【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第816話 迷宮都市 武術稽古 お礼の『ハンバーグ』と『チーズオムレツ』&サヨさんにシーリーの紹介

公開日時: 2024年6月14日(金) 14:08
更新日時: 2024年10月5日(土) 14:45
文字数:2,233

 いつも真っ先にポチとタマがいつきおじさんへ飛んでくるのに、今日はどうしたんだろう?

 2匹の白ふくろうはルシファーが腹筋している近くを飛び回り、女官長の号令に少しでも遅れると脇腹をつついている。

 まるでサボるのを見張っている指導教官みたいね。

 そして女官長は、いつもより厳しくルシファーを特訓していた。

 私に群がるガルム達をでながら、お仕置きされている彼を横目で見つつガーグ老に挨拶する。


「こんにちは~。今日も、よろしくお願いします」


「サラ……ちゃん、よう来たの。では、稽古を始めるとしよう」


 ガーグ老の合図で各自の指導担当者の所へ移動して、得物えものを構え出す。

 私は、樹おじさん、あかね、セイさん相手に槍を振りかぶった。

 この3人を相手にして勝つ方法はないかと考え、飛翔魔法を組み合わせる。

 地上だけじゃなく上空からの攻撃もすれば、少しは確率が上がると思ったんだけど……。

 そう簡単には勝ちを譲ってもらえないらしい。


 ジャンプと同時に空中へ飛翔し、降下のタイミングで繰り出した槍は茜にかわされ空を切る。

 ムキになって突き出した槍を、セイさんが軽くいなしただけで私の両手はしびれてしまう。

 あぁ、もう絶対勝てないじゃん!

 稽古中、大人しくしていた従魔達が私の心中を察したのか加勢に入ってきた。

 シルバーとフォレストが樹おじさんの両足のズボンをくわえ、身動き出来ないようにする。

 よし、今がチャンスだ!

 動けない樹おじさんに接近し短槍を横薙ぎに振るうと、槍を絡め取られ奪われてしまった。


「沙良ちゃんは、行動が分かりやすいなぁ」 


 ちぇっ、いつか1本取ってやる!

 その後、3人に向かって(偽)ターンラカネリの槍を大量に投げつけすっきりする頃、稽古は終了。

 昼食の準備を雫ちゃんと始め、『ハンバーグ』と『チーズオムレツ』を作る。

 オムレツ用にコカトリスの卵を取り出すと、セイさんが手刀で割ってくれ、その切り口が鮮やかな事に驚いてしまう。

 フライパンでオムレツの形を整えているのを見た雫ちゃんが、私もやりたいと言うので代わったら、綺麗な形にまとまらず苦戦していた。

 プライパンの縁で少しずつ返す技は初心者に難しいよね~。

 雫ちゃんの作った分は、旭家に食べてもらおう……。


 兄と旭に人数分の『ナン』を焼いてもらい、妖精さんにお供えをして席に着く。

 雫ちゃんのお母さんは、今朝寝坊をしたらしくお供えを用意出来なかったみたい。

 恥ずかしそうに言われ、樹おじさんの方を見ると照れたような仕草しぐさをしていた。

 指輪のプレゼントが寝坊の原因かしら?

 あれ? でも今、樹おじさんは女性だよね?

 この件は、あまり深く考えない方が良さそう……。


「お待たせしました。皆さん、今日もありがとうございます。お昼のメニューは、『ハンバーグ』と『チーズオムレツ』です。それでは頂きましょう」


「頂きます!」


 ガーグ老がハンバーグを半分に切り分けて口に入れ、


「あぁ、サラ……ちゃんの料理は旨いのぅ」


 満足そうに言って、隣の樹おじさんに笑顔を向けた。

 樹おじさんはうなずきながら、雫ちゃんが作った不格好の『チーズオムレツ』を美味しそうに食べている。

 私が作ったんだよと胸を張る雫ちゃんに、旭が上手く出来たねとめてあげていた。

 私達が食事中の間もルシファーは休憩させてもらえず、ひたすら筋トレを続けている。

 異世界に召喚された時は食事が不要な体らしいけど、お腹は空かないのかしら?

 そう思い筋トレしているルシファーのもとへ行き、「何か食べる?」と聞いたら首を大きく横に振られてしまった。  

 雫ちゃんのお母さんが作った料理しか食べた事がないので、異世界の料理は危険だと感じているようだ。

 このままじゃ可哀想かわいそうだよね?


「これは私が作った物だから大丈夫」


 アイテムBOXから作り置きしたサンドイッチをルシファーに渡すと、彼は渡されたサンドイッチを恐ろしい物を見るかのように凝視して嫌々口にした。


「あれ? 何で美味しいんだ!?」


 一口食べたあと、大声を上げ残りをすごい勢いで口に入れる。

 3個あったサンドイッチを全てたいらげ、私と雫ちゃんのお母さんを交互に見遣った。

 

「あれは罰ゲームだったのか……」


 いや、本人にその心算つもりはないと思うよ。

 雫ちゃんのお母さんをおびえた目で見つめるルシファーにとっては、一番辛い契約だったのだろう。

 食べ終わった彼に続きをするよう、ポチとタマが容赦ようしゃなく脇腹を突き出す。

 あ~これは、私もそろそろ退散した方がよさそうだ。

 2匹の声は聞こえないけど怒っていそう。

 食後はルシファーの訓練すると言うガーグ老にお礼を伝え、工房をあとにした。


 サヨさんを迎えに華蘭からんへ寄り、ホームに帰る。

 竜の卵が孵化ふかした事を話してシーリーを見せよう。

 お気に入りのシュウゲンさんのマントにくるまり寝ているシーリーを抱き上げ、サヨさんに紹介した。


「まぁ、とても可愛らしい子ね。少し抱かせてちょうだい」


 私の腕からサヨさんに抱かれたシーリーが、突然目を覚ましキィキィと鳴く。

 小さな羽をパタパタさせ、サヨさんの胸に顔をうずめ喜んでいるように見える。

 

小夜さよに甘えているようだの」


 シーリーが喜ぶ姿に、シュウゲンさんが相好を崩していた。

 

「本当にかえる事が出来て嬉しいわ」


 サヨさんはシーリーをあやしながら目に涙を浮かべ、シュウゲンさんと微笑み合う。

 サヨさんの隣にいたシュウゲンさんの服をシーリーが引っ張り、もっとそばに来てと言っているみたい。

 もしかして前世夫婦だった2人を、シーリーは分かっているのかしら?

 しばらくすると小さな子竜は安心したように眠り、その背中をサヨさんはずっと撫で続けていた。

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