セキに運ばれたまま上空を移動し数分後、森の一部が闇に覆われた場所を確認する。
あそこか? ぎりぎりまで近付くようお願いし森に降り立つ。
目の前に広がる暗闇の中は、どうなっているのか分からない。
王であるなら、闇の精霊王の加護を受けている筈だ。
精霊王の張った結界は、同位の精霊しか破れないだろう。
ここは森だから世界樹の精霊王を呼び出そうとしたところ、王妃が光の精霊王を先に召喚した。
「何度も悪いわね。邪魔な結界があって先に進めないの。どうにかして下さいな」
光の精霊王は男性で、黄金に波打つ長い髪を半分だけ結い上げた姿で現れた。
黄金色の瞳に見つめられると、少し無機質な印象を受ける。
精霊王が美形なのはデフォルトなのか非常に美しい。
あぁ、なんで男性なんだろうな。
「君はティーナの母親かい?」
失礼な事を思っていると声を掛けられた。
おや? 娘を知っているらしい。
「はい、ヒルダと申します」
「不思議な程そっくりなんだね。あぁ、結界か……」
俺達の見ている前で、先を見通せなかった闇が取り払われる。
それに気付いた闇の精霊王が姿を現した。
こちらは女性で黒髪に濡れたような黒目をしている。
妖艶という言葉がぴったりな雰囲気で、豊満な姿態が目に嬉しい。
「光の……、困るわ。ここは引いてくれないかしら?」
「それは難しい。私の守護した者の頼みだからね」
「そう、じゃあ全力でいくわよ?」
精霊王同士の戦いか……。
興味はあるけど、今は悠長に見ている時間がない。
俺は、近くの木に触れ世界樹の精霊王を呼び出した。
「ヒルダ。突然、精霊王2人がいる場所に呼び出すとは酷いな。しかも穏やかじゃなさそうだ」
「ごめんなさい。長引きそうだから、加勢してくれる?」
「どちらに?」
笑って意地悪な質問をするのは、かなり機嫌がよくない証拠だろう。
属性が違う精霊王達の仲を把握していないから、呼び出したのは拙かったかな?
「勿論。母の守護精霊である光の精霊王の方です」
「だろうねぇ。という訳だから諦めなさい」
有無を言わせぬ口調で断定すると、闇の精霊王の表情が変わる。
「仕方ありませんね。今回は私が譲りましょう」
2人を相手に勝ち目がないとみたのか、彼女はそう言って姿を消した。
精霊王達に序列はあるんだろうか? まぁ無駄な時間を浪費しなくて済んだのは助かる。
加護を与えた者の願いを、どれくらい聞き届けるかは精霊によって違うため、アシュカナ帝国の王はそれほど気に入られてないのかも?
精霊は加護を与えた者を無条件で守る存在じゃない。
その点、世界樹の精霊王の血を引くハイエルフの王族は恵まれているだろう。
「用件は済んだかな? 私はこれで帰るよ。あぁティーナを嫁にしたいと言う者は、私の代わりに1発殴っておきなさい」
「おや? そんな不埒者がいるのかい? じゃあ、私の分も追加しておくれ」
世界樹と光の精霊王は、そう言葉を残し去る。
どうやら娘に加護を与えたのは、光の精霊王で間違いなさそうだ。
精霊王との遣り取りが見えない響は、その場を動かない俺達を黙ったまま待っている。
闇が取り払われ結界がなくなったと気付いたガーグ老達は、王を追っているだろう。
『姫様、王は捕獲した。人質の娘も生きておる』
『逃げられなくて良かったわ。じゃあ、待っているわね』
「お母様。ガーグ老が王を確保しました。人質だった娘さんも無事だそうです」
「あら、早かったわね」
もう少し粘るかと思っていたけど、逃走した王は影衆達にあっさり捕まった。
アシュカナ帝国には、王を秘密裏に守る部隊がないのか?
どこか腑に落ちない気分でいると、ガーグ老達が簀巻きにした王を引きずりながら戻ってくる。
生け捕りを指示したので、身動き出来ない状態にしたんだろう。
殺す前に話を聞いておかないと。
「ヒルダ。魅惑魔法を使用するのは止めておけ。お前の魔法イメージは、下半身直結すぎる」
魔法を発動しようとした瞬間、響から言われた言葉に驚愕する。
えっ!? 俺が何度も魅惑魔法を掛けたとバレてる?
じゃあ、今までの記憶もあるんじゃ……。
サーッと顔から血の気が引く。
何のために、気色悪い思いをしてLv上げに耐えたか分からない。
気付いてたなら言えよ!
動揺し焦っている間に、響がふてぶてしい表情をした王の胸元を掴み顔を殴り出した。
いいぞ! もっとやれ!
彼も相当鬱憤が溜まっていたらしい。
ここまで蚊帳の外状態だったから余計、怒りの矛先が王に向いたとみえる。
顔が腫れあがるまで殴り付けたあと、手を離し乱暴に地面へ叩きつけた。
「質問に答えろ。お前は、娘が巫女姫だと知っていたのか?」
「……娘とは誰の事だ」
「9番目の嫁にするため狙っていただろう」
「……知らない」
「そうか。じゃあ死ね」
「ちょっと待った!」
さっさと殺そうとする響を制止し、母に人物鑑定をお願いした。
ずっと違和感を覚えていたから、念のため本人確認がしたい。
敵に捕まった王に怯える様子がないのは変だ。
死を覚悟したにせよ、こんな扱いを受けた経験はない筈。
王として、みっともなく足掻く姿をよしとしないかも知れないが……。
カルドサリ王国に仕掛けてきた内容を考えると、引っ掛かりを感じる。
こんな簡単に捕まるような人物だろうか?
「お母様。どうでしたか?」
結果を聞くと王妃は首を横に振る。
「王ではないわ」
やっぱり……、影武者を立てていたのか。
人質と行動し、こちらに注意を惹かせたのだろう。
襲撃と同時に移動を開始したのなら、かなり時間が経過している。
何処に向かったのか分からなければ追跡不可能だ。
王の居場所を吐かせようと影武者へ視線を移せば、既に絶命していた。
偽者とバレた瞬間、自決したか……。
やられた! 定石なら同じ方向に逃げたりはしない。
いずれ国に戻ってくるかも知れないが、その間ずっと帝国人と遣り合うのは時間の無駄だ。
娘を取り戻したケスラーの民も集落へ帰りたいだろう。
「一度、王宮に戻りましょう」
人質にされていた娘さんを族長の下へ早く帰してあげたい。
長い間、監禁されていたなら体調も心配だ。
響へ魅惑魔法の件を聞くのは後にしよう。
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!