今から迷宮都市を移動するにしても、次の町まで1日はかかる。
マジックバッグ内の食料は底をついていたので、物を売ってもらう事が出来なければ丸1日空腹を抱える事になってしまう。
俺達はどうしてそんな対応をされるか、理由に思い当たらなかった。
【闇ギルド】に所属している事がバレた時の反応とは言い難い。
それならもっと恐れのような表情をするだろう。
特に女性からの視線が突き刺さった。
一体、理由は何なんだ?
迷宮都市にきて、まだ1週間しか経過していないってのに……。
しかもその内5日間はダンジョン内で、地上にいた時間は殆どない。
少し苛立っていると、子供達がすれ違いざまに俺達の方を見て言った。
「あ~、変態だ! あの人達だよね?」
「こら、指を指しちゃ駄目だ!」
「だって、お姉ちゃんの胸を触ろうとした人でしょ? 怖くて泣いたって聞いたよ?」
「痴漢をするような人達だから、見るんじゃない。俺達の事も触ってくるかもしれないぞ!」
「わぁ、危ない人だね~。早く家に帰ろう!」
はぁっ!?
俺達が痴漢をする変態だって?
一体、何がどうなってそんな噂が流れてるんだ!
だからか、女性の視線が痛いのは……。
もしかして昨日、少女のパーティー仲間に聞かれた事は暗殺の件じゃなかったのか?
そして何故か、俺達は少女の胸を触るという依頼を受けた事になっていたらしい。
そりゃくだらない仕事を受けるなと言われる訳だ。
確かにターゲットの少女は綺麗な容姿をしていたし、背は低かったがあの年齢にしてはスタイルが良かった。
俺達は普段暗殺対象に興味を抱く事はしない。
私情が絡むと仕事がやりづらくなるからな。
しかしそれなら昨日感じた殺気は、仲間の胸を触ろうとしただけの人間に向けるものじゃないだろう。
背の高い方は妹だと言っていたが、あんなに似てない兄妹がいるものか。
俺の後ろを取った背の低い若い男性は、明らかにナイフを使い慣れていたみたいだった。
しかも一瞬見ただけだが、ナイフの素材がオリハルコンで出来ていた。
そんな高価な物を一介の冒険者が持っているとは思えない。
もしかしてあの少女はやんごとない身分で、2人は護衛だったのかも知れない。
依頼主は美しい少女に懸想して、袖にされた事を根に持っていたのか?
いくら公爵の甥だとはいえ、本人には貴族籍がない。
少女の身分が高ければ相手にもしてもらえないだろう。
結局、俺達はとんでもない不名誉な噂のお陰で、食料を手に入れる事が出来ないまま迷宮都市を去った。
馬上でグーグーと鳴るお腹を宥めすかしながら、1日中駆けて次の町に入る。
宿屋に到着するなり1人2人前の食事を注文して、漸く空腹な状態から脱する事が出来た。
疲労が限界だったので、その日は部屋に入ると直ぐに寝てしまう。
その1週間後、俺達は本拠地である王都に戻ってくる。
早速【闇ギルド】本部に向かい、担当者に事の顛末を報告した。
依頼は失敗したので、本来ならペナルティで依頼料の全額を持っていかれる。
ただ今回は担当者も事前情報がなく不審な点も多かった事を認め、半額を支払ってくれた。
しかし、仲間3人を失う事になったのは損害が大きい。
この依頼を受けた俺の判断ミスだ。
しかも、迷宮都市では変態だとレッテルを貼られ顔を覚えられてしまった。
ほとぼりが冷めるまで、迷宮都市には行けないだろう。
あぁ、一応これだけは忠告しておくか。
俺は【闇ギルド】の担当者に、今回のターゲットである少女だけは依頼を受けない方がいいと伝えておいた。
あんなヤバイ護衛2人がいる身分の高い少女に手を出したら、【闇ギルド】自体を崩壊させられそうだ。
理由を聞かれたが、俺は痴漢に間違えられただけで殺されそうになった事は伏せておいた。
少女が見た事もない魔物をテイムしているから、暗殺は難しいとだけ答える。
担当者は従魔が主人を守るために捨て身になる事を知っているので、少女の名前をブラックリストに入れておくと言ってくれた。
このブラックリストに名前が載れば、【闇ギルド】では地雷案件として依頼を受ける事はない。
失敗すると分かっている相手には、こちらも損失を防ぎたいからな。
3人になってしまったので、俺達は暫く依頼を受ける事が出来ない状態だ。
今後の生計を立てるためにダミーの冒険者でもするか……。
あの3人は、あの後無事に地上に帰還する事が出来たんだろうか?
ほんの少しだけ気になったが、元々仕事だけの付き合いだ。
こんな稼業をしている時点で、皆深く付き合おうとは思わない。
俺達は依頼を受けて金がもらえればそれでいい。
ただキングビーの情報を故意に渡さなかった依頼主は、あの兄と名乗る護衛にきっちり始末をしてほしかった。
こんな地雷案件を依頼しやがって……。
当分、怒りが収まる事はないだろう。
新しい仲間を3人見付ける事だって簡単じゃないんだぞ!
なんでか知らないが不名誉な噂で顔を覚えられたお陰で、数年は迷宮都市の依頼を受ける事も出来やしないじゃないか!
まっ、今頃は冷たい地面の下にでも埋まっているかも知れないがな……。
暗殺を依頼した人間には、お似合いの最期だろうよ。
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