【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第793話 エンハルト王国 アマンダさんからの依頼 9 源泉へ&水の精霊王

公開日時: 2024年5月21日(火) 12:06
更新日時: 2024年9月12日(木) 13:34
文字数:2,288

「この先にある源泉へ向かいましょう」


 人の姿になった青龍が口を開き、私達を先導した。

 本体の竜では大き過ぎて、続く道を通れなかったらしい。

 10分程歩くと、湧き水が出る泉がある場所へ辿たどり着く。


「あぁ、確かに水位が下がってますね」


 青龍が片手を泉へ浸し、何かをしているように見える。

 泉の水質を確認しているのかな?

 やがて泉の中に大きなうろこが表れた。

 どんな不思議か、鱗は泉の中で溶けだし消えていく。

 

「これでもう大丈夫です」


 泉を見ると、湧き水の量が先程とは明らかに違っていた。

 こぽこぽと音が聞こえるくらいあふれている。

 源泉と言っていたので、ここから国中へ水が流れ出すんだろう。

 新鮮な水が豊富に湧き出る泉かぁ……。

 ちょっと興味が出るよね?


「ここには、水の精霊もいます?」


「いると思いますよ、呼び出しますか?」


 青龍は悪戯いたずらっぽく笑う。


「ええっと、ちょっと実験を……」


 そう定番のアレ、金の斧銀の斧を試してみたい!

 私はアイテムBOXから(偽)ターンラカネリの槍を取り出して、泉へ落とした。

 水の精霊が出てくるのを、ワクワクしながら待つ。


「沙良? 何をしてるんだ?」


「水の精霊が落としたのは、どっちの槍か聞いてくるのを待ってるの」


 私の返事を聞いた兄は、大きな溜息を吐いてがっくりと頭を下げた。


「あれは童話だ。水の精霊だって暇じゃない、いちいち落とし物を拾ってくれないと思うぞ?」


「そうかな? 綺麗な精霊に会ってみたかったんだけど……」


「あ~、お願いすれば出てきてくれるかも知れませんね」


 いつきおじさんが、私の手元をちらちらと見ながら口にする。

 

「また精霊王に無茶振りを……」


 そう言いながらセイさんは苦笑していた。 

 精霊王?

 すると泉の中央がふくれ上がり、中からとても美しい女性が表れた。

 おおっ! 登場の仕方もってるな!

 ガーグ老達が作製してくれた、天蓋てんがい付きベッドの柱に描かれていた女性に似ている。

 彼女が水の精霊王なのかしら?

 

『え~と……コホン。貴女の落としたのは、この(偽)ターンラカネリの槍ですか? それとも、黄金水晶の槍ですか?』 


 2本の槍を手に持った女性が尋ねてきたけど、私は何と言っているのか分からない。

 意志を伝えるため、右手に持っている(偽)ターンラカネリの槍を指してみた。


『正直で大変よろしい。そんな貴女には、黄金水晶の槍をあげましょう! って、これで合ってるのかしら?』


『小さな巫女姫の遊びに付き合うのも大変ですね。多分、それでいいと思いますよ』


『この子は、水の精霊を何と勘違いしてるの?』


『さぁ? 何か良い物をくれると思っているのでしょう』


『困った子ね。泉を見つける度に、何か用意しないといけないわ』


 青龍と水の精霊王が知らない言語で会話している。

 私は正直に答えたので、きっともう一つの槍が貰えると思い大人しく待った。

 兄達には精霊王の姿が見えないから、突然水がき出て空中に2本の槍が浮いていると思ってるだろう。

 水の精霊王が私に近付き、黄金の水晶で出来た槍を差し出した。

 私はそれを受け取り、大きな声でお礼を伝える。


「水の精霊王様。ありがとうございます!」


『その槍を水に浸せば、泥水でも飲料可能な水になります。また、持っていれば貴女を水の精霊達が守ってくれるでしょう』


「その槍を水に浸せば、どんな水でも飲めるようになるそうです。槍を持っている間は、水の精霊達が守護してくれるようですね」


 水の精霊王の言葉を青龍が翻訳ほんやくしてくれた。

 武器として使用するより、守りがメインの槍らしい。

 水に関してはウォーターボールで出せるし、アイテムBOX内に天然水が入っているから、使用する機会はなさそうだけど……。

 この世界の物で言えば、かなり価値がある槍だ。

 うふふっ、試してみて良かった~。

 (偽)ターンラカネリの槍は沢山あるから、また泉を見付けたら良い品と交換してもらおう!

 ホクホク顔をしていると、水の精霊王は泉の中へ静かに消えた。


「お兄ちゃん! 見て見て~、ちゃんと落とした槍を拾ってくれたよ? それに間違えず答えたら、良い槍になった!」


「水の精霊がいるのか……。精霊がくれた槍だ、大切にしろよ」


「うん! 次は何をくれるか楽しみだね~」


「泉を見付ける度に投げ入れたら、水の精霊も困ってしまうわ。怒らせないよう程々にしておくのよ」


 樹おじさんの言葉に、セイさんと青龍がうんうんと同意する。


「は~い!」


 何度も拾ってもらうのは相手に悪い。

 1年に一度くらいなら良いかしら?


「では、戻ろう」


 エンハルト王国の依頼は、これで達成出来たようだ。

 来た道を引き返し青龍がいた場所まで戻ってくる。


玄武げんぶは元気にしてるでしょうか? 私は、この場所を離れられません。友達に会いたいですね……」


 エンハルト王国を守護している青龍は、契約上の問題で国を移動出来ないらしい。

 いつも遊びに来てくれる友達と会えず寂しそうだった。

 兄達がいる前で玄武に会った事は言えないので、私は従魔達へ話す時のように心の中で青龍へ伝える。


『玄武は目が見えなくなっていたの。私が治療したら、見えるようになったと喜んでいました。でももう直ぐ寿命が尽きると……。私が会えるよう運んできます』


『小さな巫女姫。玄武の目を治して下さり感謝します。玄武を運ぶのは難しいでしょうから、人の姿に変態してもらって下さい』


 私はアイテムBOXに収納して運ぶ心算つもりだったけど、人の姿へ変態出来るのか……。

 

『分かりました。今度は寝すぎないよう注意して下さいね』

  

 青龍が長期間寝ると、また源泉の湧き水の量が減ってしまう。


『ええ、目覚めたので大丈夫です』


 依頼達成の報告をするため、私達は従魔に騎乗し開けた扉まで戻り、また全員で扉へ両手を押し付けた。

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