月曜日。
午前中は、ダンジョンで果物採取をする妻達に襲いかかる迷宮モンキーをひたすら倒した。
昼食を食べにホームへ戻ると、沙良ちゃんがステータス値が上がる玉の事をメンバーに話す。
尚人は、
「それ、もうLv上げ必要ないじゃん……」
と言い唖然としていたが、賢也君は無言で響と部屋を出ていく。
妹が作製した玉の価値に気付き、相談する必要があると思ったんだろう。
雫が沙良ちゃんから幾つかの玉を渡され、嬉しそうにしている。
やはり自分だけ低いステータス値を気にしていたようだ。
早速、玉を舐め飴みたいで美味しいと満足そうに笑う。
10分程して、部屋から出た2人が戻った。
「沙良、その玉はパーティーメンバー以外へ絶対渡すなよ!」
「雫ちゃん専用にするから大丈夫!」
賢也君から怖い顔で詰め寄られた沙良ちゃんは、焦ったように返事をする。
父親の響より、兄の賢也君に注意された方が効果がありそうだな。
2人の遣り取りを見ていた義父が、おずおずと手を上げる。
「沙良ちゃん。俺にもくれないかい? 皆と違い、基礎値が15しかないんだよ」
貴族は魔法学校に通い、15歳で初めて魔物を倒しLvを上げるんだったな……。
それを聞いた響が俺も欲しいと言い出す。
「お父さんには必要ないでしょ?」
「いや、樹との差が……」
基礎値が78だと思われているため当然却下され、肩を落としていた。
Lv70の俺よりLv125ある、お前の方が高いからいいだろ?
ステータス値は俺の方が多いけどな!
響に勝てるものが少なく、こんな事しか娘に自慢出来ないのが悲しい……。
唯一、ガーグ老仕込みの剣と槍の技術は俺が上くらいのものだ。
魔物相手より、対人戦に特化した一撃必殺に近い技術だが……。
美佐子さんの作った美味しい料理を食べ、午後からは魔物の討伐をする。
2回の攻略を終え休憩のためにホーム内へ戻ると、響が摩天楼のダンジョンで呪具を発見したと言う。
禁制品の呪具をダンジョンに設置する心算なのか!?
娘に危険が及んだらどうする!
その卑劣な方法に怒りが湧き、
「帝国を滅ぼすか……」
つい口が滑り、聞き咎めた響に宥められる。
アシュカナ帝国へ突撃する件は、まだ内緒にしないと……。
気分を落ち着かせ安全地帯に戻り夕食を食べたあと、沙良ちゃんが今度披露する『人魚姫』の衣装をリリーさんに渡していた。
冒険者の彼女は、ほぼ肌色に見えるその衣装を見るなり顔を真っ赤にしてしまう。
「あ~、サラちゃん。この衣装は、ちょっとリリーには着せられないな。そのなんだ、少し見せすぎと言うか……」
パーティーリーダーのダンクさんが、フォローを入れた。
この世界の人間は、肌を露出した服は着ないからなぁ~。
迷ったダンクさんが、セイさんと息子を交互に見ている。
「アサヒ君。リリーの代わりに、この衣装を着て劇に出てくれないか?」
より衣装が似合うと判断した息子の方に、人魚姫役をお願いしていた。
まぁ俺に似て童顔で可愛らしい顔の尚人は、人魚姫も普通に出来るだろう。
学生時代、何度も女装経験のある俺はターゲットになりやすいと知っている。
言われた息子はギョッとしているが、娘はその提案を受け入れたようだ。
「旭、人助けだと思って人魚姫の役を受けたら? 私も可愛い姿を見てみたいなぁ~。大丈夫! 絶対似合うから!」
「あら、そうね。うちの子……兄に似合いそうだわ。主役なんて素敵じゃない!」
妻まで擁護しだす。
「わぁ~、尚人兄が人魚姫をやるの? 楽しみだね!」
「やっ、……やらせて頂きます」
雫にも期待した目を向けられ、最後は涙目になりながら息子が折れた。
骨は拾ってやるから頑張れよ!
人魚姫役なら雫か沙良ちゃんにさせたかったが、一度冒険者の劇を見た事があるので考え直した。
あのどう見てもアドリブが必要な劇は、経験のない2人に難しい。
それに遠目から見ると裸で胸だけ隠しているような衣装は、親からすると娘達に人前で着てほしくないしな。
劇の稽古に連れ去られた息子を見送り、俺と響は沙良ちゃんと一緒に摩天楼の冒険者ギルドへ向かった。
呪具があった報告は、迷宮都市のダンジョン攻略をしていない義祖父へ任せたようで迎えに行く必要がある。
冒険者ギルド内に入ると、やたらハーフエルフが目に付いた。
ここのギルドマスターもエルフだったか……。
兄達は、俺の結婚と引き換えに響へ無茶な条件を呑ませたみたいだな。
受付嬢から別室へ案内されると、義祖父と非常に美しい男性がいた。
彼がギルドマスターだろう。
諜報を担うマケイラ家の者のようだ。
当主にしては若いので、こちらも300年の間に代替わりしたらしい。
マケイラ家とハーレイ家の当主達には、不幸なすれ違いがあったみたいだが仲直りしたんだろうか?
「サラさん、報告ありがとうございます。提出して頂いた物を確認したところ、箱の中には呪具が120個入っておりました。しかも全て色が黒い物です。マジックバッグの方は使用者権限の解除に時間が掛かるため、まだ把握出来ておりませんが……」
「偶然ですが、私のメンバーが発見出来て良かったです。呪具も沢山回収したし、犯人確保に向け頑張って下さいね」
「はい。これから冒険者に扮したギルド職員がダンジョンへ潜入し、犯人の特定作業を急ぎます。何とか水際で食い止められるよう尽力する所存です」
娘とギルドマスターの会話を聞き、彼の言葉遣いでエルフの王族と知っている事を察する。
当主同士の仲は悪そうだが、オリビアが連絡しているんだろう。
彼は王族がいる時にダンジョンへ呪具が発見された報告を受け、さぞかし肝を冷やしたようで顔色が悪い。
まだ摩天楼のダンジョンを攻略出来るA級冒険者になっていない娘だが、内緒で潜っていると気付いているのかも? 気を使わせて悪いな。
冒険者ギルドを出て、義祖父と一緒にホームへ戻る。
何も起きない一日はないのか? 週の初めから、やけに疲れた……。
想像していた冒険者像が音を立て崩れていくのは、娘の所為に違いない。
それにしても呪具を120個も準備するとは、帝国は本気でカルドサリ王国を狙っているようにみえる。
海側の国より、内陸であるこの国を落とそうとする理由は何だ?
娘を妻にしたいだけじゃなさそうで、不安が過ぎる。
巫女姫の存在がバレているんじゃないだろうな……。
習得した魅惑魔法のLv上げを早急にする必要がありそうだ。
誰に掛けたらいいのか迷うところだが、響なら大丈夫だよな?
明日から実践しようと決め眠りに就いた。
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