翌日、土曜日。
『毒消しポーション』の数を増やすため、今日は雫ちゃんのお母さんも一緒に薬師ギルドへいく予定だ。
再会したばかりで早朝から連れ出すのは遠慮し、先に兄と奏屋へ向かい売り上げが好調な『お菓子の店』用のバターの増量を頼んできた。
ホームに戻り旭家へ。
今朝はホーム内の喫茶店でモーニングを食べたらしい。
樹おじさんが、ホーム内の飲食店に感動していた。
それ以上に雫ちゃんのお母さんが、家をホームに設定した事で使用出来るようになった預金に感激していたけどね。
旭の遺産が残っていたなら、億はあったんだろう。
4人で薬師ギルドへ向かい、受付嬢に挨拶すると応接室へ案内される。
部屋へ入ると、テーブルの上にはいつもより多くポーションが置かれていた。
兄達が浄化を掛ける様子を見て、雫ちゃんのお母さんが頷いている。
既に任意の魔法Lvを使用可能になっていたようで、旭がLv2だと伝えた。
ポーションに浄化魔法を掛け効能を付けるのは、この世界の治癒術師には無理なんだろうか?
付与魔法に近い能力な気もするけど……。
雫ちゃんのお母さんがLv2の浄化魔法をポーションに掛けると、ポーション瓶が淡く光る。
中に入っているポーションがキラキラと輝いているから、浄化は成功かな?
全てのポーションを浄化し終わる頃、ゼリアさんが部屋に入ってきた。
初めて会う、雫ちゃんのお母さんを紹介しよう。
「ゼリアさん。今日からパーティーメンバーの治癒術師が1人増えるので、よろしくお願いします。ええっと、旭の妹です」
「兄がいつもお世話になっております。妹の結花と申します」
席を立ち挨拶をすると、ゼリアさんは何故か雫ちゃんのお母さんを見て、驚いたように目を瞠った。
「……女王。いやはや、心臓が止まりそうだわ。御大がいらっしゃるとは……流石に予想外であった。依頼して良いものか……」
女王? その言葉を聞くと、鞭を手にした姿を思い浮かべてしまう。
現在、乙女ゲームの主人公になっている雫ちゃんのお母さんは、非常に可愛らしい容姿だ。
女王という言葉は、どう考えても当て嵌らない。
言われた本人も、聞いた兄達も不思議そうな顔をしている。
また、ゼリアさんはボケてしまったのだろうか?
事前に雫ちゃんのお母さんへゼリアさんが少しボケている話はしたから、会話が噛み合わなくても突っ込まないようしてくれる筈。
「ポーションの浄化は終わっています。ヒールを掛ける分を出してもらえますか?」
ゼリアさんの女王発言はスルーして、用事を済ませるため続きの作業が出来るようお願いした。
ゼリアさんは少し躊躇った後、マジックバッグから取り出した追加のポーションをテーブルの上に置く。
そして雫ちゃんのお母さんをじっと見つめたまま、作業が終わるのを待っていた。
『MAXポーション』完成後、金貨の入った巾着を受け渡す際、雫ちゃんのお母さんの両手を押し頂くような仕草をするので驚いた。
一体、誰と勘違いしているんだろう?
雫ちゃんのお母さんは、受け取った巾着のずっしりとした重みで気にならなかったみたい。
浄化代は、かなり高額だ。
1本金貨10枚(1千万円)を50本分だと、金貨500枚(5億円)になる。
さらにヒール代が足されているからね。
ダンジョンを攻略するより、余程儲かるんじゃないかな?
何せ使用するのは魔力だけで、作業自体は短時間で終わるし。
巾着の中身を想像し笑顔を浮かべた雫ちゃんのお母さんに、ゼリアさんはどこかほっとした表情をすると小さな声で呟いた。
「……寿命が縮まったわ。しかし、長生きはするもんじゃなぁ……」
最後まで意味不明な事を言っている。
今日は、一段とボケが激しかったのだろうか?
薬師ギルドを出てホームに戻り、昼食後は樹おじさんのLv上げをしよう。
摩天楼ダンジョン1階~29階の移動時、アイテムBOXに生きたまま収納した魔物が沢山入っているけど、初日の今日は迷宮都市の魔物がいいかな?
樹おじさんと父、兄と旭を連れ異世界の家の庭へ移転する。
「沙良ちゃん? この家の塀は何!?」
高さ10mもある塀を見て誰もが一度は驚くけど、樹おじさんも例外ではなかったようだ。
「新築を建てる時、防音対策に商業ギルドが付けてくれたんですよ~。外から見えないから、移転するのに便利で助かってます」
「要塞みたいだ……」
うん、まぁそうともいえる。
私は剣と槍のどちらがいいか尋ね、槍と答えたおじさんに今まで使用していたミスリル製の短槍を手渡した。
「あ~、ちょっと俺には短いなぁ。長槍は持ってない?」
長槍を希望され、兄が自分の槍と交換する。
「じゃあ、最初にLv上げをするのでスライムを突き刺し倒して下さいね」
まだLv0だとMP値が78なので、魔法耐性が少なく不安だったため魔法習得は後にした。
「出しますよ!」
アイテムBOXから属性スライムを3匹出す。
初めて見る魔物に戸惑うかもと心配していたら、樹おじさんは直ぐに駆け出し槍を横なぎに振るった。
その一振りで3匹のスライムが一瞬空に浮き、半分になってぱしゃりと水音を立て地面に落ちる。
ええぇ~! 父とサヨさんと同じで、樹おじさんも素人じゃないよ!
「お父さん! 樹おじさんは槍を習っていたの?」
「樹は剣も槍も、そこそこ使えるぞ」
あぁ、だから早く召喚したかったのか……。
初心者じゃないなら少し強い魔物を出しても大丈夫だろうと、角ウサギではなくファングボアを出す事にした。
「おじさん。次は猪の魔物だよ、大きいから気を付けてね!」
私の言葉を聞き、兄と旭が何かあった時のために魔法の発動準備をする。
牛より大型の魔物を出すと、これにも驚いた様子をみせず樹おじさんは首に槍を投げつけた。
槍は突進してくるファングボアの首に見事突き刺さり、横倒しになって倒れる。
投擲術も持ってるじゃん! サラリーマンじゃなかったの!?
見ていた旭が、父親の技量にぽかんとなり口を大きく開けていた。
どうやら私達の父親は、何か秘密がありそうだ。
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!