3時間後、昼食を食べにホームへ戻る。
食事の最中、雫が付与魔石の魔法を使用した事を興奮気味に話し出した。
「沙良お姉ちゃん、もう本当に凄かったの。ピカって光ったあと、空から雷が落ちてきたんだよ!」
聞いていた響が、溜息を吐き俺を呆れた目で見る。
し、仕方ないんだよ!
付与魔法は、習得した魔法Lvしか付与出来ないんだから……。
「雫、回数が少ない魔法はあまり使用しない方がいい。少し、効果が高いかも知れないからな」
一応、息子にも言われたし使用は控えるよう注意しておいた。
「え~、私も皆と同じ魔法を使いたいよ!」
付与魔石を安易に使用するなと言われた雫は、当然不満顔をして抗議する。
「魔物の損傷が激しいと、換金額が下がるぞ?」
「あら、それは駄目よ。雫、お父さんの言う事を聞いた方がいいわ」
妻にまで駄目出しされた娘は、完全に不貞腐れプイッと横を向いてしまった。
そんな雫に、沙良ちゃんがフォローのためかケーキを出している。
自分だけデザートを貰えたので、少し機嫌を直したようだ。
午後から2回の攻略を終え安全地帯へ戻ると、テント前にダンクさんパーティーが運ばれていた。
それを見た結花が急いで治療を始める。
パーティー全員が怪我をするなんて、何が起きたんだ?
俺もヒールは使用出来るが、治癒術師が何人もいるのは不自然なので手を出せない。
賢也君達がくるのを待つしかないな。
妻が治療を始めて5分後、沙良ちゃん達も安全地帯に戻ってきた。
テント前に怪我人が複数いるのを知り、賢也君と尚人が駆け寄ってくる。
2人は医者の顔になると、怪我人の状態を素早く確認し対応に当たった。
リーダーのダンクさんは意識がない。
その間に、沙良ちゃんが軽傷なリリーさんへポーション掛け状況を聞き出している。
「突然、見た事のない冒険者達が襲ってきたんです。相手は12人だったから、人数が多くマジックバッグを盗られてしまい、治療出来ずに安全地帯へ戻ってきました。リーダーは私達を逃がそうと最後尾に付いていたんですが、毒矢を受け意識がない状態に……」
ダンジョンで冒険者が襲ってきただと?
バレたら冒険者資格を失うどころか、処罰されるのに?
沙良ちゃんが、話を聞いて『毒消しポーション』を取り出した。
ダンクさんに飲ませるためだろうが相手は意識がない。
何をしようとしているか気付き止めようとした時には、響が娘から取り上げ『毒消しポーション』を口に含み、ダンクさんへ口移しで飲ませていた。
良かった……、治療行為と分かっていても娘が男性とキスする場面は見たくない。
直ぐに毒消しの効果が表れたダンクさんが意識を取り戻し、自分が口を塞がれた状態で相手が誰か確認した瞬間に跳ね起きた。
「あ~出来れば治療のお礼は、お金だけにしてほしい」
言われた響は怪訝そうな顔をして意味が分かった瞬間、渋面になる。
まぁ、そんなお礼は受け取りたくないだろうな。
「ダンクさん。父に、お礼は必要ありません」
娘が苦笑しながら言うとダンクさんは、ほっと安心した表情を見せた。
この治療のお礼ってやつは、同性間でも成立するのか……。
俺はヒールが使えない事にした方が良さそうだ。
今まで尚人は大丈夫だったか、少し心配になってしまう。
背が低く可愛らしい容姿の息子は、男性冒険者に言い寄られたりしてないだろうか?
賢也君と結婚してるから大丈夫だよな……。
パーティー全員の治療が済むと、ダンクさんが頭を下げ娘にお礼を言う。
「悪い、マジックバッグを盗られたから手元に金がないんだ。治療代は地上へ帰還した後でいいか?」
「ええ、いつでも大丈夫ですよ。それより大変でしたね。犯人達を捕まえないと!」
「迷宮都市に他領の人間が来ていたのは知っていたが、直接襲ってくるとはな。やるなら、『MAXポーション』の転売くらいかと思ってたよ。サラちゃん達も気をつけるんだ」
「はい、うちは大人数パーティーだから問題ありません。襲ってきたら返り討ちにしてやります」
「まぁ、従魔が15匹もいるパーティーを襲おうとは思わないだろうがな」
従魔がいるだけで、テイムする技量があると相手は知る。
魅了魔法でテイムしたとは分からないだろう。
普通は戦力の差を考え襲おうとはしない筈だ。
「ダンク、クラン内に通達を出すよ。同じ冒険者を襲うなんて、どこから来たやつらだろうね。早く捕まえないと、落ち落ちダンジョン攻略も出来やしない。ギルドに報告も入れた方がいいね」
話を聞いたアマンダ嬢が真剣な顔をして割り込んできた。
メンバーの護衛達がピリピリしているな。
王族である彼女が襲われるのを危惧しているようだ。
「あぁ、顔はバッチリ覚えている。明日、帰還したらギルドに人相書きを作成してもらう心算だ」
荷物を盗まれたダンクさんのために、沙良ちゃんが必要な物を詰めたマジックバッグを手渡していた。
「サラちゃん、悪いな助かるよ。マジックバッグを取り返したら、ちゃんとお礼をするから待っててくれ」
「ダンクさん、中身はもうないかも知れませんよ?」
「サラちゃん達と階層の移動を続けたお陰で、かなり稼いだから使用者登録付きのマジックバッグを購入したんだ。今頃、犯人達は盗んだマジックバッグから何も取り出せず悔しがっているだろうさ。使用者登録の解除は、ちゃんとした理由がない限り頼めないしな。既に使用者登録してあるマジックバッグは売れないから、犯人にしてみれば只の荷物だ。その辺に捨てているかも知れないが、魔法士が探せば見付かるから安心していい」
使用者登録付きのマジックバッグなんかあるのか。
俺が空間魔法で作るのには付いてない。
まぁ、持っているのは殆ど従魔達だから盗まれる心配はないだろう。
何もなくなってしまったダンクさんのパーティーに、娘がアイテムBOXから作り置きしたチーズハンバーガーセットを出し渡していた。
おおっ、美味しそうだな~。
俺達も同じメニューかと期待したら違っている。
今日のメインはミートパスタらしく、響が残念そうな顔をしていた。
夕食後。
尚人が人魚姫役をすると知った茜ちゃんは、息子の演技を見て大笑いしていた。
本人も恥ずかしがっているから、そんなに笑ってやるなよ。
彼女は息子が嫌いなのか?
一緒に空手を習っていたので、子供の頃は好きだと思っていた。
息子より強くなり、姉のボディーガードは絶対に譲らなかったけど……。
劇の稽古が終了するまで見学し、俺達はホームへ戻った。
響に視線を送り居酒屋で待っていると伝える。
昨日掛けた魅惑魔法の効果は切れたようだから、今夜も試してみよう。
今朝確認するとLv2に変化していたので、もう少し強い効果が出るんじゃないかと期待していた。
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