再会した樹は皆の前で「とても会いたかったです」と言いながら、俺の胸に飛び込んできた。
おいおい、偽装結婚だとバレないよう気を使ってくれるのはいいが、あまりやり過ぎないでくれよ?
俺達は、まだ1週間しか一緒の時間を過ごしていないんだからな。
そこまでされると、俺も同じ温度で接しないと不自然になるじゃないか。
感極まった様子で俺も樹を抱き締め返し、周囲を置き去りにして暫く抱擁する。
それを見ていた女官達の驚いた表情が、普段の行動と違う事を物語っていた。
きっと王女は、今まで男に無関心だったのだろう。
中身が樹なので当然だが、逆に不審に思われたりしないか?
既に準備を済ませた第二王妃用の宮へ案内すると、同行してきた女官達が慌ただしく動き出す。
一応家具等は俺の方で厳選した物を揃えておいたが、樹の私物等もあるんだろう。
他国に嫁ぐ王女に付随し、女性の近衛騎士10名、女官が11名、それに姿を見せない影衆10名がカルドサリ王国にくる事になったそうだ。
勿論、こちら側の女官も10人手配済みである。
人選には敢えて俺は関わらず、好きにさせておいた。
その方が相手もボロを出しやすいだろう。
そうして樹がカルドサリ王国に馴染む間、結婚式の準備は着々と進んでいく。
その間、俺は樹と仲睦まじい姿を見せる事に尽力した。
そして迎えた結婚式当日。
美しい花嫁衣裳を着た樹の姿は、揃った国賓や有力貴族達の視線を釘付けにする。
贔屓目に見ても、その姿はまるで御伽噺に出てくる精霊王のように綺麗だった。
過去に何度かエルフの国が侵略されたのも頷ける。
美しい者を手に入れるため、どこまでも強欲になれるのが人間だ。
これ程、綺麗な姿をしている者を傍に置きたいと願うのも当然だろう。
現在、エルフの国に戦争を仕掛ける愚かな国はないがな。
侵略しようとした国は悉く破滅を迎えている。
その歴史が強国であると示していた。
エルフの国には守護神がいる。
まことしやかに囁かれたその言葉に、嘘偽りはない。
きっと、そういう存在が守っているのだろう。
式の前に、樹が「もしかして俺達、誓いのキスとかする必要ある?」と動揺し聞いてきた。
教会での結婚式をイメージしていたのか……。
この世界では、冠婚葬祭を教会で行う事はない。
その心配は不要だと伝えると、安心したのか胸を撫で下ろしていた。
教会組織も厄介な連中だがな。
今はそれより、国政をほしいままにしている王妃の一族を排除する事の方が先決だ。
参列者の前で少し緊張している樹と結婚誓約書にサインをし、結婚式は無事終わった。
式の間中、俺達を鬼の形相で睨んでいた王妃は、さぞかし鬱憤を溜め込んでいるに違いない。
俺の計画は順調に進んでいるようだ。
その夜。
初夜を迎えた俺達は、第一王妃の手前もあり一緒の部屋で寝る事になった。
あの女とは一度も閨を共にしていないから、この事を知ったら相当怒り狂うだろう。
まっ、実際は何事もなく寝るだけだ。
女官達の用意した酒を飲みながら、お互い結婚する事になるとはなと笑う。
日本での懐かしい話をしながら、やけに体が熱い事に気付く。
熱でも出たのかと訝しむが、その内ある反応が起きぎょっとした。
よりによって今、何故こんな事に?
俺は樹に体の変化を悟られないよう、体位を変える。
見られたらモロバレ状態になるまで育ったのを、知られる訳にはいかないだろう。
いくら女性の姿をしていようとも、中身は親友だ。
その気になる筈がないのに……。
俺は不可解な状態に疑問を感じつつ、そろそろ寝ようという樹に同意し一緒のベッドに横たわる。
しかし、その後も下半身は治まりをみせず眠る事など到底無理だった。
何度も寝返りを打ちやり過ごそうとしていると、隣にいた樹がベッドから抜け出した。
起きていたのかと声を掛ける。
「樹? どうした?」
「あぁ、部屋から出ようと思ったら鍵が掛かっていた」
「部屋から出る? 一緒に寝ればいいだろう?」
「あ~、ちょっと眠れないから先に寝ていてくれ」
どうやら彼も眠れずにいるようだ。
もしかして、俺に襲われるとでも思っているんだろうか?
安心しろ、親友に手を出す程バカじゃない。
どうしてか体は勝手に反応しているが、それはお前相手にどうこうしようと思った訳じゃないぞ?
30分程すると樹がベッドに戻ってくる。
俺は流石に自分の状態が変だと感じ、思い切って告白した。
「誤解しないでほしいんだが……。先程から、体がおかしい気がする」
「悪い。さっき飲んだ酒の中に、女官長が媚薬の類を入れたみたいだ。お前が変になった訳じゃないから、心配するな」
「やっぱりかっ! どうりで……。お前に欲情したのかと、焦ったじゃないか」
俺の意志とは無関係だと分かり、ほっと安心する。
しかし、なんて物を飲ませるんだ!
樹は解決策を簡単に言うが、俺にだって恥じらいはあるんだぞ?
親友の前で抜ける訳ないだろうが!
その後――。
悪魔のような提案に体が限界を迎えていた俺は、つい誘いに乗ってしまう事になる。
お互い、この体では初めて同士。
俺の方は男としての経験があるが、当然ながら樹にはなく……。
なるべく美佐子との最初を思い出し、優しくした心算だったが……。
「痛って~な、このヤロー!」
「馬鹿、叩くな!」
かなり痛がった樹に背中をバンバン叩かれた。
そして耐性のない体は、その衝撃がもとになり達してしまう。
いや、なんだこれ……。
お互い唖然となるが、幸いにも樹は何も言わなかった。
その優しさが身に沁みる。
勘違いしないでほしい、日本での体はそうじゃないんだ!
一度達した事で、媚薬の効果は切れたのか俺の体は治まりをみせる。
樹は……ふて寝しているようだ。
翌朝。
かなり気まずい思いで目が覚めると、お互いの第一声がハモった。
「なかった事に!」
そうして俺達は、初夜の出来事を記憶から消す事にしたのだった。
それからは、何事もなかったように樹が行きたい場所に連れてってやる。
城下町のお忍びでは酒場にいき、酌婦の胸元に金を入れていた。
おい!
女のお前がそんな真似をしたら、不審に思われるだろうが!
まぁちょっと羨ましいが、俺がしたら樹を護衛している影衆に説教されそうだ。
隣に妻がいるので、俺は大人しく酒を飲むしかなかった。
そして3ヶ月後――。
俺は予想外の報告を受ける事になる。
なんだと?
第二王妃が妊娠した!?
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