火曜日。
ガーグ老の工房に向かい、ルシファーを召喚してから武闘派組の契約を始める。
その間、私達は武術稽古に励んだ。
茜が相手なので投擲練習をしようと、大量にあるターンラカネリの槍を出しダイアンへ騎乗する妹に投げつける。
本当に刺さったら大変だけど、従魔Lvの高いダイアンが全て躱すから問題ない。
庭が槍だらけになる頃、ダイアンが浮上したあとをシルバーと追い駆けた。
良い機会だから空中戦も練習しておこう。
偽装結婚式に現れたアシュカナ帝国人はグリフォンに乗り襲撃してきたから、今後も騎獣戦が想定される。
まぁテイムされた従魔じゃなければ、騎獣へ指示を出す笛を奪ってしまえばいい。
でも敵にテイム出来る人物がいないとも限らないし、空を飛ぶ従魔がいる可能性を考えておいた方がいいだろう。
空中戦となれば従魔の能力が左右する。
ダイアンの方がシルバーよりLvが高いから勝負にならないと思っているかも知れないけど、シルバーにはダンジョンの宝箱で入手した速度2倍と力が2倍になる従魔用アイテムを嵌めてあるし、毎日MPが増える飴を舐めさせている。
ダイアンとのLv差は、それ程ないと思っていい。
ダイアンから一旦距離を置き、向かい合わせになってから2匹が同時に進む。
私は槍を持つ手に力を込め、すれ違いざま茜の体を薙ぎ払おうとした。
ガツンと鈍い音が響き、それを茜が槍で受け止めたので強い衝撃が手に伝わる。
掌がビリビリと痺れ、思わず槍を落としそうになった。
茜の方が強いと分かっているけど、なんだか悔しいな……。
顔を上げ妹の顔を正面から睨みつけ大声で叫ぶ。
「負けないわよ!」
私の本気は伝わらなかったのか、茜に微笑ましいような顔をされガッカリした。
相手にしてもらえないらしい。
落ち込んでいると、セイさんが飛翔魔法を使用して傍にきた。
それを見た茜がダイアンから飛び降り、自身も飛翔魔法で空中に浮かぶ。
あっ、この先の展開が予想出来そう。
案の定、2人は高速で空を移動しながら空中戦を開始する。
速すぎて見えないよ!
得物を打ち合う音だけを拾い、何処にいるか場所を特定した。
茜はダイアンに騎乗したままの方が多いから、セイさんの方が有利かな?
多分メンバー中一番、飛翔魔法の扱いに長けているのはセイさんだと思う。
兄達が勉強中で暇な時は、大抵空を飛んでいるからね。
いつもベランダから飛び立つので毎回、冷や冷やさせられる。
マンションの最上階から飛ぶのは怖くないんだろうか?
一度真似をしようとして兄に見つかり怒られたのを思い出す。
セイさんはいいのに、私が駄目なのは納得いかない……。
目を吊り上げた兄へ反抗するのは怖いから、大人しくしておこう。
暫く待つと音が止み、2人が戻ってくる。
茜の満足そうな表情を見る限り、充実した内容だったようだ。
私相手では自分の稽古にならず、お遊戯をしている感覚かも……。
久し振りに私も飛翔魔法の練習をしようとシルバーから降りた瞬間、両手をしっかり2人に掴まれてしまった。
また保護者付きの練習かぁ~。
これじゃ、いくら経っても上達しないじゃん。
シルバーが心配し、そわそわ落ち着かない様子で周囲を飛び回る。
そして一声「ウォン」と鳴き、仲間の従魔を呼び出した。
フォレスト・泰雅・黄金・山吹にガルちゃん10匹が集合する。
従魔達が空へ飛びあがったのに気付いた兄も来て、私の腰へ手をまわす。
どれだけ信用されていないか、よく理解出来る構図だ。
補助輪付きの自転車練習かよ! 1人で自由に空を飛べる日はくるんだろうか……。
両手を引かれ、ゆっくり飛んでいる間に稽古は終了。
ルシファーを見ると両手を地面へ突き、生まれたての小鹿のように体をプルプル震わせている。
昨日は倒れ伏していたから、少し成長したかな?
昼食は、『五目あんかけうどん』に決定。
女官長達は『うどん』を食べるのが初めてだろう。
そろそろ暖かくなってきたから、店のメニューも変更しないといけないな。
夏は冷やし中華を出したいけど麺を作るのが難しい。
素麺か冷麦なら、乾麺を使用すればいけそう。
ただ、冷凍庫がないので氷をなんとかする必要がある。
樹おじさんのアイスボールを魔石にしてもらえば、解決出来るかしら?
氷があるなら、かき氷も出せそうだし、果物をシロップにしたら美味しそうね。
夏用のメニューを考えながら材料を刻み、雫ちゃんに『うどん』を茹でてもらった。
完成した料理を妖精さんへお供えに行く途中、昨日はなかったバスケットを雫ちゃんのお母さんが持参しついてくる。
何を作ったのか気になりつつ、テーブル席に着いた。
「お待たせしました。皆さん、今日もありがとうございます。お昼のメニューは、『五目あんかけうどん』です。熱いので取り皿に移してから食べて下さいね。それでは頂きましょう」
「頂きます!」
皆が箸を使用しているのを見た女官長が、自分達も挑戦すると言い箸を催促された。
使い方を教え、『うどん』を摘まんでみせる。
全員が真剣な表情で箸を使用し、逃げる『うどん』と格闘していた。
熱いから食べる頃には冷めて丁度良いかも知れない。
先程まで筋トレが続き死にそうだったルシファーは、ご機嫌な様子で樹おじさんを見つめていた。
3日過ぎても魅惑魔法の効果が切れないのは、自然に解除されないという事だろうか?
好きな相手のためルシファーが素直に爵位上げをしてくれるので、こちらは助かっているけどね。
そうじゃなきゃ、今頃ふざけるなと言い投げ出してしまったかも……。
突然、ドサドサと何かが落ちる音が聞こえてきた。
これは確認するまでもなく、雫ちゃんのお母さんが作った料理を食べた妖精さんの落ちる音だろう。
皆が一瞬だけ木の方へ視線を送り、スルーする。
ここで言及する人は誰もいない。
あぁ、何を食べさせられたのか心配だ。
午後から残りメンバーの願い事をルシファーが実践していく。
最初は私がゴム飛びを教えた。
子供の頃、まだゲーム機がなかった時代は公園でよく遊んだなぁ。
見本を見せたあと、ルシファーが真似をする。
今回は一番簡単な1段で、足首の高さにゴムを合わせよう。
いろいろな動きがあるので、子供が楽しめる遊びだ。
それ程、難しくないからルシファーでも出来たみたい。
実際はゴムの位置がどんどん高くなり、難易度が上がる。
3段では腰の高さになり、最終的に5段は首の高さで行う。
爵位上げを優先にしているため1段で終了。
雫ちゃんは、大縄跳びを指定。
ああっ、これはシルバーと一緒に遊びたかったやつ!
しかし最初から2本使用するのは、どうだろう?
意外と容赦ないな……。
父親に色目を使うルシファーが嫌いなの?
兄と旭が2本の縄を交互に回す間に入るのは、素人では無理そうだよ。
そこへ樹おじさんと早崎さんが入り、簡単そうに10回跳び出ていく。
続いて雫ちゃんとお母さんも楽しそうに入る。
私は、どうなるか分かっていたので止めておいた。
誰もが運動神経が良いわけじゃない。
1本なら大丈夫だけど、2本となると動体視力と反射神経が必要になる。
両方とも持ち合わせていない私では、中に入る事さえ難しそう。
最後に茜と父が入り軽々と跳び出ていく。
ルシファーが覚悟を決め、2本の縄の動きを注視しながら飛び込み、そして中に入る前に縄で体を打たれ倒れた。
雫ちゃん……、鬼ですか?
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