小夜から、「貴方は行動する前に考える必要があるわね」と言われた言葉を思い出しながら家に着いた。
昔から考えなしに行動しては、妻に咎められたものだ。
今回の件も時間が無駄になると思い、よく考えもせず失敗したな。
記憶が戻り、今は12歳の少年だと忘れていたようじゃ。
「あら、シュウゲン。もう講習は終わったの?」
予定より早く戻って来た儂を見た母親が、不思議そうな顔をし見つめてくる。
本当なら午前中一杯は冒険者ギルドで講習を受けている筈なので、変に思うのも当然だ。
「少し変更になった事がある。ギルドマスターからC級冒険者の資格を貰った。明日からダンジョンを攻略してもいいそうだ」
下手に隠しても直ぐにバレる嘘はつかぬ方がいいだろうと、簡潔に話をする。
「えっ? どういう事? シュウゲン、何をしたの!?」
母親が突然表情を変え、儂に詰め寄り両肩を掴み揺すぶってきた。
「あ~、槍術をもう習得していると言った」
「何ですって!?」
話を聞いた母親は唖然とし、家から飛び出して行く。
きっと、冒険者ギルドへ事実を確かめに行ったのだろう。
まぁ、これは想定内だ。
ギルドマスターから事情を聞けば、儂の言葉より納得するであろう。
実際C級冒険者の資格が、どうして儂に与えられたのか分からない。
説明は大人に丸投げし、子供の儂は従うだけじゃ。
しかし、母親が戻って来るまで昼食は抜きかの……。
お腹がグウグウと鳴り出す頃、母親と父親が一緒に帰ってきた。
どうやら鉱山で働く父を呼び出し、冒険者ギルドへ話を聞きに行ったらしい。
2人の表情は疲れているように見えたが、まずは食事を先にしようと遅くなった昼食を食べた。
食事の最中、会話はなく気まずい雰囲気が漂う。
どういった話し合いが行われたか気になり、そわそわしていると父親が口を開いた。
「シュウゲン、ギルドマスターから事情は聞いた。こんなに早くC級冒険者になるとは思わなかったが、おめでとう。ダンジョン攻略に必要なものを、これから揃えに行くぞ」
隣で話を聞いていた母親も父の言葉に頷き、
「頑張るのよ!」
と声を掛けてくれる。
ギルドマスターは、両親が納得するよう上手く説明をしてくれたようだ。
お家騒動になるかと心配していたが、両親の態度を見る限り下手な言い訳をせずに済みそうだとほっとした。
食事を終えてから、父親と魔道具屋に行きマジックバッグ・テント・水筒・魔道調理器を購入してもらう。
魔石を入れると水筒一杯に水が満たされると知り、魔道具に興味が湧く。
火を起こさずに熱を発する魔道調理器も、前世ではなかったものだ。
マジックバッグといい、異世界の技術には度肝を抜かれるわい。
道具を揃えたあと、冒険者ギルドの2階の資料室で魔物の生態を詳しく調べる。
ダンジョンに出現する魔物には、魔法や毒の攻撃をしてくるものもいるからと父親が真剣な顔で教えてくれた。
儂は説明を聞き逃さないよう覚え、危険な魔物を確認していく。
明日からは1人でダンジョンを攻略するのだ。
怪我をして、命を落とす事などあってはならない。
小夜に会うまでは、この長い寿命を生き抜いてやる。
最後に冒険者ギルドでポーションを購入し、家へ帰った。
翌日。
マジックバッグと短槍を持ち、冒険者ギルド前からダンジョンへ向かう乗合馬車に乗る。
早朝という事もあってか、馬車内は儂1人だった。
流石に朝6時は早すぎたかの……。
昨夜、母親が食料や調理道具をマジックバッグに入れてくれたので準備は万端だ。
30分ほど馬車に揺られダンジョンへ到着し、入場料の銅貨1枚を支払い中に入る。
まずは地下1階に出現する魔物で体術を習得しようと、ファングボアを探す。
道中、襲ってきた魔法を使用するスライムは、短槍で薙ぎ払い魔石に変える。
このスライムの魔石が、水筒や魔道調理器に使用されるようだ。
魔道具屋で購入するより、ダンジョンで倒した方が経済的か?
大した労力もなく、簡単に倒せるスライムは当然魔石の換金額も低い。
昨日、冒険者ギルドの依頼内容を書き写したので、換金額の高い魔物を優先し倒そうと思ったが……。
魔物の数も分からぬし、まずは様子見じゃな。
迷路状になっているダンジョンを進み、突き当りを右に曲がった所で大きな魔物の気配を感じた。
10m先にファングボアの姿を発見して、資料通りの大きさに目を瞠る。
体長3mの猪とはの……、牛のような大きさだな。
さて、体術を習得するには武器を使用せず倒す必要がある。
儂は短槍をマジックバッグに入れ、魔物へ接近して首を抱え横に捻った。
ゴキリと首の音が折れた音が鳴ると同時に、腕を離し距離を取る。
絶命したファングボアが横倒しになり、ステータスを確認すると体術が表記されていた。
この魔物は肉が食べられるから、血抜きの必要があるな。
解体ナイフで首を切り裂き、暫く時間を置いてからマジックバッグに収納し次の獲物を探す。
大型の魔物を発見する前に、スライムやダンジョンネズミを倒し続けるとリザードマンが向かってきた。
二足歩行する大きな蜥蜴の姿を見て、顎が落ちるかと思った。
魔物が動物に似た姿だと思っていたのは、間違いだったようじゃ。
しかも剣を持っておる。武器を使用する魔物がいるのか?
ふむ、用心のために接近戦は避け短槍を投げつけるか。
首筋に狙いを定め短槍を大きく振りかぶって投擲すると、リザードマンの首を貫き血が噴き出した。
腕は鈍ってないようで安心する。
せっかくだし、魔物が持っていた剣は儂が活用しよう。
その後、現れた魔物相手に剣を振るい剣術を習得した。
これで、槍術・体術・剣術・投擲術を覚えた事になる。
火魔法は精霊と会わないと使用出来ないそうだから、魔法を使えるようになるのはまだ先かの。
そろそろ休憩しようと、地下1階の安全地帯に向かう。
ソレイユの町にあるダンジョンは、冒険者ギルドで全ての階層の地図が無料配布されている。
迷路状になっているが、地図を見ながら迷わず辿り着いた。
安全地帯には魔物が入って来ないため、冒険者はこの場所を上手く利用しながらダンジョン攻略を進めるらしい。
安全地帯には、テントを張り休憩している大人の冒険者達がいた。
皆、数人でパーティーを組んでいるから1人で来た儂に視線が集まる。
まぁ、ダンジョンを潜る年齢じゃない事が一番の原因だろう。
儂は気にせずテントを組み立て、中に入ると魔道調理器に水を入れた鍋を置き湯を沸かす。
シュウゲンは家の手伝いをしていたから、野菜を切るのもお手のものだ。
生前は料理等した事もなく、家事はいつも小夜に任せきりであったが……。
母親が用意してくれた、人参・じゃが芋・玉ねぎを切り分け塩で味を調えスープを作り、プライパンで肉を焼く。
少し肌寒いダンジョン内では、温かい食べ物の方がいい。
緑茶が飲みたいのぅ。
パンをちぎってスープに浸し焼いた肉を食べながら、胡椒でもあればと思った。
しかし、胡椒の実など見た事がない。
料理に使用されている味しか知らない儂が、この世界で似たような食材を探すのは難しいだろう。
やれやれ、お金をいくら稼いでも旨い料理は食べられそうにないな。
このダンジョンを攻略したら、町を出て旅にでも行こうかの。
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