【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第796話 エンハルト王国 アマンダさんからの依頼 12 魔族との契約 2

公開日時: 2024年5月24日(金) 14:37
更新日時: 2024年9月15日(日) 15:40
文字数:2,973

 翌日、日曜日。

 魔族の青年は大丈夫かと隣の部屋へ様子を見に行く。

 彼は滝のような汗を流し腹筋を続けていた。

 しかし、その1回もかなり辛そうで体が震えている。

 どうやら一晩中、筋トレをさせられていたみたい。

 

「ガーグ老。彼は、あと何回で今の契約が終るの?」 


 今にも息絶えそうな青年を見て、いつきおじさんが声を掛ける。

 

「うむ。女官達の依頼は最後の1人で、残りは10回くらいかの」


「そう。なら、頑張りなさい」


 おじさんからはげまされた青年は、嬉しそうに残り10回の腹筋をやりきった。

 その表情を見る限り、魅惑みわく魔法の効果は続いているらしい。

 一晩経っても効果が切れないとは……。

 

「全員と契約して魔力が相当増えたと思うけど、貴方の爵位は上がったかしら?」


「俺は男爵ですから子爵には、魔力が10,000必要です」


 男爵か、セイさんが予想していた爵位と同じだな。

 昨日、彼の父親が息子は初めて契約したような事を言っていた。

 生まれながらに男爵位を持っているなら、父親は相当位の高い魔族なんだろう。

 10,000だと、まだ沢山契約を交わす必要がありそうだ。


「貴方の名前を聞いてもいい?」


 これから長い付き合いになる。

 呼び名がなければ不便だろうと思い尋ねてみた。

 

「ギルフォードと呼んで下さい」


 聞いた私ではなく、青年が樹おじさんへ返事をする。

 魔族なのに、あまり種族的な特徴がない名前なんだなぁ。

 ここはやっぱり、分かりやすく悪魔的な呼び方がいい。


「ルシファーの方がいいと思う!」


「ルシファーって、またベタな名前を……」


 聞いた兄が私をあきれた表情で見る。

 悪魔のような種族なら、格好いい名前の方がよいでしょ?


「勝手に名前を変えるな! 俺には……」


 私が言った名前に憤慨ふんがいし怒ってみせる魔族の青年は、途中で言葉を詰まらせた。

 何かを見ているのか、じっと視線を正面に合わせ目を大きくみはる。


「馬鹿な……。ステータス表記が変化しているだと? 娘! 俺に何をした!?」


 えっ? もしかして従魔達のように、呼んだだけで名付けちゃった? うわ、私の能力がヤバイ!

 

「あら、娘の呼び方が気に入ったのね。じゃあ、これからはルシファーと名乗りなさいな。名前に負けないよう、強くなって」


 樹おじさんが、にっこり笑いフォローしてくれる。


「あっ、はい……」


 青年は顔を真っ赤にし、しどろもどろでうなずいた。

 よし! 名前を変えてしまった件は、これで有耶無耶うやむやになっただろう。

 魅惑魔法の効果が続いている間、樹おじさんに好かれようと魔族は言いなりだ。

 2人の遣り取りを聞いた兄が不思議そうな表情をして、私に視線を向ける。

 分からないというように、私は首をかしげてみせた。

 セイさんは平然として動じず、あかねは興味がないようだ。

 ガーグ老達や女官長達は、少し困った顔をしているみたいだけど……。

 この場で追及する心算つもりはなさそう。

 疲れ切っている魔族に、一度異界へ戻るよう樹おじさんが伝えた。

 召喚陣を描けば何処どこにいても呼び出せるから、その点は従魔より便利かも?

 青年は最後まで、おじさんに熱い視線を送り異界へ帰った。


 客室へ戻り少しして朝食の席に呼ばれる。

 侍従の案内について行くと、昨日とは別の広間へ通された。

 既に女王とヴィクターさんがいて、私達の姿を見るなり立ち上がる。


「王女様方、おはようございます。魔法陣の準備は出来ておりますから、食事が済み次第カルドサリ王国へお送りします」


 昨夜カルドサリ王国の宮廷魔術師と連絡を取ったのか、随分ずいぶん早い帰国になりそうだ。

 今回の依頼は非公式だから、私達もエンハルト王国を観光するわけにいかないし仕方ない。


「分かりました。早急な手配、ありがとうございます」


 女王の言葉に樹おじさんが答え、毒見役の女官がそれぞれの料理を口にしたあとで食事を始める。

 玉ねぎ・人参・じゃが芋・チーズが入った大きな『キッシュ』、ニンニク・塩・胡椒こしょうが効いたステーキにスープ、デザートはウサギリンゴが添えられていた。

 この世界のパンが苦手だと知っているケンさんが、メニューを考慮してくれたのが分かる。

 出された料理を食べないのは失礼に当たるから、正直とても助かった。

 王族の前で残す事は出来ないからね。

 気になっていた質問をしよう。


「ヴィクターさんは、このまま国に残るんですか?」


 迷宮都市でクランリーダーをしているアマンダさんがいなくなったら、クランメンバーはどうなるのか心配になったのだ。


「いえ、私は迷宮都市に戻ります。継承権は放棄しているから国を離れても問題ないんですよ」


「でも、もう青龍の件は解決しましたよね?」


「私は冒険者の方が性に合っているようです」


 ヴィクターさんは女王と視線を交わして意志を伝える。


「役目を終えたら自由にしてもいいと言う約束ですから、貴方の好きになさい」


 第二王子なのに国を離れてもいいんだ……。

 まぁ12年も女装して辛い役目をしたんだから、それくらいご褒美ほうびがあって当然か。

 迷宮都市へ戻るなら、私達と一緒に帰るのかしら?

 またアマンダさんとして活動するかどうか、ここでは触れないでおこう。

 食事を済ませたあと、魔法陣のある部屋まで女王に見送られ、特産品の碧水晶をプレゼントされる。

 青龍が目覚め湧き水の量が戻った事で、碧水晶の品質も安定したそうだ。

 てのひらサイズの碧水晶は、とても綺麗でキラキラと輝いていた。

 値段は分からないけど相当高価な物に違いない。

 それを5個も貰っていいのかな?


 お礼を伝えて女王と別れ、魔法陣のある部屋へ入る。

 待機していた6人の魔術師達がヴィクターさんへ目礼し、呪文を唱え始めた。

 私達は床に描かれた魔法陣の上へ移動して、その時を待つ。

 5分後、女官長から「遅すぎます」とれた声を聞き魔術師達があせり出す。

 あ~、可哀想かわいそうなので大人しく待ってあげて下さい~。

 私の願いもむなしくれた女官長が片手を振り下ろした瞬間、カルドサリ王国へ移転してしまった。

 室内には発動前の魔法陣に現れた私達を、またかという目で見る宮廷魔術師達の姿がある。


「……魔術師長。エンハルト王国の方が驚かれます。少しは自重なさって下さい」


 6人のリーダーなのか、1人の宮廷魔術師が女官長の前へ進み出て進言した。

 

「私はもう魔術師長じゃありませんよ。たかが、移転陣を起動するために時間が掛かる方が悪いのです」


「はぁ……。魔術師長の座は空席のままです。お戻りになるのを、我ら一同お待ち申し上げております」


 そう女官長に告げ、深々と一礼した宮廷魔術師達は去っていく。

 やはり、突然10人も辞職したから彼らは困っているようだ。

 復帰する気はないのかな? カルドサリ王国が心配なんだけど……。

 本人達が決めた事に口を挟むのは難しい。

 今は、何をしているか気になりながらも王宮から出た。

 王都から迷宮都市まで、ヴィクターさん達と女官長達は再びワイバーンへ騎乗する。

 ガーグ老達はガルちゃん達に、私達はダイアンとアーサー達の背に乗り、迷宮都市の家へ帰ってきた。


 炊き出しは済んでいたようで庭に子供達の姿はない。

 今は子供達が1階で楽器の練習をしている頃だろう。

 ヴィクターさん達は、また明日と言い家から出て行ったので、月曜から冒険者活動を続けるらしい。

 彼は第二王子の身分を捨て、アマンダさんとなり冒険者をする生活を選んだようだ。

 王族は大変そうだから、自由に生きたいのかも知れないなぁ。

 ヒルダさんの所為せいで、女装をする羽目はめになるとは思わなかっただろうけど……。

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