影武者の遺体を腕輪に収納し、俺達は王宮へと移動した。
人質だった娘さんは、先に影衆達がガルムに乗せ族長の下へ運んでいる。
セキにまたお姫様抱っこされるのを回避するため、俺はガーグ老のガルムへ騎乗。
王宮前の庭にはケスラーの民達が集まり、族長と娘さんの再会を喜んでいた。
王を取り逃がしたのは非常に残念だが、彼女が無事で良かったな。
俺はケスラーの民達に経緯を話し、逃げた王は影武者だと伝える。
族長から娘を助けてもらったお礼にと渡されたのは、イフリートが加護を与えた守護石だった。
貴重な物だが、サラマンダーのタローが拗ねそうなので使用する機会はないだろう。
族長の娘さんは憔悴した様子もなく、人質として酷い扱いはされなかったらしい。
「エルフの王妃様、王女様。助けて下さり、ありがとうございます」
両膝を突き深く一礼した後、彼女は躊躇うように言葉を続けた。
「父から、巫女姫様がアシュカナ帝国の王に狙われていると聞きました。これは参考になるか分かりませんが王宮にいた間、王が側室を寝室へ呼ぶ事はありませんでした。そして王に子供はいません」
うん? 女好きの王だと思っていたが、側室に手を出していない?
じゃあ何のために娶ったんだ?
併呑した他国の姫を人質にするため、側室の地位だけを与えたんだろうか……。
王の意図が分からず首を傾げる。
すると娘さんは顔を赤くして口を開いた。
「その、処女性を重んじたのではないかと……」
巫女姫を探しているのか!?
「重要な情報を教えてもらい、助かったわ。側室達は無理矢理連れてこられたのかしら?」
「はい、そうだと思います」
それなら国元へ帰してあげたいが、王が生きている限り連れ戻される可能性が高いな。
国同士の条約に含まれているかも知れないし、下手な手出しは止めておこう。
もうこの国に用はないので、集落へ戻るよう提案する。
王宮内にいる帝国兵は殲滅させたが、次の相手をする必要はない。
族長が頷き片手を上げると、ケスラーの民全員が麒麟に騎乗し飛び立った。
その姿を見送り王妃へ声を掛ける。
「お母様は、国に戻られますよね?」
「貴女に会えたばかりなのに、帰れと言うの?」
王妃は寂しそうな顔をするが、このままカルドサリ王国へ来られても困る。
「お父様が心配してます。娘と一緒に近い内、本国へ帰還するから待っていて下さい」
「そうねぇ、少し長く国を離れていたから戻るわ。ガーグ老、影武者の首を切り落とし玉座に置いて。少しは見せしめになるでしょう」
うわっ、やる事がえげつない!
「はっ、序に身ぐるみ剥がし捨ておきましょう」
あ~、裸の王様かぁ……。
そりゃ皮肉が利いてるな。
王妃は竜笛を吹き風竜を呼び出すと、再会した女性騎士達を連れエルフの国へ帰っていった。
「セキ、ありがとう。ご主人様は、記憶を封印されたままだからここで別れよう」
「ちい姫を頼んだぞ! お前の記憶が戻ったのは、精霊王へ内緒にすればいいんだよな?」
「あぁ、そうしてくれると助かる」
「了解! じゃあ、婆ちゃんも元気でな~」
こちらはあっさりと別れの挨拶を済ませ、セキが消えたと思ったら地面に大きな影が落ちる。
頭上を見上げると、大空を舞う赤竜の姿が一瞬だけ視界に映った。
さて、俺達も戻るか。
帰りは風竜に変態したポチとタマに騎乗すれば、そう時間は掛からないだろう。
南大陸からカルドサリ王国のある大陸まで、2・3日もあればいい。
王妃の指示を実行した影衆が戻るのを待ち、風竜の背に乗った。
夕方まで移動し夜は野営をする。
少し開けた場所でマジックテントを設置し、セイがカレーを作ってくれた。
夕食後、テントに入り2人きりになったところで話を切り出す。
「響、俺が魅惑魔法を掛けていたと知っているのか?」
「どうして気付かないと思うんだ?」
逆に呆れた顔で切り返され、言葉に詰まる。
「分かっていたなら、言ってくれよ! 凄く恥ずかしい思いをしたのに……。お前から何度もキスされたし!」
「頬へのキスは挨拶と変わらない。親友相手に掛ける方が間違ってる」
「何で黙ったままでいたんだ」
「お前と同じ理由だ。尋問するのに、魅惑魔法のLvを上げた方がいいと判断したからな。毎回、タイミングを合わせ耐性を付けながらLvを上げた」
「うん? じゃあ、俺も魅惑魔法を掛けられていたのか? 効果なかったぞ?」
「MP値を考えてから言え。どれだけ差があると思っているんだ。同じ魔法Lvでも効果に違いが出るのは当然だろう」
ああ、そうか……。
俺と響じゃ4倍以上魔力量に差がある。
その分、俺は耐性が強くなるし効果も高い。
「えっと、掛けられた時の記憶は覚えてるのか?」
「なんとなくだな。お前の姿はヒルダに見えていたのが救いだ。ホテルへ行った時は、どうしようかと思ったよ。性欲を減退させるポーションを飲んだお陰で正気に戻ったが、魅惑魔法のイメージがおかしすぎる。相手から話を聞き出そうとするのに、欲情させてどうするんだ?」
「それは……、惚れさせて口を割らせようとしたからかも?」
「はぁ~、不要なイメージが先行した結果か……。とにかく、お前に魅惑魔法の才能はない。一度イメージした魔法は変更が難しいだろう。使う時は、襲われる覚悟をするんだな」
「……止めておきます」
なんか怒られている気分なんだけど……。
魅惑魔法のLvが簡単に上がったのは、俺も同じ魔法を掛けられ知らない内に耐性を付けていたからか?
響の行動に恥ずかしいと思っても嫌悪感が湧かなかったのは、多少魔法が効いていたからかも知れない。
結局、響が内緒にしている話は聞き出せず、もやもやしたまま眠りに就いた。
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