ガーグ老の合図で稽古が終了し、沙良ちゃんが雫と昼食の準備を始める。
俺は、どうにも魅惑魔法の効果が思ったように出ないのが気になり、いい機会だから他の人にも掛けてみようと考えていた。
女性陣は全員身内だし、ここは一番問題なさそうなゼンにしよう。
少し離れた場所で工房の庭全体を警戒していたゼンに近付き、魅惑魔法を掛けてみる。
「姫様。御戯れを……」
すると彼は顔を赤く染め、俺から視線を逸らし口に手を当て顔を背けた。
響と違い、こちらは魅惑魔法を掛けられたと気付いているようにみえる。
個人によって効果に違いがあるのか?
それとも王族を護衛する影衆達は、あらゆる魔法に耐性を持っているんだろうか……。
「ゼン。どうかしましたか?」
「姫様。その……魔法で私を誘惑するのは、何か意図があっての事でしょうか? 王族に対し忠誠を誓う私を試しておられるのでしたら、期待に応えるのは無理かと……」
あぁ、やっぱりバレてるんだな。
そして意識も、はっきりしているらしい。
どうやら人選を誤ったみたいだ。
「ごめんなさいね。ちょっと魔法の効果を試してみたかったの。特に意味はないから忘れて下さい」
「はい。他の者には使用しない方がよろしいかと存じます」
ゼンには効果がなかったが、魔法Lvを上げるのは相手に掛けるしか方法がない。
影衆達に掛けても意味がないという忠告だろう。
返事はせず手をひらひらと振り、その場を離れた。
それからガーグ老と響を呼んで工房内に入る。
「ガーグ老。言い忘れていたけど、お母様が国を出てから行方が分からないみたいなの。もしかしたら、私の生存を聞いてカルドサリ王国へ来る可能性があるわ。もし、見付けたら連絡を下さい」
「なんとっ! 王妃様が、また国を出ておられるのか? あの方は王と結婚されても、相変わらず単独行動を止めぬで困るの。姫様に会う心算なら、既に到着していそうなものだが……」
ドラゴンの風太に乗り移動すれば、別大陸にあるエルフの国からカルドサリ王国まで1日の距離だ。
ガーグ老と再会してから3週間は過ぎている。
俺に会いに来るには、少し時間が掛かり過ぎているよなぁ。
「既にカルドサリ王国に到着し、魔道具で姿を変えている可能性はないか?」
響が若干顔色を悪くして、王妃の行動を予想し口にする。
まぁ可能性として否定はしないが、その線はない。
「それよりティーナの話を聞き、アシュカナ帝国に行く可能性の方が高いんじゃないかしら?」
娘が生きている連絡を受けたならガーグ老達が護衛に就くと安心し、別の問題を解決しに向かったかも知れない。
「王妃様のなさりそうな事だわ。無茶をせんといいがの」
「お母様は王妃なのに、身軽でいらっしゃるから困りますね」
そう言うと、ガーグ老と響が俺を見て大きな溜息を吐いた。
なんか感じ悪いなぁ。
「王妃様の件は承知した。姫様も勝手な行動はせんでくれると助かる」
「娘がいるから離れるような真似はしないわ」
ガーグ老に気付かれないよう笑顔で返す。
結婚式のあと、アシュカナ帝国へ乗り込む気でいるのは内緒にしておかないと。
工房から出ると、昼食を三男役が配膳しているところだった。
嫁役の『万象』2人は動かず、恐妻家だと思われてそうだ。
「お待たせしました。皆さん、今日もありがとうございます。お昼のメニューは、『チーズバーガー』・『ナゲット』・『フライドポテト』です。それでは頂きましょう」
「頂きます!」
娘の挨拶で昼食が始まる。
メニューを見て響が嬉しそうな表情をしていた。
「おおっ! これが姫様の食べたがっておった『ハンバーガー』とやらだな」
ガーグ老が料理名を聞き、俺の言った話を思い出したらしい。
「姫様! 美味しいですぞ! 付け合わせの『フライドポテト』にもよく合いますな。『ナゲット』も、このソースに付けて食べると旨い!」
チーズバーカーに齧り付きながら、感想を伝えてきた。
「ガーグ老、『チーズバーガー』も旨いが『テリヤキバーガー』も捨てがたい! 今度、娘に作ってもらおう」
俺はつい、姫様と言われた事を忘れ答えてしまう。
「そうですか! サラ……ちゃん、作ってくれるかの?」
「ええ、いいですよ」
娘に変に思われるかもと心配したが、普通に返事をしていたから問題なさそうだな。
妖精さんのお供え用に結花がホットケーキを焼いていたので、今日は誰も木から落ちなかった。
食後、娘が迎えに来るまでガーグ老達と将棋を指しホームへ戻る。
何か話があるようで響の家に集まった。
夕食を沙良ちゃん達と食べられると知った雫が、美佐子さんから料理を教わりにいく。
先日食べた中華が美味しかったのか、自分でも作りたくなったみたいだ。
その調子で、どんどん料理を覚えてくれ。
中華が揃っているのに、どうして今回も鰻の蒲焼と肝焼きが俺だけ出されてるんだ?
箸を付けないでいたら、息子が隣から食べようとし妻から怒られている。
結花が御飯の上へ蒲焼を載せてきたので、食べない訳にはいかなくなった。
俺は響に若返った反動で、あるアイテムのお世話になった話を聞いていたから、賢也君へ目配せを送る。
相手のいない彼は持っているだろう。
俺の視線に気付き軽く頷いてくれたから、後で忘れず貰わないと大変な目に遭いそうだ。
観念して鰻の蒲焼を食べる。
味は文句なく美味しいんだよ! 精力剤の効果さえなければ……。
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