「この先にある源泉へ向かいましょう」
人の姿になった青龍が口を開き、私達を先導した。
本体の竜では大き過ぎて、続く道を通れなかったらしい。
10分程歩くと、湧き水が出る泉がある場所へ辿り着く。
「あぁ、確かに水位が下がってますね」
青龍が片手を泉へ浸し、何かをしているように見える。
泉の水質を確認しているのかな?
やがて泉の中に大きな鱗が表れた。
どんな不思議か、鱗は泉の中で溶けだし消えていく。
「これでもう大丈夫です」
泉を見ると、湧き水の量が先程とは明らかに違っていた。
こぽこぽと音が聞こえるくらい溢れている。
源泉と言っていたので、ここから国中へ水が流れ出すんだろう。
新鮮な水が豊富に湧き出る泉かぁ……。
ちょっと興味が出るよね?
「ここには、水の精霊もいます?」
「いると思いますよ、呼び出しますか?」
青龍は悪戯っぽく笑う。
「ええっと、ちょっと実験を……」
そう定番のアレ、金の斧銀の斧を試してみたい!
私はアイテムBOXから(偽)ターンラカネリの槍を取り出して、泉へ落とした。
水の精霊が出てくるのを、ワクワクしながら待つ。
「沙良? 何をしてるんだ?」
「水の精霊が落としたのは、どっちの槍か聞いてくるのを待ってるの」
私の返事を聞いた兄は、大きな溜息を吐いてがっくりと頭を下げた。
「あれは童話だ。水の精霊だって暇じゃない、いちいち落とし物を拾ってくれないと思うぞ?」
「そうかな? 綺麗な精霊に会ってみたかったんだけど……」
「あ~、お願いすれば出てきてくれるかも知れませんね」
樹おじさんが、私の手元をちらちらと見ながら口にする。
「また精霊王に無茶振りを……」
そう言いながらセイさんは苦笑していた。
精霊王?
すると泉の中央が膨れ上がり、中からとても美しい女性が表れた。
おおっ! 登場の仕方も凝ってるな!
ガーグ老達が作製してくれた、天蓋付きベッドの柱に描かれていた女性に似ている。
彼女が水の精霊王なのかしら?
『え~と……コホン。貴女の落としたのは、この(偽)ターンラカネリの槍ですか? それとも、黄金水晶の槍ですか?』
2本の槍を手に持った女性が尋ねてきたけど、私は何と言っているのか分からない。
意志を伝えるため、右手に持っている(偽)ターンラカネリの槍を指してみた。
『正直で大変よろしい。そんな貴女には、黄金水晶の槍をあげましょう! って、これで合ってるのかしら?』
『小さな巫女姫の遊びに付き合うのも大変ですね。多分、それでいいと思いますよ』
『この子は、水の精霊を何と勘違いしてるの?』
『さぁ? 何か良い物をくれると思っているのでしょう』
『困った子ね。泉を見つける度に、何か用意しないといけないわ』
青龍と水の精霊王が知らない言語で会話している。
私は正直に答えたので、きっともう一つの槍が貰えると思い大人しく待った。
兄達には精霊王の姿が見えないから、突然水が噴き出て空中に2本の槍が浮いていると思ってるだろう。
水の精霊王が私に近付き、黄金の水晶で出来た槍を差し出した。
私はそれを受け取り、大きな声でお礼を伝える。
「水の精霊王様。ありがとうございます!」
『その槍を水に浸せば、泥水でも飲料可能な水になります。また、持っていれば貴女を水の精霊達が守ってくれるでしょう』
「その槍を水に浸せば、どんな水でも飲めるようになるそうです。槍を持っている間は、水の精霊達が守護してくれるようですね」
水の精霊王の言葉を青龍が翻訳してくれた。
武器として使用するより、守りがメインの槍らしい。
水に関してはウォーターボールで出せるし、アイテムBOX内に天然水が入っているから、使用する機会はなさそうだけど……。
この世界の物で言えば、かなり価値がある槍だ。
うふふっ、試してみて良かった~。
(偽)ターンラカネリの槍は沢山あるから、また泉を見付けたら良い品と交換してもらおう!
ホクホク顔をしていると、水の精霊王は泉の中へ静かに消えた。
「お兄ちゃん! 見て見て~、ちゃんと落とした槍を拾ってくれたよ? それに間違えず答えたら、良い槍になった!」
「水の精霊がいるのか……。精霊がくれた槍だ、大切にしろよ」
「うん! 次は何をくれるか楽しみだね~」
「泉を見付ける度に投げ入れたら、水の精霊も困ってしまうわ。怒らせないよう程々にしておくのよ」
樹おじさんの言葉に、セイさんと青龍がうんうんと同意する。
「は~い!」
何度も拾ってもらうのは相手に悪い。
1年に一度くらいなら良いかしら?
「では、戻ろう」
エンハルト王国の依頼は、これで達成出来たようだ。
来た道を引き返し青龍がいた場所まで戻ってくる。
「玄武は元気にしてるでしょうか? 私は、この場所を離れられません。友達に会いたいですね……」
エンハルト王国を守護している青龍は、契約上の問題で国を移動出来ないらしい。
いつも遊びに来てくれる友達と会えず寂しそうだった。
兄達がいる前で玄武に会った事は言えないので、私は従魔達へ話す時のように心の中で青龍へ伝える。
『玄武は目が見えなくなっていたの。私が治療したら、見えるようになったと喜んでいました。でももう直ぐ寿命が尽きると……。私が会えるよう運んできます』
『小さな巫女姫。玄武の目を治して下さり感謝します。玄武を運ぶのは難しいでしょうから、人の姿に変態してもらって下さい』
私はアイテムBOXに収納して運ぶ心算だったけど、人の姿へ変態出来るのか……。
『分かりました。今度は寝すぎないよう注意して下さいね』
青龍が長期間寝ると、また源泉の湧き水の量が減ってしまう。
『ええ、目覚めたので大丈夫です』
依頼達成の報告をするため、私達は従魔に騎乗し開けた扉まで戻り、また全員で扉へ両手を押し付けた。
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