沙良ちゃんに剣と槍のどちらの武器がいいか聞かれ、槍と答える。
どちらも使用出来るが、今回は間合いの取れる槍を選んだ。
娘が持っていた短槍を渡してくる。
「あ~、ちょっと俺には短いなぁ。長槍は持ってない?」
そう言うと、賢也君が自分の長槍と交換してくれた。
「じゃあ、最初にLv上げをするのでスライムを突き刺し倒して下さいね」
どこに魔物がいるんだ?
これから魔物が出現する場所へ移動するのか?
「出しますよ!」
彼女の言葉と同時に、突然スライムが3匹出現した。
魔物を見たら問答無用で攻撃するのが身に付いている俺は、条件反射で即座に動き槍を振るう。
やってから、しまったと思ったがもう遅い。
響、フォローは任せた!
「お父さん! 樹おじさんは槍を習っていたの?」
「樹は剣も槍も、そこそこ使えるぞ」
驚いた娘からの疑問に、響が当然のように返事をしていた。
日本でサラリーマンだった俺が、武器を使用出来るのはおかしいだろう。
その返事で大丈夫か?
心配して2人の様子を窺うと、彼女は納得したのかそれ以上質問してこなかった。
きっと、響が先に同じような事をやらかしたに違いない。
二番煎じになった俺は助かったな。
「おじさん。次は猪の魔物だよ、大きいから気を付けてね!」
武器を使用可能だと知り、沙良ちゃんが魔物をスライムからファングボアに変更する。
いきなり魔物が強くなるな……、娘は意外とスパルタなのか?
魔物との距離があったので、槍を投擲し仕留めた。
「次は人型のトカゲです。武器を持っているから注意して下さいね」
槍を持ったリザードマンには接近し、その武器を絡め取り首を切り裂く。
冒険者ギルドで換金する際、魔石を取り出す必要がある魔物もいるらしく、魔石取りの練習もさせられる。
これは正直苦手な作業だ。
その後、3時間。
沙良ちゃんが出す魔物を次々と倒し、現在のLvを聞かれて焦った。
Lv70の俺は何と答えればいい?
フォロー役の響へ視線を移すと、両手を広げ伸びあがるような仕草をしている。
「Lv10になったよ」
響が右手の親指を立てたので、合図を汲んだのは正解だったようだ。
沙良ちゃんがテイムした従魔を紹介すると言い、連れてきたのは5匹の大型魔物で唖然とする。
魔物をテイムするには、こちらが強いと分からせる必要があるし、殺さないよう戦うのは匙加減が難しい。
しかも魔物の種類が違っている。
違う魔物のテイムは、魔物同士が反発するから出来ないと聞いているのに……。
「大型の魔物を5匹もテイムしてるのか!? 娘が強すぎるんだけどっ!」
思わず大声を上げた俺を宥めるためか、
「あぁ……。沙良のテイム方法は、かなり特殊なんだ。ちなみに結花さんも、2匹の魔物をテイムしているぞ」
響が妻も魔物をテイムしていると教えてくれた。
しかしテイム魔法は、そんな簡単に習得出来ない筈なんだが……。
俺は2匹の白梟をテイムした時を思い出す。
あの時は確かポチをテイムするまで、半日以上掛かった。
番のタマはポチがテイムされた後、大人しく受け入れてくれたんだよなぁ。
最初はポチが中々慣れず、何度も嘴で突っつかれたし。
紹介された従魔の様子を見る限り、娘に従順であるみたいだ。
調教も上手くいっているらしい。
ふとポチとタマが気になった。
ガーグ老が生きているなら、権限を譲渡した2匹もまだ元気でいるだろう。
俺よりLvが高いから、主人が変わり強くなっているよな。
新しい魔法を何か覚えているかも知れない。
可愛がっていた2匹の白梟に会えると思うと、気分が高揚した。
シルバーと名付けられた従魔に娘と二人乗りし、更に機嫌が良くなる。
何故か、毛並みがゴールドなのが不思議だった。
今いるのは迷宮都市のようで、王都とはまた違う雰囲気がある。
武器屋に入ると、ドワーフがおらずがっかりした。
やはり武器の性能はドワーフが鍛える物が一番高いのだ。
特に名匠と呼ばれるドワーフの得物は、体に合わせ作ってもらえるから馴染みがいい。
店内に陳列された既製品の武器を見渡し溜息を吐く。
「俺の武器……。響は何を持ってるんだ?」
森の家にある愛剣が手元にないのは寂しいな。
そう思いながら親友に尋ねると、剣を見せてくれた。
あぁ、その剣は!
俺がドワーフの爺さんに頼み込んで注文した響専用の物だ。
ガーグ老が受け取ってくれたのか……。
ちゃんと本人の手に渡ったようで嬉しくなる。
「いい剣だな……」
「あぁ、気に入っている」
その短い言葉で、俺からのプレゼントだと分かっていると気付く。
ありがとうと込められた言外の台詞に、照れ隠しするよう頷いた。
この店で売っている武器なら、どれも一緒だと思いミスリル製の槍を選ぶ。
きっとガーグ老が俺の愛剣を渡してくれるに違いない。
防具屋ではワイバーン製の革鎧を購入。
冒険者の経験がない俺は、防具を身に着ける習慣がない。
加護を与えた精霊が常に周囲を結界で守ってくれるからだが……。
あの王族を守護する額飾りは、何処にあるんだろう?
流石に女官長達は亡くなっているだろうし……。
宝飾品の類は森の家に残ったままかもな。
次はいよいよ、冒険者登録だ!
迷宮都市のギルドマスターは、武を担うハーレイ家が担当している。
さぞかし迷惑を掛けているだろうが済まない。
初めて冒険者ギルドに入ると、中には数人の冒険者がおりカウンターには3人の受付嬢の姿があった。
沙良ちゃんが、その中の1人に声を掛ける。
受付嬢は、にこやかに笑い俺達を別室まで案内してくれた。
その後、ギルドマスターと思わしき人物が部屋に入ってくる。
世代交代したのか、彼女はハーフエルフのようだ。
「新しいパーティーメンバーの冒険者登録とスキップ制度を受けにきました。旭の妹の旦那さんです」
娘にそう紹介され、妻は息子の妹になっている設定を思い出す。
見た目年齢から母親だとは言えず、俺の家族はかなりややこしい関係になっていた。
「結花の夫の樹です。よろしくお願いします」
「……えっ? ユカさんの夫って……」
妻との年の差が気になるのか、彼女は驚き固まっている。
20歳と42歳じゃ仕方ない。
今の俺の姿を見て、ハイエルフの王女だとは気付けないだろう。
ステータス表記も旭 樹となっているしな。
人物鑑定をすれば、その高いステータス値に驚くかも知れないが……。
沙良ちゃんが、渡された登録用紙を記入し冒険者カードを渡される。
偽造防止のための血液を垂らすと、F級冒険者と表記されたカードに喜ぶ。
ずっと憧れていた冒険者に、やっとなれた!
ダンジョンに入るにはC級冒険者の資格が必要らしく、これからダンジョンに入りスキップ制度を受けるそうだ。
ギルドの馬車に乗り込み、ダンジョンへ向かう。
揺れの少ない馬車での移動は快適だった。
この馬車は見た目より、かなり魔道具が使われているな。
絶対、ギルドの馬車じゃないだろう。
王族のために余分な経費を使わせてしまったようだ。
後で王宮の財務官に請求するよう伝えておこう。
ダンジョンへ到着し、中に入るとテンションが上がる。
「これから、ファングボアとリザードマンを見付けて1匹ずつ討伐する様子を見ます。制限時間はありませんので準備が出来次第、移動を開始して下さい」
スキップ制度は、2匹の魔物を討伐する様子を見せたら合格した。
再び冒険者ギルドに戻り、今度はC級の冒険者カードを受け取る。
その際、小声でギルドマスターに馬車の経費は王宮へ請求してくれと伝えると、マジックバッグと冷凍倉庫の賃料も請求していいか返された。
よく分からないが承諾すると、彼女は嬉しそうにし目には涙を滲ませる。
そっ、そんなに経費が掛かっていたのか?
娘は自分の出自を知らないから、冒険者ギルドに大分無理をさせていたようだ。
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!