私は妖精がくれたお礼の手紙を持ち、少し下がったテンションのまま兄へ見せにいった。
「お兄ちゃん。……妖精が手紙を書いてくれた」
「……何というか、律儀な妖精だな。子供じゃなさそうだぞ?」
兄は手紙の内容を見て、なんとも言えない表情になる。
私達の会話を聞き、ガーグ老が手紙を読ませてほしいと言う。
『サラ様。昼食をありがとうございます。大変美味しかったです。もし可能であれば、細長いクッキーを我が主のガーグ老へ差し入れて下さると助かります。いつも御身の傍で見守っております。』
手紙の内容を確認したガーグ老が、長男のゼンさんを一瞥し首を横に振る。
それを受けたゼンさんが、慌てた様子で手紙を読み頭をがくりと下げた。
あぁ、そういえばガーグ老を我が主と書いてあったな。
ガーグ老の工房にある庭の木だから?
「ガーグ老は主と呼ばれているみたいですが、妖精と契約は出来るんですか?」
「いや……妖精は精霊より気まぐれな種族だからの。他種族と契約を結んだりはせんよ。庭の主という意味だろうて」
なんだ、契約出来るなら妖精魔法が使えるかも知れないと期待したのになぁ。
雫ちゃんだけ使用出来る魔法が少ないから、妖精と契約出来たらいいと思ったんだけど……。
「それよりサラ……ちゃん。この細長いクッキーとは、何であるかな?」
あぁ、ナッツ入りショートブレッドの事だろう。
私はアイテムBOXから、10本程取り出して皿の上に載せた。
「これは『ショートブレッド』というお菓子です。木の実も入っているから、食感もいいと思いますよ」
すると長方形のお菓子を初めて見たのか、ご老人達が集まってくる。
全員が1本ずつ手に取り、しげしげと見つめた後で恐々と口へ入れた。
皆さん、それは只のお菓子ですよ?
そんなに躊躇う必要は、ないんだけど……。
一口食べたガーグ老達の表情が劇的に変化した。
目をクワッと見開き、その勢いのまま全てを口に入れる。
「サラ……ちゃん! このクッキーを、是非とも売ってくれ! 量はどれだけあっても買い取ろう!」
ガーグ老に眼前まで迫られ、思わず後退りしてしまう。
そんなに美味しかったのかな?
「ええっと、売り物じゃありませんので、今ある分は渡しますね」
昨日、大量に作った残りをガーグ老へ渡す。
「これで5日間、なんとか凌げるわい……」
うん? 5日間?
見るとご老人達が感激し、肩を叩きあい喜んでいる。
男所帯でまともに料理が作れないと言っていたから、普段の食事が余程不味いのか……。
これ、冒険者にも売れるかな?
材料の小麦・バター・砂糖は原価が高くなるけど、串焼き1本に銅貨1枚(1,000円)払う人達だ。
多少高くても、甘味が少ない異世界では重宝されるかも知れない。
それに『ショートブレッド』は日持ちするから、ダンジョンへ携帯しても腐らないしね。
中に入れるナッツやドライフルーツを変えれば、何種類も作れるだろう。
少し考えてみるか……。
「お菓子だけじゃ栄養が偏りますから、ちゃんと食事もして下さいね。今日は、お酒を飲みませんでしたけど、仕事が忙しいんですか?」
「あぁ、これから20……件の仕事が待っておるでの。儂らの家具は人気で大変だわ」
「そんな時に稽古をお願いしてすみません」
「いやいや、週1回。サラ……ちゃんの料理を食べるのが、儂らの楽しみだ。遠慮せんでよい」
ガーグ老は大口を開け笑いながら言うと、今から仕事に取り掛かるそうだ。
将棋の対局はお預けとなり、心なしか旭がしょんぼりして見える。
きっと稽古相手にリベンジをしたかったのだろう。
私達は工房を出ると、従魔に乗り家まで戻った。
この機会にガーグ老達の製作した家具を見せてあげよう。
兄達は遠慮すると言うので、2人はホームに返した。
両親と雫ちゃんとお母さんを連れ、私の部屋へ案内する。
部屋の中央に置かれた天蓋付きのベッドを見るなり、雫ちゃんが大喜びし駆け出す。
「わぁ~凄い! お姫様ベッドだね~。柱に描かれた女性も綺麗~」
大興奮し、ベッド周辺を回っていた。
「これらの家具は、ガーグ老達の手による物なのか?」
父が非常に疑わし気な表情で尋ねる。
「そうだよ。ガーグ老の工房は迷宮都市で人気なんだから! もう私なんかが寝るには、勿体ないくらいのベッドだよ~」
「確かに、これは王族仕様だな……。一体あのご老人達は、どうやって作ったんだ?」
まだ信じられないのか、父は疑問を抱いているようだ。
「本当に素敵な家具ね。見ているだけで、うっとりしちゃうわ」
母は他の家具へ目をやり、その繊細な装飾に感嘆の声を上げる。
雫ちゃんのお母さんは、天蓋付きのベッドに目が釘付けだった。
「良かったら、ベッドで横になって下さい。天井に描かれた絵は、もっと綺麗ですよ?」
それを聞いた雫ちゃんとお母さんが、ベッドに上がり並んで横になる。
兄達は直ぐに寝てしまったけど、2人は大丈夫かしら?
少し不安に思っていると、天井を見ていた2人の瞳が唐突に閉じられた。
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