沙良お姉ちゃんの体の中に意識がある事が分かった。
あぁ無事に召喚出来たんだ。
じゃあ、私はちゃんと? 亡くなったんだろう。
今のこの状態は、お姉ちゃんの目を通して同じ物を見ている状態なのかな。
お姉ちゃんは体の状態を確かめて回りを確認すると、
「えっ? ここ何処??」
非常に驚いた声を出す。
うん、ごめんなさい。
私が勝手に召喚しました。
不思議な事に、お姉ちゃんの考えている事は全て伝わるんだけど、私から働きかける事は出来なかった。
まるで今まで一方的に夢を見ていたのが、リアルタイムになった感じ。
その慣れない感覚に戸惑っている間に、お姉ちゃんは床に落ちている封筒を拾って中身を読み始めた。
誰だか分からない人が、私の「家族の下に生まれ直したい」という願いを聞いて、お姉ちゃんに召喚の能力を授けてくれたみたいで安心する。
これで両親や家族を召喚してもらえれば、私の願いは叶うだろう。
もう夢で見て、異世界の自分との境遇の違いを嘆き悲しむ事はない。
日本での家族の様子を見ると、私は本当に羨ましかった。
何もかもが異世界の私には無い物ばかりだったから……。
愛情を注いで子育てをする両親、仲の良い兄妹、誕生日パーティーや家族旅行。
夢の中で一緒に参加している気分にはなったけど、やっぱりそれじゃ寂しかった。
ここには家族が付けてくれた『香織』という名前で呼んでくれる人は誰も居ない。
只の一度も呼ばれなかった私の本当の名前……。
いつか私の事を大切にしてくれる本当の家族に会えるのだと思ったら、死ぬのも悪くなかったんじゃないかと思えた。
手紙を読み終えたお姉ちゃんの体が光に包まれると、リーシャの姿に変わっていた。
おおっ!
流石ファンタジー世界!
でも、こんな痩せてボロボロな体にしてしまって申し訳ないです。
着ている服も、夢で見た日本の品質とは比べ物にならないくらい酷い。
まるで浮浪者が着ているような服だ。
お姉ちゃんは現状を把握すると、早速手紙に書かれている指示に従ってステータスを表示させる。
これはゲームの設定通りだった。
私の場合は、MP/HP共に誕生日前だったので11だ。
そしてまだ魔法学校に入学していないため、使用出来る魔法も無かった。
そう考えると、HP/MPが48あるお姉ちゃんは冒険者として成功出来るだろう。
更に最初から時空魔法(ホーム・アイテムBOX・マッピング・召喚)があるのはチート仕様だ。
夢の中の人は、お姉ちゃんに非常に有能な能力を与えてくれていた。
これ、知られたら絶対ヤバイやつ。
時空魔法を使える人間なんてこの世界に居ないと思う。
まだ魔法学校に通っていなかったけど、それぐらいは知識として分かる。
夢でずっとお姉ちゃんの事を見てきたから、私は12歳だけど無駄に知識があるんだよね。
なんか一気に大人になった気分だよ。
色々、早過ぎる体験も見聞きしちゃったしね。
うん、赤ちゃんがどうやって生まれるのか実践で覚えたよ!
お姉ちゃんの歴代の彼氏も全員言えるし、性癖も知ってるなんて言ったら怒られちゃうわよね~。
でも夢の内容は自分で選べないから、仕方無かったんだよ?
好きでそういう場面ばかり見ていた訳じゃないから!
心の中で見てしまった事を必死に言い訳していると、お姉ちゃんが『ホーム』の能力を使用して自宅に戻ってきたみたい。
あぁ、ずっと夢の中で見てきた部屋が目の前にある。
なんか凄く感動するなぁ~。
自宅に帰れたことで安心したのか、お姉ちゃんは玄関で脱力してしまったけど……。
その後、立ち直って部屋の中に入り、物で溢れている部屋を見て驚いていた。
でも直ぐにアイテムBOXに収納していた所が、らしくて笑ってしまう。
アイテムBOXの能力は、とても便利だと気に入ったらしい。
それから現状回復された室内に感激して、コンビニ弁当を食べてお茶を飲んでいる。
ずっと食べたかった『お米』を前に、味覚が共有出来る事を願ったけれど……。
残念な事に味覚は感じる事が出来なかった。
なんだ、がっかりだよ~。
この1年、継母に虐待を受け碌に食べていなかったから余計にショックだった。
まぁあの残飯に比べるまでもなく、美味しいんだろうなぁ。
お母さんやお姉ちゃんが作る料理は、家族が美味しそうに食べていたから夢で見ている私も幸せな気分になれた。
だって、私はずっと1人きりの食卓が多かったから。
お母様と食事を一緒に食べた事なんて、数える程しかない。
月に数回、お父様と一緒に食べる時があったけど、貴族のテーブルはやたら長いんだよね。
日本のテーブルのように、すぐ隣の席に人がいる状態で食べる事はないんだ。
当然、会話するのに向いている距離じゃないので、出された料理を無言で食べる罰ゲームみたいだった。
日本の家族がわいわい楽しくおしゃべりしながら食事している姿を見て、本当なら私も一緒にこの中で混ざって食べていたんだと思うとちょっと悲しかったけど……。
料理上手なお母さんが作ったメニュー、食べて見たかったなぁ~。
双子達が大好きな、お姉ちゃんが作るお子様セット(オムライス・ハンバーグ・エビフライ)も美味しそうだった。
生まれ変わったら、沢山作ってもらおう!
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!