工房から出てきた娘を見るなり俺は走り出し、その体を抱き上げた。
女官達は、お揃いの花嫁衣裳を準備してくれたらしい。
俺とティーナの生存を知ったのは1週間前なのに、よく作れたよな~。
俺は娘を抱き上げたまま響のところへ戻り、
「娘が可愛い!」
大絶賛した。
父親に言うのもなんだが、自慢出来る相手がいないので仕方ない。
「あぁ、お前にそっくりだよ」
「だよな!」
花嫁衣裳を着た娘は本当に可愛らしく、いつか嫁にいってしまうのが残念なくらいだ。
実年齢から考えると、それほど遠い未来の話ではないだろう。
もう少し触れていたかったが離してほしいと催促され、ゆっくり地面に降ろす。
娘はその場で姿見を出し、自分の姿を確認していた。
「どうかな?」
「あぁ、とても良く似合っているよ。俺の娘が世界で一番綺麗だ」
響の返事を聞き、少し照れたように笑う。
俺は同意するよう頷いた。
「皆さん、昼食を作ったので食べましょう!」
「まぁサラ様自ら、お作りになられたのですか?」
俺が着替えをしている間、娘は昼食を作っていたようだ。
王族が料理をする事は滅多にないので、女官長が驚いている。
ちなみに王女時代、俺は一度も料理した経験がない。
「サラ……ちゃんは料理が得意でなぁ。毎週、儂らはご馳走してもらっておるわ」
何故か、ガーグ老が胸を張り得意げな様子をみせる。
いつもは三男役の影衆が配膳を行うが、俺がいるため女官達が動き出す。
いつの間に用意したのか、俺と娘と響の食器だけが王族仕様へ変わっていた。
沙良ちゃんが、少し不思議そうな顔をしている。
王族が食べる食器を同じ物に出来なかったんだろう。
毒を警戒してかスプーンは銀製だ。
「サラ様。見た事のない料理ですが、これはどうやって頂くのでしょう?」
サンドイッチを初めて見た女官長が娘に質問する。
「そのまま、手に持ち食べて下さい。ナイフやフォークを使用する必要はありませんよ」
「軽食なのですね? 分かりました。少し、お待ち下さい」
毒見役の女官が一口ずつ食べ毒の有無を確認していた。
本人が作っているから毒見の必要はないと思うが、この過程は王族が食べる際に省けない。
「お待たせ致しました。ではサラ様の手料理を、ありがたく頂きます」
暫く経過をみたあと、女官長がコーンスープを一口飲んだ。
次にカツサンドを食べて、大きく目を瞠る。
「これは……。料理長も再現出来ない味ですわね。姫様が食べたがっていたのは、このような物でしたか……」
俺が昔、料理が不味いと散々文句を言ったのを覚えているらしい。
そうなんだよ、求めてたのはこの味だ!
娘の料理を食べながら、うんうんと首を上下に動かす。
「ガーグ老。美味しい料理を頂き、さぞかし満足だったのでしょうね。この私へ連絡を忘れるくらい」
おや……雲行きが怪しい。
言われた爺の表情に焦りが浮かぶ。
後で第二弾が待っていそうな感じだな。
食事を終えてから、着替えを済ませガーグ老の工房を後にした。
女官長には明日、娘に着けてほしいと言い守護石が入った額飾りを渡してある。
明日の結婚式に備え色々準備をしておこう。
妻宛てに少しの間、別行動する旨の手紙を書いておく。
最後にもう少し、魅惑魔法のLvを上げておきたかったが……。
あれから響に掛けても秘密を打ち明ける事はなく、結局Lv7になっただけで終わった。
この魔法、アシュカナ帝国の王に掛けて効果があるんだろうか?
妻と離れる前に男のロマンを達成しようと思ったら、美容ポーションを飲んだ結花が直ぐに寝てしまい、俺の都合で起こすわけにもいかないため、未知の世界を体験する夢は叶わなかった。
女性化している間に誘ってみよう。
結婚式当日。
朝早くから異世界の家へ移転する。
俺の女装化した姿を初めて見た茜ちゃんとセイさんが、唖然となり娘と見比べていた。
「樹おじさんだと聞いても信じられない!」
茜ちゃんはそう言い、娘と俺を隣同士にしスマホで写真を撮った。
あっ、その写真は俺も欲しい!
「見た目年齢に差があるのは、元の年齢と比例しているのかな?」
「俺も初めて女性化したから、全く同じにはなれなかったのかも知れない」
本当はヒルダの姿にしかなれない魔法だけどな。
セイさんは黙ったまま、一言も話さない。
驚き過ぎて何も言えないんだろう。
敵の襲撃に備え、結婚式の時間は12時だと嘘を流している。
実際は、その前に披露宴をし出席する冒険者達に料理を振る舞う予定だ。
花嫁役の俺は衣装へ着替えにいく。
家の2階は6部屋あり、その中で一番奥の部屋へ案内された。
室内には、王族仕様の豪華な家具が置いてある。
ここは娘の部屋だろうか?
天蓋付きのベッドの柱には、四属性の精霊王の姿が彫られている。
皆、非常に美しい女性達だ。
人間は精霊王を見た事がない筈だから、この家具を作製したのは誰だろう?
もしかしてガーグ老達影衆か?
今日も、笑顔の女官達が張り切って俺の服を脱がせにかかる。
これからは、じっと我慢だ。
漸く全ての支度が整った頃には、まだ何もしていないのに疲れ切っていた。
花嫁衣裳を着た俺は披露宴会場へ向かう。
登場した瞬間、冒険者達が騒然となった。
今の娘の姿より年齢が高い事に気付いたんだろう。
娘が俺を生みの母親だと説明し、紹介してくれた。
そうでも言わないと、そっくりな容姿を納得させられないからだと思うが……、ちょっと嬉しい。
「皆さん本日は結婚式にご出席下さり、ありがとうございます。変則的ですが、先に料理を食べて下さいね。式にはアシュカナ帝国からの襲撃が予想されるため、お酒はありませんが、その分ご馳走を用意しましたから楽しんで下さい」
娘の挨拶と同時に、冒険者達から歓声が上がる。
テーブルの上に用意された見慣れぬ料理を、早く食べたくて仕方なかったみたいだな。
花嫁役の俺には目もくれず、料理に手を付け始めた。
ただ、その中でも一瞬行動が遅れた冒険者達が複数いる。
あれはアマンダ嬢のクランメンバーか……。
全員が参加すると聞いていたが、まさかクランメンバー全員が彼女の国の出身者だと思わなかった。
王族であるアマンダ嬢が口にする前に、食べられなかったんだろう。
さりげなく、料理担当者のケンさんが毎回毒見してるしな。
まだ何も食べてない俺も、披露宴の料理を口にしようと響達がいるテーブルに向かう。
義祖父の隣に座らされ、
「ヒルダちゃん。お礼は、いつでもいいからの」
小声で囁かれた言葉に耳を疑った。
バレてるじゃないか! そして孫の夫だと知っても、お礼を受け取る気なのかよ……。
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