ハイエルフの王女に転生した樹と再会し、親友の窮地を救うため俺はあらゆる想定を考えた。
そしてひとつの結論に至る。
樹が国に滞在中、俺は国賓を持て成すため彼の事を連れ回した。
王宮内の見事な庭園を一緒に散策したり、カルドサリ王国の特産品である技術の粋を集めた豪奢な衣装を王室の御用商人を呼び披露したりと、いずれも女性が喜びそうな事ばかりだ。
俺達2人の姿を王妃に見せつけるように、毎日毒を仕込んでいく。
あの女は自分が一番でないと気が済まない性質だ。
晩餐会で見せた嫉妬は、自慢の容姿が歯が立たないくらい並外れて美しい樹の容姿に劣等感を覚えたためだと思っている。
今は様子見をしているが、俺の計画通りなら早晩何かを仕掛けてくるだろう。
樹には申し訳ないが、事情を話せば演技力皆無のこいつはかならずポカをやらかす。
王女として育った樹は、権謀術数とは無縁だったに違いない。
甘やかされ大切に育てられた事が見て分かる。
計画を実行するため知らないまま付き合ってもらう事にした。
身の危険には、周囲にいる姿を隠した10人の影衆が対処してくれる筈だ。
それにLvを聞いたら50の俺より高かった!
まぁ向こうは300年も生きてるんだ、負けるのは仕方ない。
樹は王宮の庭園を見ても感動せず、それこそ女性物の衣装には見向きもしなかったが……。
しかし俺が好意を持ち接している事は周囲に分かるだろう。
この先の行動を不審に思われないよう、なるべく多くの時間を過ごす事にする。
能天気な樹は、俺と一緒の時間を純粋に楽しんでいた。
その浮かべた満面な笑みが、王妃をよりある行為に走らせる事になる。
ただ女性が好みそうな物ばかりだと飽きるだろうなぁ……。
樹から剣術が得意だと聞いた事を思い出し、ドワーフの鍛冶職人がいる店に連れていく。
彼はドワーフに初めて会ったようで、想像と違い過ぎると言い唖然としていた。
まぁ、俺達が物語で知る姿じゃない事は確かだ。
背は低くもないし、酒を水のように飲む訳でもない。
鍛冶職人だけあって腕の太さは相当なものだが、樽みたいな体はしておらず非常に鍛え抜かれた屈強な戦士に近いだろうか?
樹はこの店のドワーフが鍛えた剣を気に入ったようで、頼み込み注文を受けてもらっていた。
既に店頭に置いてある剣ではなく、自分に合った得物を特注するとは……。
しかも女の武器を使ってまで……。
ドワーフの親父相手に、上目遣いで「どうしても欲しいの~」と胸を寄せながらにじり寄る姿を見た時は頭が痛くなった。
こんな時だけ女である事を利用するのか……。
しかも傍に近付かれた親父は、満更でもない様子であっさりと引き受けていた。
王子の俺が頼んだ時は1年以上待たされたのに、理不尽だ!
樹は笑顔で「ありがとう!」と言い、親父の腕に抱き着く始末。
顔を真っ赤に染めたドワーフの出来上がりだ。
俺は慌てて引き剥がし、その場をとっとと退散する。
俺の親友は過剰サービス過ぎる。
見ているこっちがハラハラさせられた。
ドワーフの名匠と呼ばれる職人の剣は、その後、樹の大切な宝物になる。
樹がカルドサリ王国に滞在して一週間。
そろそろ国に帰ると、寂しそうに帰国の挨拶をしにきた。
俺は引き留めるため、彼の前で片膝を突きプロポーズの言葉を送る。
「私と結婚してほしい」
俺の言った事がよく理解出来ないのか、樹は一瞬ぽかんと大きく口を開けその後、満面の笑みを浮かべ承諾した。
「はい、喜んで!」
ここで樹が否定したら何もかも台無しになる所だ。
俺の意図に気付いてもらえたようで助かった。
国から出られる方法を考えておくと言った事を覚えていたんだろう。
偽装結婚の申し出に即答してくれた。
聞いていた周囲の者達は呆気に取られ、次いでその場は突然の結婚報告に騒然となった。
少し離れた場所から俺達の様子を窺っていた王妃に至っては、両手で衣装を皺になる程強く握り締め、体を怒りにより大きく震わせている。
どうやら確実に仕込んだ毒は、彼女に効果を齎しているようだ。
その後、樹は皆の前で俺の両頬にキスをし、「両親に結婚の許可をもらってきます!」とにこやかに笑いながら国を出た。
やつは意外と演技派だったらしい……。
さてこれで、両方上手く事を運べるといいんだが。
樹が戻ってくるまでに、やることが山程ある。
こんな時は仕事がないお飾りの王が役に立つ。
俺は王妃の一族が決定した事にサインをするだけの仕事だからな。
王宮に第二王妃を迎え入れる根回しをしておかなければ……。
樹の肩書は充分すぎる程ある。
重要な貿易国の王女様だ。
これを反対する貴族は誰もいない。
後継ぎが必要な貴族にとって、エルフの【秘伝薬】は非常に重要な品になる。
妻に子供が出来なくても、金貨100枚(1億円)払えば確実に子を成す事が出来るのだから……。
継承権で揉めたくない者や、側室を必要としない者達にはなくてはならない品だ。
その交易相手の王女とくれば、諸手を挙げて賛成するだろう。
なにせ【秘伝薬】は年に僅か5個しか入ってこない。
それでは欲しがる貴族の需要を満たす事は不可能である。
婚姻を結んだ事で、量が増える事を期待するのは確実だ。
翌日、第二王妃を娶るとの報告に反対する貴族は1人も出なかった。
それを決定事項とし、早急に第二王妃が住まう宮を選定して内装を整える。
勿論、全ての家具は俺自身が王室の御用商人を呼び取り寄せた。
その愛情の差を見せ付けるかのように……。
結婚する事が決まった5日後。
前触れもなく、エルフの国から3人の王子がドラゴンに乗ってカルドサリ王国に来訪した。
俺はいきなり前準備もなく、結婚の条件を突き詰められ非常に困った事態になる。
この国の冒険者ギルドマスターをエルフと入れ替える事や、その場所は独立採算制を取る事。
また数十人のエルフの移住許可等。
出された条件は、どう考えてもカルドサリ王国に不利になるものばかりだ。
その代わり、俺が王の座にいる間は【秘伝薬】を毎年20個送ると言われたが……。
大事な妹を第二王妃にするのなら、これくらいの条件は飲めるだろうと3人掛かりで説き伏せられる。
更に、第一王妃はいつ亡き者にするんだと問われ愕然となった。
国の情勢が筒抜けになってるじゃないか!!
これは白を切っても無駄だろうと、近い内確実になる事を告げる。
すると、3人の王子が重要な事を聞き忘れたと言い口調を変え質問してきた。
「聞きたいんだが、うちのお転婆娘の何が良かったのだ? 体裁を取り繕ってはいるが、あれは女とは到底言えない趣味の持ち主だぞ?」
樹~、兄達にバレてるぞ!
大人しく王女をしていたんじゃないのか?
「あの……ええっと、その元気な所が可愛らしく感じまして……」
「元気すぎるのも問題だと思うが……。まぁ、これから妹をよろしく頼む」
「はい、大切に致します」
30年しか生きていない俺が、何百年と外交を担当している強者に勝てる筈もなく……。
こうして無理矢理条件を呑まされた俺は、意気揚々と帰国する3人の王子を見送った。
樹と結婚するのに随分と大きな代償を払う必要があったものだ。
これで計画が失敗したら大損だな……。
1ヶ月後。
父親に結婚の許可をもらった樹が戻ってきた。
説得するのに時間が掛かり、最後は「結婚出来ないなら死にます!」と言ったそうだ。
なんだか大恋愛の末、結婚するみたいになっていないか?
兄達のように突然王がきたりしないよな?
俺はそこはかとなく不安を覚え、体を震わせたのだった。
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