翌日。
俺と妻の冒険者登録をすると言うので、沙良から渡された異世界の服装に着替えた。
昨日、結花さんから冒険者として活動していると聞き、俺達も一緒にダンジョン攻略をする事になったのだ……。
カルドサリ国王時代、度々摩天楼のダンジョンで死ぬような目に遭った俺は、正直冒険者としてダンジョン攻略するのは遠慮したい。
ガーグ老達のスパルタな訓練を思い出し、憂鬱な気分になる。
しかもダンジョン内で取る食事は最悪だった。
あの携帯食料の所為で、体重がかなり減ったんだよな。
まぁ今回は既にLvが125ある状態だし、いつも独りだったダンジョン攻略も7人パーティーで行うから余り無茶なものにはならないだろう。
沙良がこれから異世界の家に移転するらしい。
ホームの能力は、異世界と日本を模したホーム内とを移動出来るみたいだ。
本当に呆れる程、ぶっとんだ能力だな……。
じゃあいくねと娘が言葉にしたその直後、一瞬で目の前の景色が変わった。
着いた先は、新しく建てたばかりの家のようだが……。
何でこんなに高い塀が必要なんだ?
外の様子が全く見えないじゃないか!
これじゃ、まるで要塞だ。
この不自然な塀について沙良に質問すると、商業ギルドの担当者が防音対策に付けてくれた物らしい。
しかも子供達のためにとは、どういう事か分からない。
疑問に思ったが、後で詳しく教えると言われその場で追及はしなかった。
家の門には結界の魔道具が付けられており、魔石に登録した人物しか入れないようになっていた。
俺達2人とお義母さんの血液を登録すると、大きな門がスライドして開く。
門から出ると、そこは間違いなく異世界だった。
見覚えのある風景に漸く再び戻ってきた事を実感する。
ホーム内にいると、異世界だとは到底思えなかったからな。
妻は初めて見る異世界の街並みを、視線をあちこち動かしながら興味深そうに眺めていた。
その後、お義母さんを家まで送り冒険者ギルドまで歩く。
見慣れたギルド内に入り、沙良が受付嬢に冒険者登録の申請を出していた。
すると、受付嬢が俺を見て顔色を変え別室へと案内される。
なんだ?
今はカルドサリ国王の姿をしていないから、お忍びがバレたという訳じゃないだろう。
それに、俺がいた時代より数十年以上経過している筈だ。
理由に思い当たらなかったが、暫くしてはっと気付く。
迷宮都市は独立採算制で、冒険者ギルドマスターはエルフの国の者だった事に……。
となると、あの受付嬢は人物鑑定が出来るエルフの関係者かも知れない。
俺のステータスがLv125になっている事を知り、驚いたんだろう。
これは不味いな……。
子供達は、俺と樹がこの世界で生きた経験があると知らないままだ。
あまり不自然な対応をされたくない。
沙良から待っている間に、ステータスを確認出来たかと聞かれ焦る。
妻が78と答えたので、俺も同じ数値を返した。
あ~、これをいちいち計算するのは面倒だな。
ステータス表記の42歳じゃなくて、本当の年齢で上がる事になるようだ。
Lv0で78なら、LV1で156か……。
それからいくらも待たず、冒険者ギルドマスターが部屋に入ってくる。
容姿を見ただけで、エルフの血が入っている事が分かる美しい女性だった。
ただ俺が知っている王族だった樹とその母親より、かなり美しさは劣っている。
ハーフエルフだろうか?
その女性は、受付嬢と同じように俺を見るなり表情を変えた。
どうやらこちらも人物鑑定持ちであるらしい。
頼むから軽率に俺のLvを口にしないでくれよ!
「あのっ……。本当に冒険者をされるんですか?」
俺の心配は杞憂に終わり、ギルドマスターは高Lvである事は口にせず冒険者登録をするのか確認しただけだった。
既にLvが125ある時点で、他国での冒険者経験があると思っているのだろう。
その場合、既に発行されてる冒険者カードを提出すれば、カルドサリ王国内でも上げた等級のまま使用出来る。
しかも迷宮都市のダンジョンは地下30階層までしかないから、SS級冒険者クラスのLvを知りここで活動するのを疑問に感じたのかも知れない。
俺は娘に任せて沈黙を守る事にした。
どう思われようが、F級冒険者登録をしない訳にはいかない。
ダンジョンに入るため、C級冒険者へのスキップ制度を受ければ問題ないだろう。
俺達の冒険者登録は何事もなく終了し、F級と書かれた冒険者カードを受け取る。
鉄の素材で出来たカードを見て、俺が最後に使用していたのはオリハルコン製だったなと懐かしくなった。
冒険者ギルドを出ると、沙良が武器と防具を購入しにいくと言う。
最初に向かったのは武器屋だった。
俺の愛用していた剣は、今何処にあるんだろうなぁ。
樹に紹介した武器屋のドワーフの名匠に鍛えてもらった、名剣なんだが……。
こんな店売りの鈍らの剣じゃ、剣の腕が泣く。
ざっと店頭を見渡して、興味を惹かれる剣を探すが見付からない。
その中で1点だけ、ガラスケースに入れられている物があった。
商品内容を見ると、ドワーフの名匠バール氏が鍛えた剣だと書かれている。
それは俺の愛剣と同じ製作者だ!
早速、店主に見せてもらえないか尋ねるとやんわりと断られてしまった。
国王時代にはなかった対応に、少しがっかりする。
高額な商品は、身形を見て買えないと判断されたのか……。
そう思っていると、沙良が店主に頼んでくれた。
娘が言うとあっさり了承し、ガラスケースの錠を開ける。
この対応の違いに樹の時を思い出した。
美人は得だな……。
渡された剣を手に持ってみると、違和感を覚える。
あのドワーフが鍛えたにしては軽い。
俺は与えられた鑑定の能力を使用し、手にした剣を調べてみた。
案の定、偽物だ!
「店主、この剣は紛い物だ。素材はオリハルコンが表面を覆っているだけで、中身はミスリル製のようだな。それにバール氏とあるが、この剣の製作者はドワーフじゃなく人間だ。更に言うと、コカトリスキングの魔石ではなく、コカトリスの魔石のようだぞ?」
俺は残念な気持ちになり、店主へとその事を伝えた。
事実を知った店主に感謝され、結局妻と同じミスリル製の剣を購入する。
これでも、ある程度の魔物なら対処出来るだろう。
店を出た後、沙良から鑑定の能力を人前で使わないよう注意された。
鑑定持ちは商業ギルドに多くいた気がするが……。
この時代には、珍しい能力なんだろうか?
防具はワイバーン製の革鎧。
ガーグ老達が用意してくれた魔法耐性がある鎧も、今は王宮の宝物庫に眠っているのかも知れないな。
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