【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第707話 迷宮都市 偽花嫁の偽装結婚 2

公開日時: 2024年2月25日(日) 12:05
更新日時: 2024年6月18日(火) 15:15
文字数:2,472

 女官達に着替えさせられたエルフの正装には、明確な違いがあった。

 白を基調とした衣装は同じだったけど、ほどこされている刺繍ししゅうの範囲が非常に多い。

 使用されている糸は銀色・金色・紫色と3色に増え、見ただけで上位の者だと分かるだろう。

 私は目立つの厳禁なんですけど?

 そして、髪は昨日より更に複雑に編み込まれたみたいだ。

 顔を隠すためのベールは総レースで出来ており、こちらは全て紫の糸で作られた物らしい。

 ベールを被っていれば顔は見えないだろうけど、衣装がものすごく目立ちますよね!?


 同じような衣装を着た集団の中で、明らかに1人だけ装飾が違っていたら埋没するのは難しい。

 そう指摘したものの、女官達は私が同じ衣装を着るのをがんとして譲らなかった。

 これで大丈夫かなぁ~?

 まぁ敵の狙いは花婿の殺害と花嫁の誘拐だろうから、他の者に目もくれないか……。


 結局、私の着替えは2時間を要し、1階へ降りて行く頃には冒険者達が披露宴ひろうえんの料理を綺麗に食べ終わった後だった。

 かなり量を作っておいたのに、テーブルの上は何も残っていない状態である。

 そして彼らは、入念な武器の手入れを始めていた。

 顔付きもけわしいものへ代わり、これからの戦いに備えているのがうかがえる。

 私も少し食べておこう。

 ベールを被ったまま親族がいる席へ近付くと、兄が額に手をやり溜息を吐く。


「沙良……。花嫁の代役を立てた意味がないくらい豪華な衣装だな?」


「私もそう思うんだけど、女官達がこれ以外は駄目だって言うの」


「……顔を見せなければ大丈夫か?」


 隣で父もうなっている。


「少し、顔を見せてほしいな。まだ、大丈夫だろう?」


 いつきおじさんからお願いされ、私はそっとベールを持ち上げた。

 額には、おじさんとおそろいの宝飾品が飾られている。


「あぁ、ちゃんと付いて・・・いるね」


 そう言って満足そうに微笑むと、おじさんは私が持ち上げたベールを掛け直した。

 何を確認していたのだろう?

 残っていた料理を軽く食べ、私もこれからの戦いに備えた。

 冒険者達には、全員に『MAXポーション』を渡しておく。

 式を挙げる時間がきたので、冒険者達と一緒に庭へ移動した。

 私の結婚式を噂で知ったアシュカナ帝国人は、挙式の時間に襲ってくるだろう。

 庭には披露宴用のテーブルや椅子は何もない。

 襲撃に備え、先に家の中で食事は済ませているからね。


 教会の12時の鐘が鳴る。

 私達が見守る中、身代わりの花嫁とシュウゲンさんが進み出た。

 その瞬間、ガルちゃん達が大きくえる。

 全員が即座に警戒態勢を取った。

 私の周りを長槍を手にした女官達が取り囲み、背の低い私の姿を隠す。

 ガーグ老達は、全員が両手に剣を持ち見た事のない構えを取っている。

 双剣使いだったの?

 武闘派のメンバー達も、それぞれの得物えものを持ち、やってくる敵を待ち構えていた。


 10mの塀を乗り越え、四方から敵が庭へ降り立つ。

 その数、100人程だろうか?

 対して、こちらの総人数は約260人。

 最初から襲撃を予想し、全員が武装した状態で臨戦態勢を取っている。

 式の最中、虚を突こうとしても意味がない。


 襲撃者達は穏やかな式とは違う雰囲気ふんいきひるんだ様子を見せた後、真っ先に花嫁と花婿のもとへ向かった。

 あぁ、よりによって一番勝ち目のない相手へ……。

 当然2人を守るため、ご老人達と武闘派メンバーや冒険者達が立ち塞がる。

 兄と旭とお母さんは後方支援だ。

 戦いの火蓋を切ったのは意外にも花嫁自身で、


「サンダーボルト!」


 と高らかに声を上げ、空から雷を落とした。

 私はしずくちゃんが言っていた魔法の効果を見て、驚愕きょうがくする。 

 周囲に雷鳴が響き渡り、ドォン! とものすごい音がしたかと思うと半数以上の敵だけが倒れていた。 

 それを見て不敵に微笑んだ樹おじさんが人差し指を立て、ちょいちょい動かす仕草しぐさをし掛かってこいと挑発している。

 うわぁ~、何だか凶悪だなぁ。

 それでも敵は構わず突っ込んでいった。


 あぁ、ここからは心臓に悪そうな展開が待っていそう。

 女官達が更に接近し、隙間なく私の身を隠したため見えなくなってしまった。

 剣戟けんげきの音や叫び声が幾つか上がり続ける。

 音から予想しうる内容に体が震えた。

 きっと、死者が沢山出ているに違いない。


 10分程して静かになってから、女官達が隙間を開けてくれた。

 恐る恐る庭を見ると倒れた敵の姿は何処どこにもなく、ただ庭へ血痕けっこんが残っているだけだった。

 死体は既にマジックバッグへ収納されたのだろう。

 それは、生きている敵がいないという証でもある。


 あっけない襲撃の幕切れを、私は逆に怪しんだ。

 結婚式を挙げる日や場所も知っている敵が、これだけのはずがない。

 同じように考えているのか冒険者達は警戒をゆるめず、誰も口を開かなかった。

 そして案の定、第二陣がやってくる。

 シルバーが顔を上げ、西の空を注視していた。

 騎獣に乗った帝国人の姿が目に入る。

 

 敵の用意した騎獣はグリフォンのようで、数も100騎以上と多い。

 ならば、これはテイムされた従魔ではないだろう。

 テイムするには主人の魔力が必要になる。

 指示を出している人物は、ガルちゃん達を動かすように笛を持っているわよね?

 私はマッピングで1人ずつ確かめ、後方にいた人物を探し当てた。

 そして手に持っていた笛をアイテムBOXへ収納する。

 突然、笛がなくなったと気付いた指示者があわてふためく。


 これ以上、騎獣に指示は出せない。

 上空からの襲撃に備え、私は最初から笛を奪う予定にしていた。

 そうすれば機動力は落ち、言う事を聞く必要がない騎獣が自由になる。

 今まで指示通り人を背に乗せ、こちらへ向かっていたグリフォンは動きを止め、その場で騎乗者を振り落とした。

 かなりの高さから振り落とされた帝国人は迷宮都市に入る事なく、そのまま地面に落下する。

 何人かは立ち上がっていたけど、そのほとんどは身動き出来ない状態のようだ。

 

 アシュカナ帝国の襲撃が予想されるこの日。

 ギルドマスターのオリビアさんは、迷宮都市の住人達へ外出禁止令を出している。

 外にいるのは衛兵とギルド職員のみ。

 落下した敵は彼らに任しておこう。

 そして、遂に本命とみられる第三陣が現れる。

 10騎と数少ないけれど、全員がキメラのような姿をした騎獣に乗っていた。

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