午後から迷宮都市ダンジョン地下15階に戻り、魔物を討伐する。
王都のダンジョンを潜っていただけあり、妻も雫も魔物が出現すると直ぐに対応していた。
3人パーティーだが特に問題ないようだ。
俺はこの階層に出現する魔物ではLvが上がらないため、2人の補佐に徹する。
基礎値が73ある妻はともかく、12しかない雫はステータスが低いから心配だな。
現在のLvが30なら、MP/HPが372しかない。
転移ではなく転生したから、地球の守護者からの恩恵も受けていないのか……。
何かステータスを底上げ出来る方法はないだろうか?
ティーナが記憶を取り戻せば、雫も前世の姿に戻るのかも知れないと思いつつ2回の攻略を終えた。
夕食に沙良ちゃんが、『鰻の蒲焼』と『肝焼き』を作り始める。
周囲に鰻のタレが焦げる香ばしい匂いが漂い始め、お腹が空く。
「鰻かぁ~、いいな!」
『鰻の蒲焼』を中に入れた『う巻き』を、冒険者達へお裾分けしていた。
この匂いの中、鰻を食べられないのは可哀想だと思ったんだろう。
「あ~美味しいなぁ。酒が飲みたい!」
日本酒があれば最高なんだがと思いながら、焼き立てで熱々の『蒲焼』を食べる。
まだ米が見付からないらしく、主食がない分余計にそう感じる。
そして俺は、ガーグ老から効果のある『鰻の蒲焼』を聞いたのをすっかり忘れていた。
その夜――。
息子がやたら元気になり、食べたのはダンジョン産の鰻だと気付く。
精力剤の効能がある魔物を食べさせるとは……、娘は知っているんだろうか?
俺は隣でポーションを飲み、すやすやと眠っている妻を起こさないよう1人で処理をし情けない気分を味わった。
もう絶対、鰻は食べないでおこう! 食べるならホーム内の店だけにしないと……。
翌日、火曜日。
摩天楼のダンジョンで鉱物採取をしている時に、石化した竜の卵を発見したと娘が見せてくれた。
賢也君と尚人がヒールを掛け、石化の治療をしているらしい。
「風太は元気かなぁ」
王宮にいる風竜を思い出し、卵の表面を撫で思わず口にする。
竜笛はガーグ老達が持っているだろうか?
王妃がカルドサリ王国を去った時、回収したかも知れないが……。
俺の生存を聞き、行動力のある母親が再び風太に乗ってカルドサリ王国へ来たらどうしよう?
王妃に通じる念話の魔道具は森の家に置いてあるから、やはり一度、取りに行くべきだな。
5日間の攻略を終え地上に帰還。
俺の傍でずっと隠形していたガーグ老達と違い、娘を摩天楼のダンジョンで護衛する『万象』達は毎週移動が大変そうだ。
15階と30階じゃなぁ。
先週、騎獣が届いたから少しはましか?
土曜日は午後から娘にLv上げをすると言われた。
昼食は義祖父の奢りで寿司屋に入り、その際、初めて義祖母を紹介された。
彼女も転生者らしく、迷宮都市に住んでいるみたいだ。
既に、この世界の人間と結婚し夫も子供もいるため、義祖父とは一緒になれないのか……。
前世の記憶があると複雑な心境だろう。
俺は結花が独身で良かった。
姿が変わってしまい20歳になったとしても、妻である事に違いはない。
もし妻に俺以外の夫がいたら、ショックで倒れるかも?
食後に異世界の家へ移転し、娘が摩天楼のダンジョンに出現する魔物を出す。
俺はこの機会を利用し、Lvが上がっても不自然に思われないようせっせと倒した。
義祖母の得物が薙刀で驚いたが、あれは義祖父が鍛えた物だな。
腕もかなりのものだから、きっと関係者なんだろう。
妻のLvが35に上がったというので、俺も同じLvになったと合わせておいた。
このままLv70まで上がるといいんだが……。
Lv上げを終えホームに戻ってくる。
「伯父さん。これから雪ウサギのマントを注文したいんだけど、時間は大丈夫?」
「あぁ、いいぞ。店を教える約束だったな。じゃあ、王都に行こう」
「王都? それなら俺も行きたい!」
沙良ちゃんがこれから義父と王都へ行くと聞き、俺も便乗させてもらう。
娘と外出するなんて楽しみだなぁ。
王都へ移転し、義父の知っている店に移動する。
昔、響が王宮から連れ出してくれた時を思い出す。
まぁ、こんな貴族が入るような高級服店へは行かなかったけど。
そもそも王族であったヒルダが着る物は、全て女官達が管理していた。
俺が買い物をしたのは武器くらいか?
雪ウサギのマントを仕立てるのに、肝心な雪ウサギが皮の状態になっておらず冒険者ギルドへ換金しに行く事になった。
ゼリア様が、王都のギルドマスターは白頭鷲の獣人だと言っていた気がする。
ヒルダの知り合いじゃないだろうな?
冒険者ギルドの解体場で娘が雪ウサギを出すと、担当者が慌てた様子で席を外してしまう。
少しして、貫禄のある老人と一緒に戻ってきた。
「新しい階層を攻略した冒険者が来たというから期待したのに、お主か……。何で摩天楼のダンジョンで狩った魔物を持ち込むのだ、紛らわしい!」
「悪いな、マントにしたかったんだ。皮だけ引き取りたいんだよ」
「雪ウサギの皮を持っていかれたら、利益が出んじゃろ。儂への嫌がらせか?」
どうやら、王都にあるダンジョンでは出現しない魔物の換金を依頼したらしい。
「あの……。他にも沢山あるので良ければ換金します」
「おぉ、サラちゃん。そうしてくれると助かるわい」
皮を引き取られたら利益が出ないと言われた娘が、追加で雪ウサギを10匹出す。
「傷のない上物だな。摩天楼の常設依頼より3枚金額を高くしてやれ」
へえ、傷の状態で換金額が変わるのか。
俺は解体場にくるのが初めてだったから、周囲を興味深く見つめた。
冒険者が魔物を倒しても解体しないのは、ギルドで引き受けてくれるからだろう。
魔石以外に価値がない魔物は魔石を取り出す必要がある。
マジックバッグという魔道具があるおかげで、魔物はそのままの状態で運べるから合理的だ。
「おや、新顔が1人増えておるではないか。ソウ、紹介くらいせんか」
「あぁ、娘の旦那だ」
「どっ、どっちの娘の方じゃ!?」
「ア……結花の方だよ」
「むぅ、些か年が離れ過ぎている気がせんでもないが……。儂は、ギルドマスターのランドルという」
あぁ、この老人が白頭鷲の獣人か。
ヒルダ時代に会った記憶はないな。
「夫の樹です」
「夫……」
王都のダンジョンを攻略していた妻を知っているのか、夫だと言うと絶句していた。
しかし、俺をしげしげと見つめたと思ったら顔色を変える。
「まさか……。第二王妃は生きておられたのか?」
何故ヒルダを知っているんだ!
ここでも俺は秘密にしないといけないらしい。
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