今ここで母の兄だとは言えないだろう。
タケルは父親が元日本人だとは知らない筈だ。
2人には悪いけど、再会の続きは雫ちゃんのお母さんの話が済んでからしてもらった方がいい。
私は驚いている母を促し2階へ移動した。
6部屋ある内の1部屋に入り、扉を閉めてから口を開く。
「お母さん。タケルの父親は、奏伯父さんだったの?」
「ええ……。まさか兄さんまで、この世界にいるとは思わなかったわ。あぁ、母が嬉しがるわね」
それを聞き、サヨさんの息子さん達が経営している店の名前に思い当たる。
奏屋は、息子の名前から取っていたんだね。
サヨさんは、娘に続いて息子にも会えるようだ。
「奏さんがタケル君の父親とは、偶然にしても出来すぎだな……」
父はそう言って黙り込む。
確かに偶然が重なり過ぎている気がする。
何故、こんなに身内ばかりが異世界にいるんだろう?
旭と雫ちゃんは、お母さんの両親が会いにきた事で、一緒にいられなくなるんじゃないかと不安そうな表情をしていた。
兄は、嬉しそうな母を見て何も言わずにいるみたい。
話し合いは長引きそうだから一先ず席に座り、母へ手紙を書いたらと提案する。
日本語で書けば、他の人に見られても内容は分からないしね。
母は私の提案に頷き、羊皮紙へ娘のアリサが元日本人の親友である事と母親のサヨさんが華蘭の店主と再婚している事、話がしたいから来週また家にきてくれるよう書いていた。
手紙の内容を読めば、冒険者活動も許してくれるかな?
1時間後。
雫ちゃんのお母さんが席を立ち、家族を家の門まで見送る姿をマッピングで確認し私達も1階へ降りていく。
話し合いは平行線だったみたいだけど、強引に家へ連れ戻されたりはしなかったようだ。
母から父親が兄であると聞いた雫ちゃんのお母さんは、奏伯父さんと知り凄く驚いていた。
少し予定外に時間が押してしまったけれど、ホームへ戻りそれぞれ休暇を取る。
私はこれから父に車の運転を習う予定。
アパートの住人さんの車を出し隣に父を乗せ、一度兄から教えてもらったと話す。
前回は教習所で練習したけど、対向車はないから実家の近所を走る事にした。
制限速度も守る必要がないので、ゆっくりと運転する。
私的には上手く運転している心算だったのに……。
2時間後。
車を降りた父から、お前は運転しない方がいいと言われてしまう。
何故か兄と同じ事を言われ不思議に思い聞いてみると、シルバーに乗せてもらった方が早いと返事が返ってきた。
速度を30kmにしていたのが原因なのか……。
確かにシルバーの方が速いだろう。
でも、車を運転してみたいのに~。
意気消沈した私は夕食を作る元気がなく、兄達へカップ麺を2個渡し自宅に戻った。
その夜。
久し振りに香織ちゃんの夢をみた。
今回は映像も鮮明で、どうやら私の見た光景が映っているらしい。
両親を召喚してからの出来事と一緒に、香織ちゃんの気持ちが伝わってくる。
『沙良お姉ちゃんが、両親を召喚してくれた。嬉しい! 2人とも若くなっているけど、冒険者をするには年齢が心配……。あれ? お父さんは凄腕の剣士だったの? 魔物を簡単に倒してるよ! お母さんの料理が早く食べてみたいな~。摩天楼のダンジョンでセイさんと会ったのか……。一緒にパーティーを組むらしい。賢也お兄ちゃんに内緒でLv上げしてるけど、バレないかドキドキするよ。』
香織ちゃんは私の中で両親と会えたんだね。
父に迷宮ウナギを沢山食べさせているから、もう少し待ってて。
『子供達が誘拐されちゃった! シルバーが見付けてくれたけど、アリサちゃんの手が……。犯人は許せないよ! あ~、お父さんと親友の……。これは沙良お姉ちゃんが混乱しそう。う~ん、いずれ分かる事だけど結構複雑な事情があるみたいだ。』
最近起きた事件も見ているのか。
アリサちゃんの手?
私が混乱するような事があるの?
お父さんと親友なら、樹おじさん?
何だろう、香織ちゃんは私が見ていない事を知っていそうだ。
『あ~テステス、お姉ちゃん? 多分、これが最後になると思う。両親を召喚してくれてありがとう! 私、もうすぐ生まれ変われそうだよ。お父さんが、頑張ってくれたみたい。だから、そろそろお母さんには冒険者の活動を中止してもらった方がいいと思う。それと、セイさんは……だよ。あと樹おじさんを、早く召喚した方がいいんじゃないかな? お姉ちゃんの……だから。雫ちゃんは……』
相変わらず、香織ちゃんの言葉は肝心な部分が聞こえないなぁ。
けど、これで母が妊娠したらしいのが分かった。
妊娠初期は注意する必要があるから、明日からの攻略は控えた方がいいだろう。
まだ本人が自覚する前なので、何と言ったらいいか悩む。
悪阻もないよね?
酸っぱい物は前から好きだし……。
セイさんは、お父さんの後輩だと知っている。
樹おじさんは、私しか召喚出来ないよって意味かな?
で、雫ちゃんが会うのを楽しみにしてるかしら?
翌朝。
兄達と朝食を食べる前に実家へ寄ると、父から母はもう畑仕事をしていると言われた。
まだ5時なのに早いな~。
畑では母が魔法で水遣りをしている最中だった。
「お母さん、おはよう」
「おはよう、沙良。畑にくるなんて珍しいわね」
「忘れてると思って伝えにきたの。生理用品は購入した?」
「何を言ってるの? 生理なら、もうとっくになくなったわよ」
笑ってそう答え、草むしりを始める。
78歳だった母には当然だろう。
もう20年くらい前の話だ。
「今の体は42歳だから、生理もあると思うよ? 異世界にきて1ヶ月くらい経つでしょ?」
私の言葉を聞き母が絶句する。
うん、絶対忘れてると思った。
だから、香織ちゃんが生まれるんだからね!
父も、その可能性に気付いていないだろう。
迷宮ウナギの効果で、それどころではないかも知れないけど……。
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