ハニーを連れ再び地下15階へ戻ると、娘がこの階層にランダムで生る果物を探すと言う。
あぁ、マッピングで見れば何処にあるのか分かるんだろう。
Lvと同じ範囲を調べられるようだ。
今はLv45なので、本人を中心に半径45km以内を見渡せるのか……。
ダンジョン攻略する上で、魔物を索敵するには好都合の能力だな。
探す手間も省けるし、事前にいる場所が分かれば先制攻撃が可能になる。
沙良が調べている間、俺達を襲ってきた魔物は従魔達が素早く倒していた。
従魔は、何があっても主人を守る事を厳命されている。
沙良の場合はテイム魔法ではなく魅了でテイムしたようだから、その忠誠心は比ではないだろう。
命令などせずとも、命掛けで主人を守るに違いない。
アシュカナ帝国に狙われている今、その存在は頼もしいものだった。
シルバー・泰雅・ハニーと一緒に俺も魔物を倒していると、動きを止めていた沙良が果物を発見したのか満足そうに笑っている。
果物採取は息子の趣味らしいので、俺は何があったのか聞かずにおこう。
沙良が倒した三つ目ベアを収納し、ポイズンアントの魔石取りをお願いしてきた。
どうやら娘は魔石取りが苦手らしい。
外科医2人と攻略していたなら、得意そうな2人に頼んでいたんだろう。
冒険者なら魔石取りは必須だぞ?
俺は散々、Lv上げ時代にやったから慣れたものだ。
魔石を取り出していると、沙良から偽装結婚の相手について質問される。
「お父さん。私の結婚相手は誰に頼む心算なの?」
自分の結婚する相手だから、いくら偽装とはいえ気になるんだろう。
「あぁ。ガーグ老に、お願いしてある。きっと息子さん達を紹介してくれる筈だ」
俺の返事を聞き、沙良は結婚していない3人の息子達の姿を思い浮かべたのか「長男かな?」と呟いていた。
まぁ、見た目からして長男が一番若いに間違いない。
その後、魔物の討伐をせず沙良はハニーと一緒に魔力草の採取を楽しそうにしていた。
「冒険者……なんだよな?」
ダンジョン攻略の最中、のんびり薬草採取をしている娘を見て首を傾げる。
Lvが45あるのなら、地下15階の魔物を倒してもLvは上がらないだろうが……。
少なくとも、薬草採取をするより魔物を倒す方が効率的じゃないか?
しかも金にならない依頼をする意味は何だ?
結局午前中の攻略が終わるまで沙良は魔物を倒さず、俺は従魔と一緒に薬草採取をしている娘の周辺を警戒し、襲ってきた魔物の対処をしただけだった。
3時間後。
安全地帯へ戻りテントから沙良の自宅に戻る。
お昼はパスタらしい。
メニューを聞いた雫ちゃんがウキウキしている。
ダンジョン攻略中のお昼を、かなり楽しみにしているようだ。
朝は……結花さんの手料理を食べるので、尚更嬉しいのかも知れない。
きっと尚人君は、賢也と一緒に沙良の作った朝食を食べているんだろうなぁ。
雫ちゃん1人で可哀想だが、樹が召喚されれば人数が増えるから心配しなくてもいいぞ?
蟹のトマトクリームパスタ・照り焼きチキンピザ・唐揚げ・シーザーサラダ。
コーンスープと結花さんが淹れた紅茶を頂く。
パスタには大きな蟹の身が、ごろごろ入って美味い!
これは生のタラバガニか?
賢也と尚人君の分だけ若いためか、麺の量が俺達より多い。
沙良よ、俺も若くなったからもう少し食べられると思う。
お父さんの分を多くしてもいいんだぞ?
雫ちゃんはパスタの味に感激し、「今まで食べたパスタの中で一番美味しい!」と大絶賛だ。
食事中、沙良が今日調べた果物を賢也に教えていた。
「お兄ちゃん。ランダムで生る果物を調べてみたんだけど、地下15階に生るのはさくらんぼだったよ~。あれはきっと佐藤錦だと思うから、頑張って見付けてね!」
それを聞いた、結花さんと雫ちゃんが驚いている。
俺も、そんな不思議な果物があるとは知らなかった。
「えっ!? アメリカンチェリーの他にも、生っている果物があるの?」
「森のダンジョンには、毎日生る場所が変わる果物の木が1本だけあるんだよ。その階層で生る果物とは違う種類だから、兄が発見するのを楽しみにしてるの」
「王都のダンジョンでは聞いた事がないよ! 迷宮都市のダンジョンが最高過ぎる!」
2人は王都で高級フルーツとして売られていた物を購入していたらしく、このダンジョンで採取出来ると知り大喜びしている。
金額は分からないが、迷宮都市から王都へいくには馬車で2週間掛かる。
輸送費用とダンジョン産の付加価値が付いた果物は、相当高価な物になるだろう。
「お前達は本当に自由だな。ダンジョンへ薬草採取と果物採取にきているのか?」
沙良は薬草採取、賢也は果物採取をしていると知り呆れた。
「う~ん、いつも大体こんな感じだよ? 3人パーティーの時は、全員が別行動してたし」
「それじゃパーティーの意味がないだろう。冒険者として間違ってる」
「魔物は魔法で瞬殺しちゃうから、狩りは序でかな?」
娘達のダンジョン攻略は、俺の時と天と地の差があるな。
「……違い過ぎる」
常に命の危険があるダンジョンに身を置き、不味い携帯食料を無理やり口にした遠い記憶を思い出す。
でも娘達が冒険者をしていると聞き、無茶な攻略をしていないか心配したのは杞憂に終わった。
きっと賢也が安全に攻略出来る進度を考え、沙良を誘導したのだろう。
それでも娘は内緒でLv上げをしていたようだがな。
美味しい昼食を食べている途中、結花さんが淹れた紅茶だと忘れ飲んでしまった……。
思わず口から吐き出しそうになるくらい苦い!
こんなに苦い紅茶を飲んだのは初めてだ!
沙良が出した食後のチョコレートケーキに助けられ、紅茶を飲み干す。
これは毎回、昼食にデザートがセットで付かないと無理だ。
毎日甘い物を食べたら、太らないか心配なんだが……。
午後から、沙良は内緒でLv上げにいくらしい。
次の階層である地下16階へいくのかと思っていたら、なんと最終階層の地下30階に移転した。
あぁ、これじゃ影衆達は護衛するのが難しいだろう。
沙良が転移すると、居場所が分からなくなってしまう。
俺は沙良に内緒でガーグ老へ繋がる通信の魔石を握り締め、今は地下30階にいると連絡した。
『ガーグ老、沙良が地下30階に移転した』
『おお、助かったわい。息子達に知らせておこう。御子が地下30階を攻略していなさったとは、予想外だわ。階層が離れておるから、王がしっかりとお守り下され』
『安心しろ。娘は思った以上に強いから大丈夫だ』
『分かっておるが、それでも心配は尽きぬ。ポチとタマを変態させ、ダンジョンへ送った方がよいかの……』
ガーグ老は娘をいたく心配しているらしい。
MP消費が激しい魔道具では、それ以上の会話は出来ず終了した。
これでガーグ老は息子に、沙良の居場所を伝えてくれるだろう。
但し、地下15階から地下30階まで移動するには時間が掛かる。
ここからは影衆の護衛が付いていない状態だから、父親の俺がしっかり沙良を守らないと。
ガーグ老と念話をしている間、沙良が地下30階にいたアンデッドを昏倒させていた。
浄化の魔法が使用出来ないと、アンデッドを倒すのは骨が折れる。
どうするのか様子を見れば、骨だけの魔物から魔石を抜き取っていた。
「……アンデッドが簡単に……」
嘘だろ!?
なんだこの反則技は!
「魔石を抜き取ると死ぬよ? お父さんも、ドレインで昏倒させれば出来るから」
いや、それは知っている。
「ドレインの魔法が万能過ぎる……」
俺は今日1日、驚き過ぎ眩暈がしてきた。
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