【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第453話 迷宮都市 王都にいる雫ちゃん、そして名前は……&武術稽古 似てない5兄弟

公開日時: 2023年6月13日(火) 12:05
更新日時: 2023年10月4日(水) 22:08
文字数:2,131

 2人がテーブルの席に着いた時点で、私は濃い緑茶を湯呑ゆのみを渡す。

 今夜は、それ程飲んでいないみたいだけど大事な話をするからね。

 少しは酔い覚ましになるだろう。


 2人が緑茶を飲み終わるのを待って、私は口を開いた。


「今日、また雫ちゃんの夢をみたの。はっきり王都にいるって聞こえたから、場所は間違いないと思う。名前も1文字増えて、サ…ナ……って言うみたいだよ!」


 私の話を聞いた2人が顔を見合わせる。


「王都か……。探しに行くのを反対はしないが、出来れば向かいたくない場所だな。ものすごく嫌な予感がする」


「アシュカナ帝国のターゲットになっているダンジョンがあるんだっけ……。2人ともごめん! 俺、雫を探したいからどうしても行きたい!」


「うん、雫ちゃんも待ってると思う。来週、王都に探しに行こう!」


「その前に、呪具が設置された場合を想定して『毒消しポーション』を用意しておこう。沙良、ポーションを出来る限り購入しておいてくれ」


「分かった。量は沢山あった方がいいよね。直接、薬師ギルドに行って買ってくるよ」


 これで、雫ちゃん探しは1歩前進だ。


「それにしても、そのサ…ナ……って名前は、お前が公爵邸から追い出した連れ子にも当てはまる。ないとは思うが、似ているのは嫌な気分だな」


 兄が最後に、とても不吉な事を言う。


「やめてよ~。雫ちゃんは、絶対そんな事しない優しい子だもん」


「妹は子供を虐めるようなひどい事はしないよ」


 すかさず私と旭が兄の意見を否定した。


「知ってる。ただの杞憂きゆうだ」


 兄の言葉に私と旭が押し黙る。


 まさかね……。

 そんな事がある訳ないと自分に言い聞かせながら、嫌な予感がぬぐえなかった。


 そして大抵の場合、悪い事は当たるのだ。

 どうか、サリナだけはない・・事を願おう。


 翌日の日曜日。

 朝7時に教会の炊き出し準備を始め、9時に具沢山スープとパンを配る。


 集まっている子供達に来週の日曜日は予定を空けておいてね、と言うと皆が嬉しそうな顔になった。

 もう何度も色々なもよおしをしているので、また何か楽しい事があると思ったようだ。


 期待に満ちあふれた表情が見れて、クリスマス会をするのは正解だったな。

 娯楽の少ない異世界で、私が提供出来る数少ない内のひとつだ。


 珍しい料理や冬の防寒着も嬉しいと思うけど、子供らしく遊べる時間を過ごす事も必要だからね。


 帰り際、兄が子供達に大きなみかんを配って見送る。

「来週、楽しみに待ってるね~」と、子供達が手を振り帰っていった。


 お兄ちゃんやお姉ちゃんに、小さな子供が手を引かれて歩く姿が微笑ほほえましい。

 大家族で助け合いながら過ごした経験は、大人になってきっと活きるだろう。


 私達は、その後ガーグ老の家具工房へと歩き出す。

 知らない間に増えた息子2人に会うガーグ老は、今頃ドキドキしているかしら?


 旭は、違う意味でドキドキしていそうね~。

 稽古相手が8人に増えるのは、悪夢だと思っているかも。


 家具工房の扉を開けると、いつも通りご老人達が出迎えてくれる。

 昨日とは違い、今日は顔に怪我をしていないようだ。


 日曜日は仕事をしないのかな?


 ガーグ老の隣には、先週会った3人の息子さんが並んでいる。

 そして三男であるキースさんの右側に、初めて会う男性2人がいた。


「こんにちは。今日も、よろしくお願いします。初めまして沙良です」


「よろしくお願いします。沙良の兄の賢也です」


「よろしくお願いします。メンバーの旭です」

  

 新しく会う2人の息子さんへ、自己紹介を済ませる。


「サラ……ちゃん、いらっしゃい。そこにいるのが儂の息子らしい……四男と五男だ。ほれ、自分達で名乗るがいい」


 ガーグ老、息子らしい……って言っちゃってますけど?

 そして四男と五男の2人が、更に老けて見えるのはどうしてですか?


 で、一番気になるのは兄弟だというのに全く似てない事ですよ!

 3兄弟は母親違いで似ていない事も納得出来るけど、四男と五男は両親が同じなんですよね?


 欠片もガーグ老の遺伝子が見当たらない……。

 母親にだまされて、別人の子供を押し付けられてるんじゃ?


「私は四男のフランクと申します」


「私は五男のジルと申します」 


 2人がいきなり私の前に片膝を突き頭を下げたので唖然あぜんとし、思わず後退あとずさってしまう。


 まるで忠誠を誓う騎士のような行動だ。


「これっ! サラ……ちゃんが、驚いているではないか! すまんの、こやつらは姫様の護衛をしていた事もあるでな。つい、同じ行為をしてしまったようだ」


 ガーグ老が2人をたしなめ、その行動の原因を話してくれる。

 カルドサリ王国の姫君を護衛していたらしい。


 うん?

 じゃあ、職場が同じだったのか……。


 知り合いが突然息子だと言われたガーグ老は腰が抜けそうな程、驚愕きょうがくしたかも知れないなぁ。


「はっ! ごと……父上、申し訳ありません」


「気を回せず、申し訳ない事でございます」


 2人は、直ぐに立ち上がると直立不動の姿勢になった。


 いや~、5人の息子さん達はどう考えても部下にしか見えないし、兄弟の順番も間違ってるよ!

 色々思うところはあるけれど、他人の家族に口を挟む野暮やぼな真似はしないでおこう。


 私は、別れた奥さんに騙されているガーグ老が気の毒で仕方なかった。

 異世界には親子鑑定もないから、母親があなたの子供だと言えば夫は信じるしかない。


 子供達は本当の父親を知っているんだろうか?

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