食事が済むと兄達はいつものように、ご老人達と将棋を始める。
私はこれから新居に行って家具の設置をする予定だ。
ガーグ老から、残り5部屋分の家具を受け取り家具工房を後にする。
5部屋分の家具は、私の部屋の物とは違い装飾が控えめだった。
いやはっきりいうと、王族仕様と貴族仕様くらい落差が激しい。
どうして私の家具だけに、あんなに沢山の文様や人物が描かれているんだろう?
実際、異世界の家で寝る事はないんだけど……。
少し歩いた時点で、時短のため新居の庭へ移動。
家の中央にある玄関から中に入り、2階へと上がっていった。
どの部屋も大きさは同じなので、私は6部屋の扉に血液を登録して家具を設置する。
一応、私の家具が置かれた部屋は一番奥の右側にしておいた。
扉には侵入者防止結界が付いているけれど、1つでも盗まれたりしたら大変だよね。
ガーグ老達は無料で製作してくれたので、実際の値段は想像するしかない。
どう考えても、私の部屋だけで一千万以上しそう……。
お礼は料理で良いと言ってくれる優しい人達だ。
次回は事前に準備して、もう少し手の込んだ料理を作らなければ!
地下29階で狩った蟹が使用出来たら、豪華なメニューになるのに残念。
きっと換金額も高いに違いない。
全ての部屋に家具を設置した後は、『肉うどん店』に向かう。
1週間後にはクリスマス会で木琴の演奏を発表する予定なので、最終チェックを兼ねて仕上がり具合を確認しに行くのだ。
あっ!
ダンジョンにカエルの魔物がいるか聞くのを忘れていたよ!
楽曲を変更する必要があるかもしれないので、もうひとつ教えておこう。
『肉うどん店』に入ると、子供達と母親達が楽しそうに『木琴』を演奏しながら歌っているところだった。
月曜日から土曜日は店が営業しているので、一緒に演奏出来るのは日曜日だけなのかも知れないな。
「こんにちは~」
「オーナー! いらっしゃいませ。先週教えてもらった曲は、もう覚えましたよ~」
母親の1人が、そう笑顔で報告してくれる。
渡した楽器を気に入ってくれているみたいだ。
「実は、今日も新しい曲を覚えてほしいんです。来週、私の家に子供達を呼んでパーティをする予定なんですけど、その時に『木琴』を演奏してもらえませんか?」
「わぁ~、僕達が皆の前で演奏していいの?」
「お母さん、私やりたい!」
子供達は自分に出来る事を知って、かなり嬉しそうだ。
このくらいの年齢の子供は発表の場があると、見てほしい気持ちが強いんだろう。
異世界では音楽は貴族の嗜みで、庶民が楽器を持つ事など不可能に近い。
その楽器を演奏出来るのは、かなりのアドバンテージになる。
楽器を弾ける事が何より誇らしいのかも知れないな。
母親達は逡巡した後で、子供達の希望を叶える事にしたらしい。
了解を得たので新しい楽曲を披露しよう。
新しい楽曲は、前回の失敗を踏まえて生き物が出てこない歌にした。
『幸せなら手をたたこう』、この曲も簡単なので直ぐ弾けるようになるだろう。
最初にドレミの音階で歌いながら曲を覚えてもらい、次に歌詞を書いた羊皮紙を渡して一緒に歌ってみる。
曲に合わせて、皆が同じ動作をするのも楽しいと思う。
1番が弾けるようになったら、2番3番も同じ繰り返しなので難しくはない筈だ。
子供達が一生懸命練習している間に、母親達へ左手の音階を教えていく。
彼女達は来週皆の前で演奏するとあって、かなり真剣な表情で音を聴いていた。
もうドレミの位置は完璧なので、そんなに心配する必要はないんだけどね。
2時間後。
親子で合奏したら、息もぴったり合って上手く弾けていた。
あと一週間あるので大丈夫だろう。
金曜日の夜、リハーサルをしたら完璧かな?
お土産に2色のキウイフルーツを渡して店を出る。
最後に兄達を迎えにいこう。
『肉うどん店』から家具工房まで歩いていると、上空に2匹の白梟が旋回しているのが見えた。
『ポチ』と『タマ』が、先行して家具工房へと飛び去っていく。
きっと私が向かっている事を、ガーグ老に知らせにいったのだろう。
私が迷宮都市内を歩いていると、かなり頻繁に見かけるんだけど……。
いつも何処にいるんだろう?
家具工房に到着して門を開くと、シルバーとフォレストが駆け寄ってくる。
寂しかったのかな?
将棋の対局は既に終了していたようで、旭が満面の笑みを浮かべている事から全勝したのだと思われる。
兄は勝っても顔に出す事はしないから勝敗は不明だけど、ご老人達の悔しそうな表情を見る限り負けてはいないだろう。
「サラ……ちゃん、その言いにくいんだが……。今日使用した『バーベキュー台』を、5台とも買い取らせてはくれんかの?」
あぁ、『バーベキュー』なら料理が苦手なご老人達でも美味しく食べる事が出来るだろう。
材料を切るだけなので手間もかからないしね。
「いいですよ。沢山家具を製作してもらったお礼にプレゼントします」
「おおっ、そうか! ありがたいわ。序でといっては何だが、その……秘伝のタレももらえると嬉しい」
「勿論、お譲りします」
『焼肉のタレ』がないと、味付けが塩・胡椒のみとなってしまう。
冒険者には銀貨3枚(3万円)で購入してもらっているけど、稽古を付けてくれるお礼に融通しよう。
アイテムBOX内に入っている陶器の壺に入れ替えた『焼肉のタレ』を渡すと、ガーグ老は大切そうに両手で持ちとても嬉しそうだった。
傍にいた三男のキースさんが、代わりに受け取ろうとしていたけれど断っている。
これは自分以外触らせない心算なのかしら?
そういえばアマンダさんもダンクさんも『焼肉のタレ』と『ソース』は、料理担当者に渡していなかった気がする……。
それ、スーパーで100円で購入したものですけどね。
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