「儂より高いとは感心するわい。こりゃ負けておれんな、明日から本格的にダンジョン攻略をしようかの」
茜ちゃんのLvを聞き義祖父は笑っていたが、尚人は引いていた。
響と賢也君は、彼女の性格を把握しているからか苦笑している。
そして雫は「茜さん凄い!」と、羨望の眼差しを送り目をキラキラさせていた。
義父は姪に負けたのがショックで落ち込んでいるようだ。
そんな中、沙良ちゃんが爆弾発言をする。
「茜、お兄ちゃんと旭が結婚したのよ~」
息子達の結婚報告に茜ちゃんが、お茶を口から盛大に噴き出す。
親友だと思っていた2人が結婚したと聞かされれば、驚くよなぁ~。
その後、2人を交互に見ると笑いながら机をバンバン叩いている。
「旭、良かったじゃないか初恋が実って!」
何故かニヤリと悪人顔をした。
こりゃ、息子の初恋相手が誰だか分かっていそうだな……。
姉の周囲から邪魔者が消え、喜んでいるようにみえる。
この様子だと、2人の結婚には何か理由があるんだろうと見当も付いてるか?
響も賢也君も今回は彼女に事情説明をしないらしい。
「それと私も、もう直ぐ結婚式を挙げる予定なの」
「はっ!? 相手は誰なんだ!!」
しかし、その後に沙良ちゃんが自分の結婚報告を伝えると態度を豹変させる。
娘が慌てて、アシュカナ帝国の王から9番目の妻として狙われているための偽装結婚だと話していた。
「万死に値する」
茜ちゃんは物騒な台詞を吐き、不敵に笑う。
それには俺も同意する。
娘の件に関して彼女とは気が合いそうだ。
茜ちゃんが持っている例の手紙を読み能力の確認をした。
アイテムBOX持ちかぁ~。
風魔法のウィンドウォールは誰も持ってないな。
うん? 『ダンジョン内は全て移動可能ですが、冒険者がいる階層には移動出来ません。』って、どういう意味だ?
「あの……、これだと茜さんは51階からしか移動出来ませんよね?」
セイさんが俺と同じ疑問を持ったのか、茜ちゃんに尋ねる。
「そこが憎いところだな。武器も防具もなくLv0の状態で、いきなり51階の魔物と戦う羽目になった。今となっては、あれも良い思い出だよ……」
ええっ!? Lv0の状態で51階に出現する魔物と戦ったら、間違いなく死ぬだろう!
「茜、51階の魔物なら相当強い筈よ? 武器がないのに倒せたの?」
「幸い風魔法が使用出来たから、ウィンドウォールで防御しつつウィンドボールを何度も撃った。それで最初の内は魔法Lvを上げ、一つ目の二足歩行していた大きな魔物へ狙いを定め、足を徹底的に蹴り続けた。膝を落とし立てなくなったところで、延髄へLvを上げた魔法を撃ち倒したんだ。1ヶ月も掛かり大変だったが1匹倒した後はLvが一気に50まで上がったから、その後は体術を鍛え敵の持っている武器を奪い剣術や槍術Lvを上げたよ」
彼女がどうやってLvを200まで上げたか分かり、唖然となった。
もし俺が同じ立場だったら、同じ事が出来るだろうか?
そう考えて、直ぐに無理だと答えを出す。
ヒルダとしての記憶とLvがあれば可能だが、突然異世界に召喚されLv0の状態で強い敵と戦う選択はしない。
きっと魔物を見た瞬間、100階層に逃げ帰りそのまま引き籠ると思う。
それが可能な彼女の前世は、相当強い種族だったに違いない。
「茜は凄いわね! 私が最初に倒したのはスライムよ。それも槍で突いたら簡単に死んじゃう魔物だったし」
「私は、姉さんが冒険者をしている方が驚いた。まさか、摩天楼のダンジョンを攻略してるとは思わなかったな。それに、どうしていきなり最終階層まで来たんだ? 冒険者が攻略しているのは50階までだったろう?」
「あぁそれはね、30階で出現する宝箱の中身があまりにも酷かったからよ! ビ……スケスケの踊り子の衣装と鬼のパンツなんて、もう絶対ダンジョンマスターは日本人の男性に違いないと思い殴り込みに行ったの」
「宝箱? へぇ~、そんな物があるなんて知らなかったよ」
「じゃあ、やっぱり茜が宝箱の中身を操作してた訳じゃないのね。私達の運が単に悪かっただけかしら?」
「そうとも言えないんじゃない? 結果的には家族と再会出来た訳だし、『手紙の人』が会えるようにしてくれたのかも?」
2人の会話に息子が割り込む。
確かに宝箱の中身がアレだと意図的なものを感じるな。
まるで引き合わせるかのような内容だった。
ゲームをした事がある人間なら、ダンジョンマスターが元日本人だと気付くだろう。
その後、茜ちゃんに次は旦那さんを召喚すると娘は提案したが、彼女は自分を再召喚してほしいと希望。
それを受けた娘が直ぐに再召喚した。
目の前で、茜ちゃんの姿が54歳から18歳に変わる。
36歳も若返ると大分雰囲気が違うなぁ。
響似の彼女はイケメンだった。
今は髪を長くしているから何とか女性と分かる。
当時はショートで賢也君の弟にしか見えなかったけど……。
「茜は、これから私達と冒険者をする?」
「あぁ、姉さんが心配だから一緒にパーティーを組むよ。摩天楼のダンジョンは庭みたいなもんだから任せてくれ」
パーティーに茜ちゃんも加わる事になったようだ。
娘が彼女のステータスを記入してもらった紙には、なんとテイム魔法があった。
しかも7匹だと!?
全部が同じ種類の魔物で、リーダーのクインレパードとキングレパードの6匹。
ガルムと同じで飛翔魔法が使えるらしい。
これは通常のテイム方法で従魔にしたんだろう。
従魔Lvも200あるから強そうだ。
娘が俺達のステータス表を渡すと、それを見た茜ちゃんが驚いた様子をみせる。
「何で、こんなに沢山魔法を覚えてるんだ?」
「転移組は、魔物から魔法を受けるとその魔法が習得可能なのよ」
「はぁ!? そんな、滅茶苦茶な方法で覚えられるのか!」
これには移転組が力強く頷いた。
普通は試そうとしないよな?
茜ちゃんは娘の家に泊まるそうだ。
実家には義祖父と義父がいるため落ち着かないのか、再会したばかりの姉が心配なのか……。
多分、後者だろう。
響と視線を交わした後で俺も家族と一緒に椎名家を出る。
待ち合わせ場所の居酒屋で生ビールと枝豆を注文。
今朝掛けた魅惑魔法の効果が続いているか確認する心算なのだ。
Lv0から今はLv1に変化している。
習得した魔法は一度使用すればLv1になるけど、Lv2以降は経験値が必要になるんだよなぁ。
攻撃魔法と違い、敵が死亡するという明確な基準がない魔法はどうやって上がるんだ?
響が店に来て俺の正面に座る。
テーブルの上にある生ビールを無言で持ち、2人で喉を潤した。
「響、まだ俺から何か匂いがする?」
「いや? 今は何も匂わない」
ふむふむ。
魅惑魔法Lv0の効果は1日中続く訳じゃないのか。
それならLv1だと、どうなるんだろうな? よし、実験してみよう!
魅惑魔法Lv1を響に掛けると、彼は徐に席を立ちあがり俺の隣へ移動した。
恋人座りかよ! これも一応、魔法の効果なんだろうか?
更に効いているか確かめるため口を開く。
「お前、内緒にしている事とかある?」
「……ある」
あるのかよ!
「それって、俺にも話せない内容?」
「……お前だから話せない」
そりゃ穏やかじゃない。
俺に関する隠し事か? 聞き出せたら魔法の効果が確認出来そうだ。
「それって何?」
「……言えない」
「どうしても?」
「……あぁ」
Lv1じゃ口を割りそうにないな。
今日は諦めるか……。
それから再会した茜ちゃんの話をする間中、響は始終機嫌良く、ずっと俺の顔を見ながら幸せそうに微笑んでいた。
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