【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第553話 椎名 響 29 犯人の確保

公開日時: 2023年9月21日(木) 12:05
更新日時: 2024年1月12日(金) 23:30
文字数:2,878

 俺ははやる気を抑えながら、目的地である第一王妃の生家へと騎獣を走らせた。

 その隣をバイコーンに乗ったガーグ老が、ぴったりと並走し付いてくる。

 貴族街に入り10分後。

 前方に、今は王家所有となっているはずの屋敷が見えてきた。


 それを目にして、苦々しい思い出がよみがえる。

 国王時代、本当に第一王妃の一族には手を焼かされた。

 第二王妃を毒殺しようとした罪で、一族諸共もろともかなりの数を粛清しゅくせいした心算つもりでいたが……。


 門前には、2人の見知らぬ人物がたたずんでいる。

 ガーグ老が直ぐに排除しようとしないのは、エルフの諜報員ちょうほういんだからか?

 2人の男性は、ガーグ老の姿を確認すると門を開け中へ入るよううながす。

 事前に連絡がいっていたんだろう。

 敷地内に入っても護衛の姿は皆無だった。


 既に屋敷内の外は無力化済みであるらしい。

 俺が騎獣から降りると、上空から2匹が降りて両肩に止まった。

 屋敷の玄関は開放されていたため、そのまま中へ入る。

 ガーグ老達影衆は、再び『迷彩』の状態になり後方に続いた。

 ポチとタマが沙良のいる方向へ首を動かし教えてくれる。

 速足で屋敷の中を駆け抜け、その最奥にある部屋へと辿たどり着く。

 沙良、生きていてくれよ!


 勢い扉を開くとそこには、

 

「遅い!」


 と叫ぶ賢也けんや尚人なおと君の姿があった。

 俺より先に沙良のもとへいる2人に混乱しつつ、まずは娘の無事を確認しようと部屋を見渡したが、どこにも姿がない。

 その代わり、10代後半の男性が手足をしばられた状態で床に転がっていた。

 随分ずいぶんと若いが、こいつが犯人なのか?


「賢也! 沙良は無事なのか?」


「あぁ、先にホームへ帰るよう言った」


 その言葉を聞いた瞬間、緊張が解け張りつめていた息を吐き出す。


「良かった……。そのっ、何もされていないんだよな?」


 一番の懸念けねん事項である、女性が被害にうだろう内容を確認する。


「服装に乱れはなかったし沙良は普通にしていたから、その心配は不要だ」


「そうか……。所で、お前達はどうやってここにきたんだ?」


 疑問に思い質問した。


「沙良から誘拐されたと、通信の魔道具で連絡があった。俺は状況を確認しながら指示を出し、沙良と入れ替わり犯人を取り押さえた所だ。それより、この男はストーカーだ。部屋に沙良の肖像画が沢山掛けてある。壁を見てくれ」


 賢也に渡した通信の魔道具が役に立ったようだ。

 沙良のホーム内は、異世界からでもつながるらしい。

 俺はストーカーだと言われた男を一瞥いちべつし、言われた通り部屋の壁を見る。

 すると、沙良ではなくヒルダ・・・の肖像画が壁一面を埋め尽くしていた。


 それは瞳が紫色な事で明らかだった。

 でもヒルダの存在を知らない賢也達は、沙良の姿が描かれていると思ったのだろう。

 しかも、その肖像画は全て傷付けられていた。

 顔を大きく引き裂かれた物、目をえぐり取られた物、首を切り裂かれた物と相当な恨みがあると思われる。


 やはりこの犯人は、第一王妃に連なる一族の出身だろうか……。

 床に転がったままピクリとも動かない男へ視線を向ける。


「この男、意識はない状態なのか?」


「旭が速攻で気絶させたからな。話は大方聞いているが……。一度起こすか」


 そう言った途端とたん、賢也が右足を大きく振りかぶり男の腹を蹴り上げた。

 その衝撃で男は吹っ飛び壁に激突し、意識が戻ったのかうめき声を上げる。

 この乱暴な起こし方をみる限り、自分がいない間に妹を誘拐され相当怒っているな……。


「おい貴様、どうして妹をさらった」


「俺は命令通りに動いただけだ!」


「嘘を吐け。さっきまでペラペラ、愛人にする心算つもりだと戯言たわごとを抜かしていた癖に」


 賢也が鋭い視線で男の顔をにらみつける。


「お前、何故なぜそれを知ってる……」


 言い訳がバレた男は、顔面を蒼白にしてガタガタ震え出した。

 用意周到な計画だったのか、行き当たりばったりだったのか……。

 とにかく優位な状況から一転、1対3になり味方もこないと分かったのだろう。


「そんな事はどうでもいい。この肖像画は、お前の仕業しわざか? 理由はなんだ?」


「俺は、この屋敷が売りに出されて買っただけだ。地下室にあった肖像画を運び、壁に付けさせた。傷を付けたのは俺じゃない。その肖像画にそっくりな少女を街中で見掛け、興味が湧きさらったんだ。俺は隣国の留学生だぞ? 何かあったら問題になる。今回の件は、訴えた所で処分はされない」


「ほお、それはいい事を聞いた。じゃあ遠慮なく殺せるな」


 男は息子の発言にぎょっとし、あわてて身を守るための言葉を発した。


「何を聞いていたんだ? 何かあれば、大問題になると言ったばかりじゃないか!」


「俺には関係ない。うるさいからもう黙ってろ」


 賢也の言葉を受けて、再び尚人君が男を気絶させる。

 あ~、今一状況が理解不能なんだが……。

 この男が言った通りなら、第一王妃とは無関係の留学生が犯人?

 魔法を習得出来る魔法学校は全ての国にある訳じゃないから、カルドサリ王国にきたんだろう。

 

「あと5分したら沙良が戻ってくる。この男は余罪が沢山ありそうだ。訴えても問題にならないような話をしていたが……。異世界では留学生が、そんな待遇を受けているのか?」


 法治国家ではない身分制度のある社会では、地位の高い者が罰せられる例はほとんどない。

 他国からきた留学生なら、その国では優遇されていたんだろう。

 ただし、それは訴えを起こした者が相手より身分が上だと結果が逆転する。

 犯罪は正しく取調べられ、罪に応じた処罰を受けるのだ。

 場合に依っては処刑もありうるが……。


 沙良は冒険者なので一般人扱いだ。

 SS級冒険者なら、話が違ってくる可能性もなくはない。

 いずれにせよB級冒険者の娘では、訴えを起こした所で大した罪にはならないだろうな。


「賢也。ガーグ老達は引退した近衛だ。息子達の方は現役で王族の護衛をしているし、この件を預けたらどうだろう? ええっと、確か長男が王都に戻ると先週言っていたから、家にいるんじゃないか?」


「それは助かる。沙良を誘拐し、手籠てごめにしようとしていた男だ。それ相応のむくいは受けるべきだろう」


 賢也が納得した所で、俺はガーグ老へ連絡を入れた。

 隠れ家を長男の家にするから待っているよう伝える。

 これで、後は彼らが処分してくれるはずだ。


 数分後、沙良が姿を現した。

 俺は無事な姿を見て駆け寄り抱き締める。


「あれ? お父さんも一緒なの? 後で迎えにいこうと思ってたんだよ~」


 能天気な娘の声を聞き、がっくりと肩を下ろしたが何事もなかったようで安心する。


「大丈夫だったか? 怖い思いをしなかったか?」


「通信の魔道具で、お兄ちゃんに連絡したから大丈夫! あれ? ポチとタマは王都まで、お父さんを探しにきたのかな?」


 まずい!

 俺の両肩に止まっている2匹をすっかり忘れていた!

 今ここに、ガーグ老達がいるとバレるのは避けたい。

 賢也も尚人君も、動揺して矛盾に気付かなかったのか……。


たまには2匹も遠出がしたいんだろう。ガーグ老の長男が王都にいるから、会いにきたのかも知れないぞ?」


「ふ~ん、そうなんだ」


 沙良の追及を何とかかわし、今後の予定を話し合う。

 賢也達が捕縛した犯人を、沙良がアイテムBOXに収納し屋敷を出た。

 その夜。

 一緒に付いていながら娘を誘拐された俺は、こんこんと息子にお説教される羽目はめになった……。

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