【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第335話 迷宮都市 旭の剣舞

公開日時: 2023年4月9日(日) 12:05
更新日時: 2023年8月19日(土) 23:54
文字数:2,009

 今日は旭に皆の前で剣舞を披露ひろうしてもらおう!


 アマンダさんのパーティーが観客の方へ戻ると、私は舞台中央まで進み出る。


「皆さん、今日はこれから特別にパーティーメンバーの旭が剣舞を披露ひろうします。どうぞ盛大な拍手でお迎え下さい!」


 私は、にっこり笑って旭に手を差し伸べた。

 旭は突然、自分の名前が呼ばれて唖然あぜんとしている。

 

 はっ!?

 ってなっている顔が面白い!


 うふふっ~。

 《お好みで》の貸しは、返してもらうわよ~。


 2回も外食先で料理を作らされた恨みは忘れてないから!

 私だって上げ膳据え膳で優雅に食事したかったのに、旭のお陰でそれが叶わなかったのだ。


 突然、剣舞を披露する事くらい簡単な事でしょ?


 何も知らない冒険者や子供達は私の言葉に従い拍手を送ってくれているので、旭も舞台に出てこない訳にはいかないだろう。


 旭は自主的に何かをするタイプじゃない。

 皆の前で剣舞を披露する事は、かなりのプレッシャーとなるはずだ。


 それに私だったら、不完全な舞を皆の前で披露するのはとても嫌な気分になる。

 旭も以前と同じ動きが出来ない完成度の低い舞を見られるのは、とても恥ずかしいだろうな。

 

 旭が兄に背中を押されてしぶしぶ舞台に上がると、今一度大きな拍手が起こる。

 

 私は内心でほくそ笑み、旭に実家から拝借した茜の剣舞用の剣を手渡し舞台から立ち去った。


 剣を手にした旭は覚悟を決めたのか、深く一礼をして剣舞を舞い始める。


 13年振りになる剣舞の型は、日本に居る時に散々やった事で体が覚えているらしく一連の動きに迷いは見られなかった。


 現在21歳の体はLvが高いお陰か、各種の素養も上がっているのだろう。


 静と動がたくみに織り交ぜられた剣舞は、見る者を強くきつける。

 茜が舞う剣舞とは違う、本当に男性らしい力強さが感じられた。


 私は幼馴染として育ったので、彼を男性として感じる事は余りないんだけど……。

 でもこうやって剣舞を舞う姿を見ると、やはり男性なのだなと認識する。


 旭は攻撃的な性格じゃないし優しい穏やかな空気をまとっているので、兄も一緒に居ると落ち着くのだろう。


 私は、2人が仲良く一緒に居る所を見る事が出来て良かったと改めて思う。

 兄は旭が亡くなって本当に落ち込んでいたから、立ち直るまで大変だったのだ。


 一時期は食欲も無くなってしまい、体重が5kgも減ってしまった。

 私が兄の好物を作りにマンションに通うようになり、一緒に旭の思い出話しをする事で兄はようやく普段の生活に戻る事が出来た。


 それでも、ふとした瞬間に寂しそうな表情を見せる事が度々あったけれど……。


 旭が亡くなってから5年間――。

 誰とも付き合わなかったのは、もうそうする必要がなかったからかも知れない。


 そんな事を思い出しながら再び旭の剣舞に目を向ける。


 実戦的ではない、舞うような踊りに冒険者達も目が釘付けだ。

 空中で回転するようなアクロバティックな動きは、異世界には無いだろう。


 どちらかと言うと、体操選手がする動きに近い。


 普段、男性冒険者には小動物扱いを受けている旭だけれど、これで多少皆の見る目が変わるかな?


 特に女性冒険者は旭を熱心に見ていた。

 でもごめんなさい、旭には兄がもう居るのでいくらアプローチしても無駄ですよ~。


 私は久し振りに見る旭の剣舞をゆっくり鑑賞する。

 劇と剣舞用に用意された舞台の大きさを感じさせない程、旭は1人で観客の視線を奪っていた。


 意外にも、ひとつもミスをする事なく旭が舞い終えると、最後に一礼してこちらに戻ってきた。


 皆が大きな拍手と歓声で旭を迎える。


 旭は全身に汗をかきながら片手を上げて皆の声援に応えると、照れたように笑った。


 その姿を見て頬を染めている男性冒険者が何人か居て、あれ?

 もしかして、本当は強いアピールは逆効果だったのかしらと冷や汗が出る。


 ごめん、旭。

 なんだかファンが余計に増えたみたい……。


ひどいよ、沙良ちゃん~。急に、剣舞を披露しろなんて無茶振り過ぎる!」


「でも、ちゃんと踊れたでしょ? 剣舞、すごく素敵で見直しちゃった!」


「本当!? えへへ~。ダンジョンに居た頃、暇だったから毎日体がなまらないように稽古けいこしていて良かった!」


 なんだ、13年振りじゃなかったのか……。

 ちょっと肩透かしを食らった気分。


 《お好みで》の貸しを返してもらった事にならないじゃん。

 何か別の案を考えておこう!

 

 滅多に人をめる事が無い兄が、旭に「良かったぞ」と肩を叩きながら声をかけていた。

 その短い一言に、旭は満面の笑みを浮かべて「ありがとう~」とお礼を言っている。


 いやもう、見ているだけで甘い2人に当てられそうだ。

 これで付き合ってないなんて詐欺もいい所。


 私に遠慮なんかしなくてもいいのに。

 順番から言っても、兄達の方が先に結婚するのが妥当だとうだろう。 


 やっぱり私が両親を召喚する前に、結婚式の準備を整えておいた方が良さそうね。

 そして赤ちゃんの事についても、私が協力出来ればしてあげたい。


 両親もサヨさんも、子供が出来れば許してくれるかも知れないし……。

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