そろそろ何があったかちゃんと聞きたい。
俺は腕輪からテーブルと椅子を出し、王妃に座ってもらった。
「お母様は、どうしてここにいるんですか?」
「孫を9番目の嫁にしたいと、ふざけた事を言う馬鹿の顔を拝みに来たのよ」
絶対、それだけじゃね~!
もう殺る気満々で来たに違いない。
「お母様。女性騎士達だけで他国に向かうのは、どうかと思いますけど……」
「私を誰だと思っているの? 王の護衛を務めていた近衛騎士よ? 一緒に同行したのは、私の部下達でもあるわ」
えっ? そうだったの?
専属護衛の女性騎士達は、娘に甘い王が選別したと思っていた。
母が近衛時代の部下達だったのか……。
もしかして昔、求婚した件を知られてるんじゃ?
当時は俺自身が子供を産むとは思いもせず、女性騎士にお願いしたんだよなぁ。
相手は既婚者だったから、速攻でフラれたけど……。
きっと子供の戯言だと思われた筈。
母からは何も聞かれなかったし、彼女も求婚した件は秘密にしてくれたんだろう。
「お母様は随分長い間、国を離れていますよね? 王の顔を見に来たにしては、時間が経ち過ぎていますけど?」
「きっと貴女が来ると思って、先に潜入したの。一度やってみたかったのよね~。帝国人に扮し騎士団の試験を受け王宮警備の担当に配属されてから、側室達の近衛になるまで時間が掛かったわ」
はぁ? 何やってるの!?
王妃が他国に潜入し、近衛騎士になるとか意味が分からない。
それは諜報員の仕事だろ!
「じゃあ、ずっと王宮内にいたんですね。お母様……、危ない真似はしないでくれると助かります」
「あら、部下達もいたし平気よ? それで今日、襲撃があったからこちらも動いたの。真っ先に王の間へ駆け付けたんだけど、護衛している騎士の人数が多く手間取っている間に逃げられたのよね。隠し扉には登録者以外開けられない魔道具が嵌められていたから、後を追うのは諦めて貴女達が来るのを待ってたわ」
あぁ、やっと話が繋がった。
王の間で倒れている帝国人は、母達の仕業らしい。
「王の間は暗闇になっていませんでしたか?」
「光の精霊王にお願いして闇の精霊は追い出したわよ」
王妃の守護精霊を忘れていた。
そりゃ何の問題もないわな。
「それより、何故ケスラーの民達と一緒にいるの? それに、知らない顔が幾つかあるわね」
漸く、娘以外の人物に興味が湧いたようだ。
俺は今までの経緯を話しながら、夫と娘の契約竜2匹にケスラーの民達を紹介する。
響は王妃を前に緊張した面持ちで名乗った。
初対面のイメージが悪すぎ、苦手意識があるんだろう。
問答無用でLvを上げるため、ガーグ老達に連行されたからな……。
「人族の貴方が、まだ生きてるとは思わなかったわ。あれから娘のために、しっかりLvを上げたのね。姿変えの魔道具にステータス偽造とは念が入っている事」
響のステータスを鑑定した王妃が皮肉を言う。
Lvはカルドサリ国王時代と変わらないが、名前が日本名のため偽造していると勘違いしたようだ。
一応Lv100からLV125まで上げたらしいし、間違いではないか。
「竜族の方に、お会いするのは初めてよ。孫と契約して下さり、ありがとうございます」
「あんたが曾婆ちゃんか。別嬪さんだな。セキだ、よろしく!」
「セイと申します。ティーナ様は護衛隊長の私が守りますから、ご安心下さい」
2匹の双子竜は、かなり性格が違うんだな。
セキから曾婆ちゃんと言われた王妃が動揺していた。
うん、気持ちはよく分かる。
「ケスラーの民は、族長の娘を人質にされているのね。側室の中には、いなかったと思うわ」
それを聞いた族長とハイドが、ほっと安堵したようにみえる。
娘が傷物にされていないか心配だったのだろう。
「王妃よ、私達は娘を探して参ります」
族長は一礼し、一族を引き連れ王の間から出ていった。
残された俺達にガーグ老から連絡を待つ間、響が紅茶を入れてくれる。
彼の祖父はイギリス人なので、彼は紅茶を淹れるのが上手い。
茶葉も異世界の物じゃなく、ホーム内で購入した高級品だ。
ガラス製のティーポットに熱湯が注がれ、茶葉が踊る様子をなんとなく見る。
響は家から持ってきた陶器製のティーカップに紅茶を入れ、おずおずと王妃へ差し出した。
「悪くない味ね。意外な特技があったものだわ」
味に満足したのか、母は笑って紅茶を飲み干す。
良かったな響、少し株が上がったようだぞ?
俺も冷めない内に飲んでおこう。
紅茶を飲み終わる頃、ガーグ老から連絡が入った。
『姫様。王を発見したが、ケスラーの民の娘も一緒におる。周囲に闇の精霊の結界があり、手が出せん状態だ』
ちっ、人質として連れ出したのか? 1人で逃げ出せばいいものを!
『分かりました。場所は何処です?』
『王宮の裏門から出た森の中を走っておる』
森なら世界樹の精霊王の支配下だ。
『直ぐに合流します』
ケスラーの民には知らせない方がいい。
「お母様。王の居場所が分かりました。少し厄介な事態になっているので、私も行きます」
「そう、じゃあ付いて行くわ」
ここで断るのは時間の無駄だろう。
一緒に王宮を出てガーグ老の下へ行った方が早い。
「ポチ。グリフォンに変態し、お母様を乗せてね! タマは風竜に変態し、女性騎士達を運んで」
俺達は飛翔魔法で飛べばいい。
王宮から出るまで、残った帝国騎士達を薙ぎ払いつつ裏門を目指す。
裏門を守る護衛兵達は、王妃の鮮やかな剣捌きにより一瞬の内に絶命した。
元近衛というのは伊達じゃなく、初めて王妃が剣を振るう姿を見た俺はその技量に感心する。
武の出身である母は、王女として育てられた俺より腕が上かも知れないな。
一応ガーグ老の稽古を受けていたが、俺の実践経験は圧倒的に不足しているようだ。
対人戦に関しては、国王であった響にも劣ってるかも……。
「婆ちゃんは、俺が運んでやるよ」
裏門から出ると、セキが俺をひょいっと抱き上げ飛翔する。
自分で飛べるから~! お姫様抱っこは恥ずかしいから、止めてくれ!
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