【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第765話 旭 樹 再召喚 57 アシュカナ帝国への襲撃 5

公開日時: 2024年4月23日(火) 12:06
更新日時: 2024年8月15日(木) 13:02
文字数:2,260

 影武者の遺体を腕輪に収納し、俺達は王宮へと移動した。

 人質だった娘さんは、先に影衆達がガルムに乗せ族長のもとへ運んでいる。

 セキにまたお姫様抱っこされるのを回避するため、俺はガーグ老のガルムへ騎乗。

 王宮前の庭にはケスラーの民達が集まり、族長と娘さんの再会を喜んでいた。

 王を取り逃がしたのは非常に残念だが、彼女が無事で良かったな。


 俺はケスラーの民達に経緯を話し、逃げた王は影武者だと伝える。

 族長から娘を助けてもらったお礼にと渡されたのは、イフリートが加護を与えた守護石だった。

 貴重な物だが、サラマンダーのタローがねそうなので使用する機会はないだろう。

 族長の娘さんは憔悴しょうすいした様子もなく、人質としてひどい扱いはされなかったらしい。


「エルフの王妃様、王女様。助けて下さり、ありがとうございます」


 両膝を突き深く一礼した後、彼女は躊躇ためらうように言葉を続けた。


「父から、巫女姫様がアシュカナ帝国の王に狙われていると聞きました。これは参考になるか分かりませんが王宮にいた間、王が側室を寝室へ呼ぶ事はありませんでした。そして王に子供はいません」


 うん? 女好きの王だと思っていたが、側室に手を出していない?

 じゃあ何のためにめとったんだ?

 併呑へいどんした他国の姫を人質にするため、側室の地位だけを与えたんだろうか……。

 王の意図が分からず首をかしげる。

 すると娘さんは顔を赤くして口を開いた。


「その、処女性を重んじたのではないかと……」


 巫女姫を探しているのか!?

 

「重要な情報を教えてもらい、助かったわ。側室達は無理矢理連れてこられたのかしら?」


「はい、そうだと思います」 


 それなら国元へ帰してあげたいが、王が生きている限り連れ戻される可能性が高いな。

 国同士の条約に含まれているかも知れないし、下手な手出しは止めておこう。

 もうこの国に用はないので、集落へ戻るよう提案する。

 王宮内にいる帝国兵は殲滅せんめつさせたが、次の相手をする必要はない。

 族長がうなずき片手を上げると、ケスラーの民全員が麒麟きりんに騎乗し飛び立った。

 その姿を見送り王妃へ声を掛ける。


「お母様は、国に戻られますよね?」


「貴女に会えたばかりなのに、帰れと言うの?」


 王妃は寂しそうな顔をするが、このままカルドサリ王国へ来られても困る。


「お父様が心配してます。娘と一緒に近い内、本国へ帰還するから待っていて下さい」


「そうねぇ、少し長く国を離れていたから戻るわ。ガーグ老、影武者の首を切り落とし玉座に置いて。少しは見せしめになるでしょう」


 うわっ、やる事がえげつない!

 

「はっ、ついでに身ぐるみがし捨ておきましょう」


 あ~、裸の王様かぁ……。

 そりゃ皮肉が利いてるな。

 王妃は竜笛を吹き風竜を呼び出すと、再会した女性騎士達を連れエルフの国へ帰っていった。


「セキ、ありがとう。ご主人様は、記憶を封印されたままだからここで別れよう」


「ちい姫を頼んだぞ! お前の記憶が戻ったのは、精霊王へ内緒にすればいいんだよな?」


「あぁ、そうしてくれると助かる」


「了解! じゃあ、ばあちゃんも元気でな~」


 こちらはあっさりと別れの挨拶を済ませ、セキが消えたと思ったら地面に大きな影が落ちる。

 頭上を見上げると、大空を舞う赤竜の姿が一瞬だけ視界に映った。

 さて、俺達も戻るか。

 帰りは風竜に変態したポチとタマに騎乗すれば、そう時間は掛からないだろう。

 南大陸からカルドサリ王国のある大陸まで、2・3日もあればいい。


 王妃の指示を実行した影衆が戻るのを待ち、風竜の背に乗った。

 夕方まで移動し夜は野営をする。

 少し開けた場所でマジックテントを設置し、セイがカレーを作ってくれた。

 夕食後、テントに入り2人きりになったところで話を切り出す。


ひびき、俺が魅惑みわく魔法を掛けていたと知っているのか?」


「どうして気付かないと思うんだ?」


 逆にあきれた顔で切り返され、言葉に詰まる。


「分かっていたなら、言ってくれよ! すごく恥ずかしい思いをしたのに……。お前から何度もキスされたし!」


「頬へのキスは挨拶と変わらない。親友相手に掛ける方が間違ってる」


「何で黙ったままでいたんだ」


「お前と同じ理由だ。尋問するのに、魅惑魔法のLvを上げた方がいいと判断したからな。毎回、タイミングを合わせ耐性を付けながらLvを上げた」


「うん? じゃあ、俺も魅惑魔法を掛けられていたのか? 効果なかったぞ?」


「MP値を考えてから言え。どれだけ差があると思っているんだ。同じ魔法Lvでも効果に違いが出るのは当然だろう」


 ああ、そうか……。

 俺と響じゃ4倍以上魔力量に差がある。

 その分、俺は耐性が強くなるし効果も高い。


「えっと、掛けられた時の記憶は覚えてるのか?」


「なんとなくだな。お前の姿はヒルダに見えていたのが救いだ。ホテルへ行った時は、どうしようかと思ったよ。性欲を減退させるポーションを飲んだお陰で正気に戻ったが、魅惑魔法のイメージがおかしすぎる。相手から話を聞き出そうとするのに、欲情させてどうするんだ?」


「それは……、れさせて口を割らせようとしたからかも?」


「はぁ~、不要なイメージが先行した結果か……。とにかく、お前に魅惑魔法の才能はない。一度イメージした魔法は変更が難しいだろう。使う時は、襲われる覚悟をするんだな」


「……止めておきます」


 なんか怒られている気分なんだけど……。

 魅惑魔法のLvが簡単に上がったのは、俺も同じ魔法を掛けられ知らない内に耐性を付けていたからか?

 響の行動に恥ずかしいと思っても嫌悪感が湧かなかったのは、多少魔法が効いていたからかも知れない。

 結局、響が内緒にしている話は聞き出せず、もやもやしたまま眠りにいた。

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