気が動転しつつも、なんとか御二方の冒険者登録を済ませる。
私は辞職届を書こうとして、はたと気付き真っ青になった。
まさか王族の方がサラ様の母親役をされるとは思わず、先程ステータスを確認してしまった!
サラ様は許して下さったが、本来王族のステータスを調べる事は不敬罪で殺処分の対象になる。
あの場では、特に怒っているような素振りは感じられなかったが……。
お優しいサラ様が、宥めて下さるだろうか?
再び影衆の粛清対象になってしまった事で、辞職届を書く所じゃない!
明日をも知れぬ身となったからには、父の秘蔵酒を最後に飲んでおこう。
勤務時間など知った事かと、私は冒険者ギルドを出て屋敷に戻った。
早い帰宅に執事長が慌てて出迎えにくる。
「オリビア様。また何かありましたか?」
私の顔色が悪い事を察し、執事長が心配そうに尋ねてきた。
「少し確認したい事があり戻っただけだ」
安心させるためにそう言って、父の書斎へ向かう。
一つだけどうしても確認したい事があった。
以前ヒルダ様の容姿を確認した時以来、開かなかった王族の系譜を引っ張り出す。
現在、女性の王族の方は何人いらしただろうか?
現国王には、3人の王子様しか子供はいらっしゃらない。
そう思いながら年代を遡り見ていく。
女性の王族は、どれだけ調べてみても王妃様しか見付からなかった。
まさか、孫のサラ様を心配されて冒険者の真似事を?
王妃は武の一族出身で王族の警護をしていた時、王に見初められた御方だと聞く。
女性の近衛とは、また珍しいと思ったが……。
ならば普通の女性より、行動力がおありなのかも知れない。
王妃はエルフで、ハイエルフではないから王族と言っても影衆の護衛対象にはならない筈だ。
私は首の皮一枚で助かった事になるのだろうか?
気を落ち着かせるため書斎に隠してある父の秘蔵酒とガラス製の器を取り出し、なみなみと注ぐと一気に飲み干した。
その後、旨い酒についつい杯を重ね気付いたら中身が半分以下になっている。
これ以上は流石に怒られるだろう。
後ろ髪を引かれつつ、秘蔵酒を元の場所に戻し書斎から出た。
サラ様のご両親? が冒険者登録をした2日後。
今度はスキップ申請をされた。
F級からC級冒険者へのスキップ制度の合格判定は、ギルドマスターがする事になっているため必要ないだろうと思いつつ、サラ様達に貴族仕様の馬車へ乗って頂きダンジョンまで向かう。
この馬車は、サラ様が迷宮都市にこられて直ぐに購入した物だ。
その時も財務統括に本当に必要なのかと散々言われたが、押し通した甲斐があった。
王族の方を職員の馬車にお乗せする訳にはいかないからな。
今回お役に立てたのなら幸いだ。
内装は華美にならないよう注意して、その分衝撃を減らす魔道具を通常より多く使用した特注の馬車になる。
お忍びだとバレないよう、かなり気を使った。
これならサラ様も王妃様も満足して下さるだろう。
ダンジョンに到着すると、サラ様が入場料を払おうとされるので試験時は不要だとお伝えする。
本来なら試験を受ける者以外の冒険者には払ってもらう必要があるが、そんな事は言えない。
迷宮ダンジョンでスキップ制度の対象となる魔物は幾つかあったが、今回はファングボアとリザードマンにした。
まずは父親役の方が、ファングボアを一閃して倒す。
流石、現役の影衆!
それはもう鮮やか過ぎる業で、つい見惚れてしまった。
しかも持っている剣は相当な業物らしく、ドワーフの名匠が鍛えた物で間違いない。
これでC級冒険者を名乗られるとランク詐欺になりそうだから、早々にB級へ昇格して頂きたいが……。
次は王妃様だ。
武の出身であるから当然、剣か槍を使用されると思っていたら、意外な事に魔法を使用し倒された。
それも加護を受けておられる光の精霊王の魔法ではなく、土魔法を撃っていらっしゃる。
何故だろう?
とても疑問に感じたが、合格に間違いはないためその場で判定を出す。
サラ様達は、まだ魔物を狩られるそうなので私は先にダンジョンを後にした。
一先ず、これでもう何もないだろうと安心した矢先。
特大の爆弾が落とされる事になる。
確かに、冒険者をしている追加メンバーが2人お見えになるとは聞いていましたが……。
どうしてテイム魔法を使用出来るメンバーが増えるんでしょうか?
しかも1日に4匹も登録にこられるなんてどうしたらいいの!?
サラ様、3匹目は不味いです!
あぁ、また書類の改ざんが必要な案件が……。
王妃様がテイムされたシルバーウルフは、父親役の影衆に変更だ。
新しく増えた治癒術師の妹さんがテイムされた2匹分は、それぞれ1匹ずつに変更すればいい。
それにしても、騎獣に向かないフォレストウサギにした理由が謎過ぎる……。
サラ様の分は……。
あぁ、眩暈がしてきた。
ポーション、今直ぐポーションを飲まないと倒れそう。
だが、最後に確認だけはしておこう。
「サラさん。従魔登録は、これで最後ですか?」
「はい、私がテイムした迷宮タイガーが最後です」
その言葉が聞けただけでも安心だ。
私はサラ様に登録用紙と首輪を渡し、記入された用紙を受け取る。
7人パーティーで従魔6匹……。
一体、何を目指してるんですか?
もう本当にギルドマスターを辞めたいと、肩を落とし窓の外をぼうっと眺めたのだった。
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!