父の考え事が一段落したとみて、私はさっさとテントを収納し13階の攻略を始めた。
時間も押しているから、マッピングで階段を見付け真っ直ぐに突き進む。
迷宮都市のダンジョン地下30階~地下27階の魔物を倒している私達では、13階の魔物を討伐した所でLvは上がらないだろう。
初見の魔物は気になるけど、兄達と攻略する時に見ればいいかとスルーする。
14階に生っている木の実は、カシューナッツだった。
この階層も移動のためだけに走り抜ける。
15階の木の実は、マカダミアナッツ。
いずれも大きなサイズで1個食べたら、お腹一杯になりそう。
ここで、時間切れとなり迷宮都市へ戻った。
翌日、木曜日。
午後から摩天楼のダンジョンへ移動し、16階から攻略する。
16階の木の実は、ヘーゼルナッツ。
17階の木の実は、ピーカンナッツ。
18階の木の実は、ピリナッツ。
19階の木の実は、栗。
20階の木の実は、ココナッツ。
ん?
ココナッツも木の実なんだろうか?
20階の安全地帯に到着後、テントを設置し木の実を探していた私は疑問に思う。
まぁ、木に生るので問題ないか……。
そもそもダンジョンの森は、日本と同じ植生をしている訳じゃないからね。
1階がアンデッド階層だった事から、20階は迷宮都市の28階に当たるのではと予想。
そろそろ、本腰を入れ攻略しても良いかも知れない。
テントから出て攻略へいこうとしたら、黒髪・黒目で日本人にしか見えない男性を見掛けた。
あぁっ!
もしかしてあの人は、異世界転移したS級冒険者のセイさん?
会って色々な話を聞きたい!
「お父さん。私達と同じように、異世界に転移した日本人がいるかも知れないの。話をしてもいいかな?」
「何処にいるんだ?」
怪訝そうに尋ねる父へ、セイさんが歩いている方向を教える。
「聖じゃないか!」
叫ぶと、私を置き去りにし駆け出してしまった。
父の知り合いなの?
私も慌てて後を追い駆ける。
すると2人が再会を喜んでいた。
「突然行方不明になったと思ったら、この世界にいたのか!」
「響さんと会えるなんて、驚きました!」
父からセイさんは銀行の後輩だと紹介してもらう。
探していた日本人が父の知り合いだったとは……。
私も初対面の自己紹介をする。
娘の沙良ですと言うと、セイさんは驚いていた。
まぁ、似ていないと思ったんだろう。
リーシャの容姿から父の娘だとは考え難い。
今は地上へ帰還する途中で安全地帯に寄ったのだとか。
一緒にいるメンバーへ断り、セイさんを私達のテント内に案内した。
私がセイさんの書いた手紙を見付けた話をすると、凄い偶然だねと笑っている。
予想では60歳以上の姿だと思っていたけど、セイさんは40代後半にしか見えなかった。
ジョンさん達と迷宮都市のダンジョンを攻略している時点で、45歳の筈なんだけど……。
それから20年間石化されたジョンさんを考えると、見た目年齢が合わない。
「あの、迷宮都市でジョンさんのクランメンバーだったセイさんですよね?」
「そうだけど……。君はジョンを知っているの?」
「はい。全身が石化状態で発見されましたけど……。治療後、元気に冒険者活動してますよ」
「えっ、ジョンは生きてるの!?」
「はい、今は迷宮都市の地下19階を攻略している最中です」
帰還しなかったクランリーダーの生存を知り、セイさんが泣き出してしまった。
確か製麺店のバスクさんが、セイさんはクランメンバーから可愛がられていたと言ってたなぁ。
旭より身長が低いから、保護対象になっていたのかも?
その割には「黒炎」とかいう、物騒な渾名が付けられていたけど……。
「良かった。迷宮都市へ会いにいこう!」
そう言いながら泣き続けているセイさんへ、アイテムBOXからティッシュを取り出し渡す。
彼はティッシュを受け取り、思い切り鼻をかんだ。
その後、ティッシュの存在に気付き暫く固まってしまう。
「なんで、ティッシュが……」
それを説明するには少々時間が掛かる。
私はいつもの手紙をセイさんに渡し読んでもらった。
「能力に差があり過ぎるでしょ……」
手紙を読んだセイさんは再び固まり絶句する。
気分が落ち着くよう缶コーヒーを差し出すと、
「ずるいなぁ……」
と言いながらも全て飲み干し満足した表情になった。
「そう言えば、お前。運命の相手を探すと豪語してたが、見付かったのか?」
「たった今、見付かりました。響さん、お嬢さんを私に下さい!」
父が何の脈絡もなくセイさんへ尋ねると、予想外の答えが返ってくる。
それ、私の能力目当てじゃん!
「すみません。3ヶ月後には人妻になるので結婚は無理です」
私が即座に断ると、セイさんは悲壮な顔を父へ向ける。
「悪いが娘はやれん」
父にもきっぱりと断られ、セイさんは項垂れてしまった。
「運命の人だと私の勘が告げているのに、先約済みなのか……。それなら、一緒にパーティーを組みたいです!」
突然のパーティー加入宣言に、父も私も顔を見合わせたのだった。
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