「ここを調べてみましょ。私の予想ではダンジョンじゃなく、別の場所に移転したんだと思う。もしかしたら他国の可能性もあるわね。住人に話し掛ければ何処か分かるんじゃないかしら?」
「言葉が通じるといいけど……。私が話そう。姉さんは、もし敵対行動を取られた場合、逃げてくれ」
「容姿を見る限り、普通の人間に見えるから大丈夫よ。帝国人の特徴はないわ。アシュカナ帝国じゃない事だけは確かね」
「それでも用心した方がいい」
茜はそう言うと、ダイアンに方角を指示し人がいる地上へと降りていく。
その後ろをシルバーに付いていかせる。
茜は畑が広がる場所を選んだようだ。
野菜の収穫をしている女性に笑顔で話し掛ける。
「こんにちは、少し話をいいかな? 他国から来たので、この辺りの地理を教えてほしい」
どうやら男性と間違えているみたいで、妹を見た女性が頬を染める。
そして言葉は通じているようだ。
「ええ、喜んで。ここはエンカの町よ。貴方は冒険者でしょ? 大型ダンジョンへ潜りに来たのね。ドワーフの国だから、良い武器も沢山あるわ。あぁ、でも残念ね。国一番の名匠でもあるシュウゲン王は、他国に行ってしまい不在なの」
ちょっと待った!
ドワーフの国というのも驚いたけど、シュウゲン王って祖父の事!?
「あぁ、それは残念だ。是非、シュウゲン王の鍛えた剣が欲しかったな」
「あの方は別大陸にいらっしゃるから、会うのは難しいと思うわ」
「どの国にいるんだい?」
茜は祖父の名に表情を変えず、確認するため質問を続ける。
「確か今は、カルドサリ王国だった筈よ。数百年前、妻を探しに行くと言ったきり国へは戻っていないの」
「カルドサリ王国か……、教えてくれてありがとう」
あぁ、これは決定だ。
シュウゲンさんは、王だと何故黙っていたんだろう?
それに、北大陸からカルドサリ王国まで来た方法が気になる。
もしかして、ドワーフ国のダンジョンにも同じような移転陣があるのかも?
後で話を聞いてみよう。
「あのっ、一緒にいる女性は恋人ですか?」
この女性は積極的だなぁ。
最初に恋人の有無を確認するとは……。
偽装とはいえ、茜には旦那さんがいるけどね。
「私の姉だよ」
「姉!? あぁ種族が……。この町にあるダンジョンは100階層を超えると言われてるから、攻略するまで暫く滞在されますよね?」
「一度潜ってしまえば半年以上は帰還しないと思う」
寂しそうな表情をした女性にお礼を伝え、妹はさっさとダイアナに騎乗してしまう。
向けられた好意に気付いてないのかしら?
私もその場を後にした。
それにしても、国だけじゃなく大陸が違うとは思わなかった。
「ドワーフの国とは予想外だ。しかも祖父は、この国の王だったらしい。長い間、王が不在の状態で問題ないんだろうか?」
「驚いたわよね~。シュウゲンさんはサヨさんを探していたみたい。一応、居場所も伝えているようだしドワーフの王は鍛冶の腕が重要なのかも? 101階層の場所は分かったけど、この分だと102階層も他国の可能性が高いわね。きっと近くに大型ダンジョンがある場所へ移転するんだと思うわ。この移転陣を上手く使えば、別大陸へ簡単に行けそう」
「全ての移転先を調べる必要があるな。中には南大陸のアシュカナ帝国に繋がる階層もありそうだ」
この移転陣を使用すればマッピングより距離が稼げる。
私達は再び小屋に戻り、摩天楼ダンジョン99階へ移転した。
「茜。この小屋は、他の人に見えないと思う。多分ベヒモスを討伐した私達だけしか入れないし、宝箱と同じ仕様になってるんじゃないかしら?」
実際倒したのは私だけど、パーティーを組んでいた茜も対象者になったんだろう。
「父さん達が戻ってきたら、その辺りは確かめよう。この隠し部屋の件は、正直に報告した方がいい。他の大型ダンジョンにも移転陣があるかも知れない」
「そうね。隠しておくには事が大きすぎるわ。戻ってくるまで何処へ繋がっているか、出来るだけ多く調べておきましょ」
「あぁ、そうしておこう」
その後、時間ぎりぎりまで繋がっている階層先に移転を繰り返す。
結果、分かったのは101~110階層は北大陸にあるそれぞれの国だった。
111階層から先は、また別大陸かも知れない。
31階の安全地帯へ戻り、何事もなかったようにテント内で兄達の帰りを待つ。
「沙良、機嫌がよさそうだな。何かいい事でもあったか?」
私を見た瞬間、鋭い兄から突っ込まれ焦ってしまう。
「姉さんと土曜日、出掛ける予定なんだ。今から楽しみにしてるんだろう」
茜がすかさずフォローをして兄の疑問を受け流すと、
「えっ? 2人で外出するの? 俺も一緒に行きたい!」
旭が横から口を挟み手を挙げる。
「こら、妹達の邪魔をするな」
兄は旭が挙げた手を掴み降ろさせた。
恨めしそうな表情をして兄を見つめる旭には悪いけど、2人で色々調べたいから付いてこられると困る。
「ごめんね、女同士で行きたい場所なの」
「そうなの? じゃあ、また今度一緒に出掛けようね」
兄と仲良くジムでも行って下さい。
シュウゲンさんを実家に送り届け、迷宮都市ダンジョン15階の安全地帯へ戻った。
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