家具工房の門を開けると、今日も顔中ポーション塗れのガーグ老達が出迎えてくれた。
「こんにちは~」
「サラ……ちゃん、ようきたな。稽古は今週の日曜日だったと思うが……」
「はい、それは変更ないんですけど。実はパーティーメンバーが追加になりまして、4人増える事になったんです。全員素人なんですけど、一緒に教えてもらえませんか?」
「おおそうか! サラ……ちゃんの所は3人だでの。メンバーが増えるのはいい事だ。勿論、連れてくるが良い。してその人物は……」
「私の両親と、旭のお……妹2人です」
いけない、ついお母さんという所だった。
見た目年齢が逆になっているから、妹と紹介する事にしていたのに。
「サラ……ちゃんの、ご両親とは……。まだ生きていなさったか……」
?
両親が亡くなったなんて、一言も話した覚えはないんだけど……。
「はい、父も母も元気ですよ?」
「あい分かった。儂も御両親に挨拶せねばなるまいて」
「そういえば息子さん達のお嫁さんには、もう会われましたか?」
「いや、先週は稽古が休みだったからの。息子達はこんかったわ。儂もまだ嫁御に会ってはおらんよ。一体、誰を連れてくる心算なのか……」
ガーグ老は何故かそこで、遠い目をしながら押し黙ってしまった。
突然増えた息子に嫁、急に家族が増えたので色々と思う所があるんだろう。
「あぁそれと、うちの兄と旭が先週結婚したんです! 一応報告しておきますね」
毎週稽古でお世話になっている人達に、結婚の報告をしない訳にはいかない。
兄達の結婚を聞いたご老人達が、一瞬身動きしたような気がしたけど……。
「ふ……ふむ。それは……なんというか、目出度な……」
「もう2人とも、ぐずぐずと迷っていたから私がくっつけちゃいました!」
「そっ……そうか。2人とも……自分達の結婚とは驚いたであろうな……。『ポチ』、『タマ』いつまでサラ……ちゃんの肩に乗っておる。そろそろ離れぬか」
「あっ、さっきから2匹が匂いをやたら嗅ぐんですよ~。私、そんなに臭ってます?」
テイムした本人なら、謎な行動の意味が分かるかもと思い尋ねてみた。
「匂いを嗅いでおる? 魔力の強い者と一緒におったかの?」
「先程まで一緒にいたのは、兄と旭と両親だけですよ?」
「お兄さんとアサヒ君が一緒におらんで、不思議に思ったのだろう」
「そうなんですかね……。じゃあ、日曜日よろしくお願いします」
「あぁ、待っておるぞ」
4人に稽古を付けてもらえる約束をし、私は工房を後にした。
再びホームの自宅に戻り、雫ちゃんとお母さんが帰ってきているか室内をマッピングで覗いてみる。
2人は今日の戦利品をテーブルの上に広げ、楽しそうにしていた。
上下御揃いの下着に、山のような生理用品。
ちょっと勝負下着に見える方は、お母さんの物だろうか……。
雫ちゃんの方はパステルカラーの可愛らしい物のようだ。
早く旭のお父さんを召喚してあげた方がよさそうね。
また、香織ちゃんと同い年の子供が産まれそう。
2人が帰ってきている事が分かったので、家から出て呼び鈴を鳴らす。
私の姿をモニター越しに確認した雫ちゃんが、玄関の扉を開け入れてくれた。
室内に入ると、既にテーブルの上は何もない状態になっている。
客の前で見せる品物じゃないから、お母さんがアイテムBOXに収納したんだろう。
「沙良ちゃん、いらっしゃい。ここは天国ね~。今日は雫と一緒に沢山買物してきたのよ」
「欲しい物が買えてよかったです。持っている異世界の金貨を、いつでも父に換金してもらって下さいね」
「日本円に換金出来るなんて嬉しい。今度お願いするわ。あっ、いまからお茶にするけど何がいいかしら?」
「紅茶でお願いします。ケーキは私が出しますね」
そう言って私はアイテムBOXから、ホテルのケーキバイキングで大量にゲットし更に×365をしたケーキを1種類ずつ大皿に出した。
「まぁ、こんなに沢山!」
「お母さん、ケーキなんて食べるの久し振りだよ! 沙良お姉ちゃん、ありがとう!」
「残った物はアイテムBOXに収納して下さいね」
2人は大量のケーキを前に目をキラキラさせている。
これからはホーム内で購入出来ると思うけど、このケーキはパティシエが作った物なので美味しいと思う。
早速雫ちゃんが、ケーキ皿に3種類のケーキを載せている。
選んだのは、モンブラン・ミルクレープ・苺タルトだった。
お母さんの方は、チョコレートケーキとモンブラン。
旭家はモンブランが好きなようだ。
私は夕食もあるので今日はパンナコッタにした。
紅茶を飲みながら、2人にステータスを聞いてみる。
アリサ・フィンレイ 20歳
レベル 26
HP 1,971
MP 1,971
魔法 時空魔法(アイテムBOX)
魔法 光魔法(ヒールLv6・ホーリーLv6・ライトボールLv10)
サリナ 20歳
レベル 26
HP 324
MP 324
剣術 Lv9
2人ともLvは26。
王都のダンジョンでは、地下10階を拠点にしていたみたいなのでそんなものだろう。
旭のお母さんは亡くなった年齢が70歳だ。
この世界にきてから3年経った後にLvを上げたので、基礎値が73と高くMPもHPもかなり多い。
雫ちゃんの方は残念ながら12歳でLvを上げたので、基礎値が12とMPとHPが少なかった。
その代わりに剣術Lvが9もあり驚く。
予想通り2人とも属性魔法は覚えていない。
私達は来週から地下15階へと拠点を移すので、Lv26では属性魔法が使用出来ないと少し難しいかも知れない。
「確か、王都の魔術学校に通っていたんですよね? この世界の人は、どうやって魔法を習得するんですか?」
私は旭のお母さんが、主人公として魔術学校に通っていた事を思い出し聞いてみた。
「簡単に言うなら魔術書を覚えるのよ。雫、見せてあげて」
雫ちゃんが席を立ち、マジックバッグから魔術書を取り出し持ってきた。
見せてもらうと羊皮紙に魔法陣のようなものが描いてあり、その下には異世界の文字で呪文が書かれている。
試しに呪文を口に出してみた。
「燃え盛る炎よ、我の願いを聞き敵を撃て。ライトボール」
するとピンポン玉くらいの大きさの火の玉が現れた。
これは、私が既にライトボールの習得をしているから行使出来たのか……。
「何で出来るの!?」
「う~ん。この呪文で発現したかどうか、ちょっと分からないです。私はもう覚えているから、ライトボールと言っただけでも出来ちゃうし……」
「私達は何度呪文を唱えてみても駄目だったのよ? その所為で、王子様の婚約者になれなかったわ」
「えっ!? 本気で王子様と結婚する心算だったんですか?」
「だって、この世界に雫や尚人がいるなんて知らなかったんですもの。第二の人生を謳歌してもいいでしょ? まぁ、私好みのキャラじゃないんだけど……。悪役令嬢が出てこない時点で、王子様との結婚は綺麗さっぱり諦めたわよ。夫を召喚してくれるなら、また夫婦に戻れるしね」
初耳だったのか、雫ちゃんが唖然としている。
母親から、違う相手と再婚を考えていたと聞かされショックを受けたみたい。
まぁ異世界に1人だと思えば、そう考えたとしてもおかしくはないか……。
サヨさんだって、この世界の人と再婚し子供も孫もいるしね。
あっ、まだ母は知らないかも?
それとも昨夜、サヨさんから話を聞いているかしら?
「それなら沙良ちゃん達は、どうやって魔法を覚えたの?」
「私達は、魔物から魔法を体で受けて覚えました」
「「何それっ!? チート過ぎる!!」」
再び揃った2人の言葉に、私は笑ってしまったのだった。
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!