若い兄達2人には迷宮ウナギの効果はなかったけど、36歳若返ったとはいえ42歳の父には効く筈だ。
『製麺店』の最年長であるバスクさんでさえ、実感したそうだからね。
これは非常に不味い気がする。
父は普通の鰻を食べたと思っているから、効能の事は知らない。
体が若返った事で、多少元気にはなるかもと思ってくれるだろうけど。
問題は、多少どころではないその効能の方。
私は兄を手招きし、小声でそっと囁いた。
「お兄ちゃん。部屋にあった卵型のインテリアなんだけど……。お父さんに2・3個、渡してくれないかな?」
「沙良……。それは、どういう意味だ?」
「言うの忘れてたんだけど、実は香織ちゃん、『手紙の人』が生まれ変わらせてくれるらしいの。それで、お兄ちゃん達には効果がなかったんだけど……。迷宮ウナギを食べると、精力剤と同じ効果があるんだよね。早く頑張ってもらいたくて今日お父さんに沢山食べさせたら、お母さんと一緒に寝ないみたいで……。多分、今夜は大変だと思う」
「はぁ~。お前のその用意周到さには呆れるよ。理由は分かったから、俺の方で渡しておく」
「ありがとう。お母さん達には1階の客間で一緒に寝てもらう事にするから、後はよろしくね~」
よし!
これで対策もバッチリだ!
先に雫ちゃんと旭のお母さんを家まで送り、私は客間に2人分の布団を敷いておく。
アイテムBOX内にあるのは全て新品の状態だから、急な来客にも直ぐに対応出来て非常に便利だ。
父は兄と一緒に2階の寝室にいったので、問題も解決するだろう。
父が鰻を嫌いになったりしないよう、次回は気を付けないと……。
翌日木曜日。
今日は両親の冒険者登録をしに冒険者ギルドに行く予定だ。
雫ちゃんと旭のお母さんは、ホーム内で買い物をする心算らしい。
昨日、旭が換金した100万円を渡していたからね。
朝食は、実家で母が作った料理を久し振りに食べる事になった。
昨日、冷蔵庫に食材を忘れず入れて良かったよ。
サヨさんは母の料理を嬉しそうに食べていた。
昨夜2人は、どんな話をしたのかな?
父は兄の顔を見るなり親指を立てていたから、渡された卵型のお世話になったらしい。
こちらも問題なかったようで安心する。
まずは異世界の服が必要なので、私だけ先に移転しお店で2人のサイズを選んで購入。
着替えてもらった後で、兄と旭とサヨさんを連れて異世界へ。
迷宮都市で購入した家の庭先に移転すると、ここが私達の家だと紹介する。
「沙良……。なんだか要塞じみている家だな。この高い塀は何だ?」
父が高さ10mもある塀を見ながら疑問を口に出した。
「あ~、それね。注文した覚えはないんだけど、商業ギルドの人がオプションで付けてくれたの。ここには子供達が沢山集まるから、防音対策らしいよ。あっ私、子供達の支援をしているからまた後で詳しく話すね!」
門の魔石に3人の血液を登録し、家から出て華蘭まで歩き出す。
母は異世界の街並みに興味津々なのか、視線をあちこち動かしていた。
父は物価が気になるみたいで、露店の値段を確認しているようだ。
あれ?
私、通貨の単位をまだ教えていなかった気がする。
あぁ、でも父には鑑定があるから価格を見る事が出来るのか……。
特殊魔法は、時空魔法と同じでMPは必要なさそうだし。
華蘭でサヨさんと別れ、5人で冒険者ギルドへ。
ギルド内に入り、いつもの受付嬢に2人の冒険者登録をしたいと申し出る。
すると受付嬢は父を見るなり表情を変えて、何故か別室に案内された。
おかしいな、冒険者登録は受付の場所でする筈なのに……。
2人は冒険者登録をするには年齢が高いから、特別扱いになるのかしら?
受付嬢は、ギルドマスターのオリビアさんを呼んできますと言い退出してしまった。
どうして冒険者登録にギルドマスターの立ち合いが必要なの?
迷宮都市では、オリビアさんが登録に立ち会っているんだろうか……。
疑問に思いつつ、彼女がくるまで時間があるので両親にステータスの確認をしてもらう事にした。
といっても2人はまだLv0なので、ステータス表記もかなりシンプルなものだろう。
「へえ~、こんな風に見えるのね。MPとHPは78になっているけど、これは年齢?」
早速ステータスを確認した母が楽しそうな声を出す。
「そうだよ。Lvが上がる度に78ずつ増えていく仕様になっているから、2人はかなりお得だね! お父さんも確認出来た?」
「あっ、あぁ……。俺の方も、MPとHPが78だったよ……」
父はなんだか微妙な顔をしていた。
78もあるのに少ないと思っているのかなぁ。
5分程すると、オリビアさんがノックをしてから部屋に入ってきた。
「サラさん、2人の冒険者登録が必要だと言われてきたんだけど……」
そこでオリビアさんの言葉は途切れ、驚いた表情に変わる。
やっぱり、冒険者登録するには両親の年齢が高すぎるのか……。
普通は10歳からだもんね~。
でも登録に年齢の上限はなかった筈だから、大丈夫だろう。
「あのっ……。本当に冒険者をされるんですか?」
「はい、これから一緒にパーティーを組むんです。あと他に2人いますが、その2人は既に冒険者なので……。暫くしたら、C級冒険者へのスキップ制度も利用させて頂きますね」
「……分かりました。では登録用紙に記入して下さい」
私は両親の代わりに2枚の登録用紙を記入して、オリビアさんに手渡した。
代わりに冒険者ギルドカードを受け取る。
両親の血液を兄に採取してもらい、カードに垂らした後で返却する。
器械に通されたカードを再び受け取り、両親にそれぞれ渡してあげた。
これで冒険者登録は終了……じゃない、登録料の銀貨1枚(1万円)を払い忘れる所だった。
オリビアさんに、銀貨2枚(2万円)を支払うと不思議そうな顔をされてしまう。
いやいや、登録料もギルドの大切な収入ですよね?
絶対、いつも冒険者登録の作業はしてないな……。
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