一部不穏な会話を挟みつつ和やかに昼食を食べ終えた後、樹おじさんと私は花嫁衣裳から着替え、女官達へお礼を言ってガーグ老の工房を後にする。
明日は女官長達も式に出席するようで、早朝から着付けのため異世界の家へ来てくれるそうだ。
複雑に編みこまれた髪はそのままに、3人でホームの実家へ戻ってくる。
2人と別れた後、ブライダルショプへ2つの花嫁衣裳を返品しにいった。
電子メニュー画面の返品を押し、会計を済ませるテーブルへ衣装を置くと消えてなくなり、商品代金が返ってくる。
『手紙の人』が律義な性格で助かった。
樹おじさんの分は後で渡そう。
明日のため、兄達には『MAXポーション』を沢山作ってくれるようお願いしてある。
出席する冒険者全員へ行き渡るようにしたい。
怪我をする人も出てくるだろうから、万全な準備態勢で臨む心算だ。
雫ちゃんのお母さんは、救護班として待機する。
今回、雫ちゃんと母だけは危険なので式に出席しない。
私の花嫁姿を見たがった母は残念そうにしていたけど、式を挙げるのは樹おじさんへ変更したから出席しなくても良いと思う。
式に出る必要がなくなった私は、出席者として参加予定だ。
最悪の場合は、アシュカナ帝国人を全員アイテムBOXに収納してしまえば被害が抑えられるだろう。
まぁ、その前にガーグ老達と武闘派のメンバーが無双しそうだけどね。
敵が何人で襲撃してこようと心配はいらない筈……。
その日の夜は、いつもより早く全員が就寝する。
私は竜の卵に魔力を与えたお陰で、ぐっすりと朝まで眠る事が出来た。
日曜日、朝6時。
メンバーを連れ異世界の家へ移転。
兄と旭には、これからやってくる冒険者達を扉の魔石へ登録する作業をお願いする。
最初に到着したのは、ガーグ老達と女官長達だ。
先に樹おじさんの着付けをお願いし、私は結婚披露宴で出す心算だった料理をテーブルの上に並べ出す。
準備をしている間に、ぞくぞくと冒険者達が集まってきた。
皆、普段通り冒険者姿で完全武装している。
とても、結婚式に出席するような恰好じゃない。
アマンダさんとダンクさん、そしてダンクさんのご両親が挨拶にみえた。
「サラちゃん、お相手は何処にいるんだい?」
気になっていたのか、アマンダさんが周囲を見渡し早速尋ねてくる。
私はエルフの正装をした集団を指し、その中でも一際体格の良いご老人だと伝えた。
すると全員が唖然となり瞳を彷徨わせ、何と言って良いか分からない表情になる。
「あ~、5人の子持ちになったと聞いていたが……。もしかして、サラちゃんより子供達の方が年上なんじゃないか?」
頬を掻きつつ、ダンクさんが遠慮しながら聞いてきた。
「あっはい、そうですね。その内の2人は結婚しているから、義理の娘も2人いますよ。幸い孫はまだなので、お婆ちゃんにならなくて済みました!」
「お婆ちゃんって……」
「もっと若い者はいなかったのか? 年の差があり過ぎると思うが……」
ダンクさんの父親であるジョンさんが心配そうに言ってくれるけど、どうせ偽装結婚だから問題ない。
しかも実際、式を挙げるのは30代に見える女性化した樹おじさんだ。
「実は……、私の代役をするため産みの母がきているんです」
女性化した樹おじさんを、どう説明するか迷ったけどこれが一番いいだろうと産みの母に決めておいた。
姿変えの魔道具は禁制品のため使用した事にするのは出来ないし、50日間姿が変わらない言い訳をするのも難しい。
樹おじさんはシュウゲンさんと同じように女性化している間、摩天楼のダンジョンを攻略する予定なのだ。
「あぁ、実の母親が代役を務めるのか……」
似ていない兄妹なので、そこには皆がすんなり納得したらしい。
披露宴の準備が整う頃、花嫁衣裳を着た樹おじさんが登場し、その場が騒然となった。
私とそっくりな人物を見たら、当然驚くだろう。
会場に集まった冒険者へ事情を説明すると、皆が樹おじさんと私を交互に見て頷いていた。
視線がやや顔より下の方だったのは、気にしないでおこう。
「皆さん本日は結婚式にご出席下さり、ありがとうございます。変則的ですが、先に料理を食べて下さいね。式にはアシュカナ帝国からの襲撃が予想されるため、お酒はありませんがその分ご馳走を用意しましたから楽しんで下さい」
挨拶を済ませると、冒険者達から野太い歓声が上がる。
テーブルの上一杯に並べられた料理の数々を見て、手を叩き喜んでいた。
『ハンバーグ』・『ローストビーフ』・『唐揚げ』・『トンカツ』・『コロッケ』・数種類の『ピザ』・『ビーフシチュー』・『ツナとコーンのサラダ』・果物の盛り合わせ。
どれも、初めて食べる料理ばかりだろう。
冒険者達が美味しそうに食べ始めるのを確認し、私も衣装へ着替えようと2階の部屋に向かった。
一番奥の私の部屋では、女官長を筆頭に女性達が笑顔で迎えてくれる。
今日は花嫁衣裳ではなく、エルフの正装だからそこまで時間は掛からないだろう。
そう思ったのは間違いだった……。
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