2パーティーとの楽しい夕食が済み、私達は各自のテント内に入っていく。
それぞれのテントに移動してホームの自宅に連れ帰ると、母を実家に送り届けた。
これから父と私のLvが45だという事をどう兄に伝えるか相談するので、母を先に送ったのだ。
2人分の紅茶を淹れ、テーブル席に向かい合わせで座ると私は早速話を切り出した。
「お父さん、何か上手い方法を思い付いた?」
「単純に早く樹を召喚したいから、Lv上げを急ぐ事にしたらどうだ?」
「う~ん、それだとお兄ちゃんは別行動を許可してくれないと思う」
「なら、ホームの設定に必要だと言えばいいんじゃないか?」
「ホームかぁ~。Lv10毎に1ケ所だから、Lv30だと後1ケ所追加出来るんだよね。病院を設定する予定なんだけど、Lv40に上げるともう1ケ所追加する必要が出てくるかぁ。旭家を追加すると言ったら、納得してくれるかな? 今はマンション住まいで不便な事も多いだろうし……」
「自分の家に2人は住みたいと思うぞ? 樹だって、召喚後に何もない状態だったら悲しむだろう。家には大切な物が沢山ある筈だからな」
父に言われて、実家には思い出の品があった事を思い出した。
私達の成長が分かるアルバムや家族写真、雫ちゃんはまだ実家に住んでいたから自分の部屋が残っているかも知れない。
「分かった。病院と旭家をホームへ追加するためにLv上げをしたいと言ってみるよ。単独行動は無理だから、お父さんも一緒に攻略してね!」
「あぁ大丈夫だ。他に話したい事もあるし賢也達を呼んでこよう」
そう言って父は席を立つと、兄の部屋に向かった。
最初からLvが40以上あると言うのではなく、これから上げる事にすれば兄も怒らないだろう。
本当にステータス画面が他人に見えない仕様で助かったよ。
5分程で、父と兄と旭が家に入ってきた。
呼ばれた2人が席に着くと、父が先程の内容を話し出す。
旭の父親を早く呼びたい事、ホームで病院と旭家を私が設定する事。
そのために別行動で一緒にLv上げをする心算だと説明すると、兄は少し考え込む。
「父さんの剣術Lvが高いのは見て分かるが……、沙良と2人で大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ! 先にドレインの魔法で昏倒させれば安全でしょ? それに、お父さんのLv上げは早くした方がいいと思う」
「じゃあ地下16階以降の情報をアマンダさんに聞いてから、充分気を付けて攻略するんだぞ。危ない時は移転で逃げろ。怪我をしたら俺の所に直ぐにくるんだ」
心配性の兄が、初めてのお遣いに行く子供に注意するように言う。
お父さんも一緒だし、既に独りでLv上げをしているから大丈夫だよ。
「了解! Lvが40になったら報告するね」
父と一緒だという事が安心材料になったのか、兄からLv上げの許可が出た。
これで病院もホームに設定出来る。
母が出産する時は、病院の方が設備も整っているから安心だしね。
2人は産婦人科医じゃないけど、いざという時は私達より知識があるから大丈夫だろう。
きっと兄が妊娠・出産に関して万全の準備で臨むと思う。
「Lv上げの件は以上だ。次は石化治療の話を聞きたい」
父から質問された兄が、ダンクさんの両親のパーティー全員を20年間石化している状態から戻した事を伝える。
それを聞いた父が、「厄介だな……」と小さく呟いた。
「その事を知っている人間は、どれくらいいるんだ?」
兄の代わりに私が答えを返す。
「ダンクさん達の両親のパーティーには内緒にしてもらう約束をしているから、知っているのは7人だけど……。石化の状態が見付かった時にいた、アマンダさんのパーティーは分かっていると思う」
それでも彼女のパーティーは口を噤むだろう。
冒険者が手の内を晒さない事を理解しているからね。
「そうか……。分かっているとは思うが、教会には気を付けるんだ。大きな組織だからな」
「宗教絡みがヤバイ事は知っている。気を付けるよ」
兄がそう言うと、それまで無言で話を聞いていた旭が隣でこくこくと頷いていた。
「あと最後に報告なんだけど……。私の事をアシュカナ帝国の王が、9番目の妻にしたいらしくて狙われているみたい?」
「……なんだと? 沙良、それをお前はいつ知ったんだ」
「……土曜日です」
「何故、すぐに言わない!」
「ええっと、知らない人に見張られている事にシルバーが気付いて分かったの。ちょうど『ポチ』と『タマ』が飛んできて、ガーグ老と息子さんが助けてくれたんだよ。理由を聞き出してもらったら、そんな理由だったみたい」
「誰が状況を説明しろと言った。2日報告が遅れた事を聞いているんだぞ!」
あぁ、兄が大激怒している……。
これは不味い。
「9番目の妻って……」
旭は話を聞き絶句しているようだ。
ここは素直に謝ろう。
「ごめんなさい。攻略開始の準備で色々やる事が多かったから忘れてました。お父さんは知ってるから……」
「父さん。重要な報告は俺にもしてくれ。アシュカナ帝国の王に狙われているなんて、大問題じゃないか!」
「すっ、すまん。沙良は移転で逃げる事が出来るから、誘拐するのは無理だろう。ガーグ老に通信の魔道具をもらったから、いつでも連絡が取れるしな」
おっと、兄の怒りが父に飛び火したようだ。
「沙良と一緒に行動するんじゃ意味がない。通信の魔道具は俺が持つ。もしかしてダンジョンに呪具を設置したのも、お前が理由なのか?」
「それは違うみたいだよ。多分、戦力を確かめるためだと思うけど……」
「いずれにせよ、お前は暫く独りで異世界に行くな」
「……はい」
「あ~、賢也。そっちの心配は多分問題ない。沙良は、かげ……形だけ結婚している事にすればいい。既婚者は幾ら何でも娶ろうとはしまい」
「えっ!? 私、誰かと結婚するの?」
「形だけな」
父の提案に私は悩んでしまった。
まさか、嫁取り対策に結婚しろと言われるなんて……。
それを聞いた旭が勢いよく片手を上げた。
どうやら立候補しているらしい。
「いや、尚人君はうちの賢也と結婚しているから駄目だ。偽装結婚がバレる」
「う~ん、じゃあ雫ちゃんと結婚する」
「そっ、それはどうだろう? 相手は、もう少し考えなさい」
「異世界では同性結婚も出来るんだよ? 旭のお母さんは、結婚しているから無理でしょ?」
「出来れば男性の方がいい。探しておくから心配するな」
どうやら私は、誰かと偽装結婚する事になりそうだ。
相手は誰になるんだろう?
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