依頼を受けたのが2週間前なら、巫女が青龍の声を聞けなくなった時期と異なる。
青龍に関しては、また別の要因がありそうだ。
少なくともアマンダさんが冒険者活動を始めた時期には、もう聞こえなくなっていた筈。
「依頼したのはアシュカナ帝国の人間か?」
「……外見的特徴を見た限り間違いない」
まぁ、依頼者も態々出身国を言わないだろう。
帝国人は特徴的な姿をしているから、分かり易いけど……。
「お前の任務内容は?」
「……青龍の守護をなくす事だ」
「どうやって?」
「……巫女に成り代わった俺が、青龍との契約を破棄すればいい」
「巫女の資格を、お前が持っているとは思えないな。青龍は簡単に騙されないぞ?」
「……契約の破棄は、青龍を殺せば成り立つ」
不穏な内容に、聞いていた女王が殺気立った。
「いや無理だろ。こいつは弱すぎる。依頼者は、巫女と成り代わるのに重点を置いていたんじゃないか? 青龍と契約の破棄は出来ないと分かってて、口封じを兼ねていたかもな」
樹おじさんが、依頼内容をそう推測する。
確かに目の前の魔族が青龍を殺せるとは思えない。
「茜ちゃんは、聞き出すのが上手いなぁ。少し、俺も試してみよう」
魔法を使用したと気付いたのか、樹おじさんが魅惑魔法を試すと言う。
「お前の位は?」
「くそっ……言いたくないのに……。貴女が欲しい。好きで堪らない!」
……。
質問とは違う答えが返ってきた。
魔族の青年は、頬を高揚させ目を潤ませている。
何が起きているの?
「いや、そうじゃねぇ。位を聞いてるだろうが!」
「今直ぐ貴女を抱きたい!」
そう言いながら青年が、樹おじさんの手を掴み抱き寄せキスしようとした寸前、ガーグ老が割って入る。
「姫様。ヒビキ殿に、魅惑魔法は使用せんよう言われておらんかったかの」
「あ~そうなんだけど、やっぱり駄目か……」
「姫様は魅惑と誘惑を混同されているようだわ」
ガーグ老が、やれやれといったように首を振り魔族の意識を失わせた。
欲しい情報は茜が聞き出したので、問題ないだろう。
「王女様、敵の正体を暴いて下さりありがとうございます。我が国も対策する必要がありそうですね。少し休憩に致しましょう。客室へ、ご案内します」
女王が事前に用意した部屋へ向かい、1時間の休憩となった。
護衛達と女官長達の部屋は別に用意されているらしく、樹おじさんと私の部屋へ兄・茜・セイさんが集まる。
一旦、ホームに帰ろう。
樹おじさんがガーグ老へ扉の外で待つようお願いしてくれたから、その間に皆がトイレを済ませた。
「魔族が巫女に成り代わってるなんて予想外だよ。しかもアシュカナ帝国が関係してるなんて……」
「青龍の巫女は攫われてるしな。思ったより、エンハルト王国の内情は悪いみたいだ」
私の言葉に兄が続く。
「アシュカナ帝国は教会だけじゃなく、魔族とも繋がっているのかな?」
「多分、依頼をしただけでしょう。魔族は悪魔に近い存在なので、確実に願いを叶えるためには打って付けの存在です」
疑問を口にすると、セイさんが答えてくれた。
「悪魔? 願い事と引き換えに魂を差し出すの?」
「この場合、対価となるのは魔力ですね。ステータス値の魔力を奪われるので、普通は魔族に依頼しないんですが……」
「それは一晩経っても回復しないという意味?」
「MP100の人がMP60を契約に使用すれば、その人のステータス値はMP40に変化します」
それは、非常にリスクを伴う依頼方法だ。
一度減ったMP値はLvを上げる事でしか増えない。
「魔族への依頼は、誰にでも出来るの?」
「召喚陣がなければ呼び出せません。知っている者は少ないでしょう」
セイさんは、異世界生活が長いから知っているんだろうか?
MPを対価に望みを叶えるなら、国と繋がっている訳じゃなさそう。
契約者が誰であっても魔族は取引しそうだし……。
「樹おじさんが確認しようとしていた位って何?」
「魔族にも階級があり、位の高さで強さも変わります。貴族と同じように、爵位を持っているんですよ。魔王が一番強いと思えば間違いありません。今回の魔族は子爵か男爵位ですね」
いるんだ……魔王。
勇者はどこに?
「あっ、樹おじさん。ヒルダさんのフリを忘れてるよ? 王女様らしく話さないと!」
「あぁヤバいっ! 女官長に叱られる……」
演技が上手く出来なくても、怒られたりはしないと思うけど……。
ただ王女が男性のように話すのは駄目だろう。
もう散々聞かれてしまったから、女王とヴィクターさんは文献の情報が正しいと確信してるかも?
10分ほどでホームから客室へ戻り、ガーグ老達と女官長達を部屋に入れる。
用意された客室は貴賓室なのか30畳くらいの広さがあった。
2部屋の寝室と大きなリビングの造りになっている。
待っている間、女官長が香り高い紅茶を淹れてくれた。
私と樹おじさんだけは、高そうな茶器で出される。
異世界では、かなり品質の良い紅茶なんだろう。
甘い物が食べたかったけど、ここでケーキを出すのは拙いだろうなぁ。
ロイヤルミルクティーが飲みたかったと思いつつ、ストレートティーを飲み干した。
「イツキ殿。少々、言葉遣いが乱れていましたよ。お気を付け下さい」
飲み終わると同時に、おじさんが女官長から注意されていた。
「すみません。今後は気を付けます」
樹おじさんは、殊勝な態度で女官長の言葉を受け止める。
今更のような気がしなくもないけど、王女らしくした方がいいよね。
「青龍の声が聞こえなくなった件と魔族は関係なさそうだけど、何があったと思う?」
「巫女から話を聞きたかったが、いないと原因を探るのが難しいかもな」
兄は、そう言って考え込む。
「巫女が資格を失ったと考えたら辻褄が合うんじゃないか?」
「巫女なのに、資格を失うような行為をするかしら? もし自覚があるなら、代替わりしてそうなものだけど……」
「本人に記憶がなければ、資格を失ったと気付かないかも知れない」
兄の飛躍した予想に樹おじさんが小さく呟く。
「かなり痛いのに、覚えてないなんてあるのか?」
まるで体験したかのような台詞だ。
まぁ、初体験を忘れる女性はいないだろうな。
しかし、それが作為的なものなら意識がないままというのも考えられる。
国から守護を奪い、弱体化させようと以前から画策していたならどうだろう?
ダンジョンに呪具を設置し、噂を流して犯罪者を送り込むような手を使う相手だ。
しないとも言い切れない。
その場合、巫女の資格を失った彼女を攫ったのに矛盾が生じるけど……。
「単純に青竜王が寝ているだけかもしれませんよ?」
兄との会話を聞き、セイさんが苦笑しながら言った言葉に茜が笑う。
「それなら一発で起きる方法を考えよう!」
そんな単純な話じゃないと思うよ!
なのに、樹おじさんまで青龍が目を覚ます方法を考え出した。
「雌竜を連れてくるか?」
「発情期じゃなければ意味がないと思います」
セイさんが真面目に答えている。
発情期って……。
役に立ちそうのない会話を続けていると、女王から呼び出しがあった。
1時間の休憩が終ったらしい。
私達は再び女王の私室を訪れた。
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